「文化」で自己弁護|田川市議会議長、不信任と懲罰動議に反省の色なし

昨年12月、政治資金パーティーを利用した自民党安倍派による裏金疑惑で関与が取り沙汰された同派の鈴木淳司前総務相が、2018から22年までの5年間に60万円の裏金を派閥から受け取っていたことを認め、売り上げキックバックについて「この世界で文化と言えば変だが、その認識があったのかなと思う」と述べ顰蹙を買った。

「文化」という言葉には習慣や習俗、言葉、価値観などいくつもの定義が与えられるが、どれを指すにせよ良い意味での話であって、決して悪い括りで使うべきものではない。かつて、「不倫は文化」と開き直った男優がいたが、世間は冷ややかな目でみていたはず。自己弁護で「文化」を用いる人に、ろくなやつはいない。

地方でも同じようなことが起きるようで、不信任決議を突き付けられた上に懲罰動議まで出された福岡県田川市の陸田孝則市議会議長が、問題視された不適切発言について「文化的独自性」と述べ、自己の正当化を図っていた。

■荒い言葉=「文化的独自性」に市民反発

発端となったのは、昨年12月1日の定例会で、公平公正さを欠いた議会運営で市民の議会に対する信頼を著しく失墜させたとして提出された議長不信任案が、賛成多数で可決したこと。これに納得できない陸田氏は、同月14日の全員協議会で合理的とは言い難い『見解』を表明。その中で、不信任案を提出した市議が所属する市議会会派シン・タガワを「約束や信義を守らない非常識会派」と攻撃、さらに「言行不一致」「悪意ある印象操作」「倫理観の欠如」「稚拙な行為」「議員としての資質に欠けている」「言論の自由をはき違えた放漫の最大の思い上がり」などと罵っていた。

穏当を欠く陸田議長の発言を問題視した不信任案提出者は、「 誹謗ひぼう中傷を受けた」として懲罰動議を提出。陸田氏の「文化」発言が飛び出したのは、懲罰対象となった同氏が反論の機会を求めた12月20日の市議会定例会だった。

少し長くなるが、「発言の一部を切り取った」という言い逃れができないよう、文字起こしした陸田氏の主張の主要部分を以下に示す。

はい、ありがとうございます。縷々、今聞かせていただきましたけども、私の見解というものを、今から述べさせていただきます。令和5年12月14日に開催されました全員協議会におきまして、私が述べた見解について、無礼な言葉を使用したとの理由で、懲罰動議が提出されておりますが、残念ながらこれは私の主張した私の議事運営の正当性について真意が全くもって正しく伝わってないことに起因すると思われるものであります。

本市、田川市は炭鉱で栄えた町であり、全国各地から集まってきた人々は地底の暗闇の坑道内で発生する有毒ガスや落盤、出水等の危険を承知で厳しい肉体労働を強いられ、日々生活を営んでまいりました。そこには、明日をどう生きるかという強い精神力、および生命観が必要だったのは当然であり、日々の生活において、本音でぶつかり合い、丁々発止と渡り合うのは日常茶飯事であることから、田川地区外の人々は、このような会話を聞いて、なんで喧嘩をしているのかと不思議に思うほどで、しかしこれがまさに、田川の良い、悪いにつけ、一つの文化的独自性であると理解しております。当然、私は田川の地で生を享け、田川で育ち、はや74年の人生を育んできましたが、その中で必然的に身に染み込んでいることについては、誇りであり、矜持と思っております。

さて、不信任決議の理由として、声を荒げた指摘していることについては、動議提出者の主観・感覚に他ならないということはいうまでもありません。動議提出者はこれまでどの程度田川のことを学んできたのかわかりませんが、まずは田川の成り立ち、歴史をしっかりと踏まえた上で、議員活動を行う必要があるところであると考えるところであります。

今回の議長不信任決議の理由に挙げられている各事案については、今さらいうまでもなく、事実誤認・事実無根のものであり、また信憑性もなく、私がそれらを客観的、倫理、論理的に完全に反論したことは、皆さん記憶に新しいところであると思います。

私は、全員協議会において、私の見解の本質に迫るような個別具体的反論はほとんどなかったと判断しており、議員各位におかれましては、私の見解についてご理解いただいたものと、安心しておりましたので、今回の懲罰動議については、まさに青天の霹靂であり、心底からおこり(発言のママ)を覚えるものであります。民主主義で自由な社会は、特に議会は、言論と表現の自由は大前提で保障されるべきで、基本的人権であるということはいうまでもありません。

また、今回の懲罰動議の提出については、前期4年間の本市議会における政治倫理を巡る議論を思い返せざるを得ません。令和3年10月26日、田川市政治倫理審査会は、田川市議会議員3名が、政治倫理基準に違反すると答申が出されました。私は市民の負託を受けた市議会議員が、このような指摘を受けることは大問題であり、この問題なくして本市の未来なしとの強い信念に基づき、調査特別委員会の委員長に就任し、諸問題の解決に奔走したものであります。その際、会議規則を踏まえない不規則ともとれる言動があり、審査も道半ばで改選を迎えるというような事態に陥ったのは、記憶に新しいのではないかと思います。これらを踏まえると、今回提出者1名賛成者2名の計3名の発議により、本懲罰動議が提出されたようでありますが、議案に記載の理由でそもそも懲罰になり得るのか、真相を読み解くには困難であり、私には全く理解に苦しむ次第であります。

今回の発言をもって、即懲罰動議を提出するようであれば、心に魂の込めた議論の妨げにはならないでしょうか?私は議員各位に問題提起をいたします。仮にそれが今回罷り通るようであれば、熟議の機関である議会の本分を全うすることができず、ひいては地方自治の本旨を実現することが困難になり、本市を非常に危険な非民主的な状況に陥れることになること。また、市民への情報提供を適切に行わなければ、一面的となり、真実を間違えて認識してしまうことを危惧してやまれないのは私だけでしょうか?田川市議会議員の公的な場における発言について、審議の保持に抵触すると巡って、懲罰動議の提出をちらつかせ、発言を自粛させ得るものであると、市民から判断されても仕方のないやり方については、会議の論の一つである発言自由の原則に対する大きな制約になり、悪しき先例になるものではないでしょうか?私は、議員各位の良心に問いたいと思っております。

私が初当選時、師と仰いだ大先輩からいただいた、木を見て森を見ずという言葉を思い出します。物事の細かい部分にこだわりすぎると、本質や全体像を見落としてしまうという格言であります。何事も俯瞰することが大事であるということです。今回の懲罰動議を見るにつけ、大先輩が当時私に言いたかったことの本質がやっと見えてきたような気がして仕方ありません。

最後に蒼天有眼、人がしていることは天がしっかり見ている、蒼天には目がある、ということを申し上げ、議員各位の懸命なご判断をいただくようお願い申し上げまして、私の見解を終わります。ご清聴ありがとうございました。

つまり陸田氏は、荒い言葉でシン・タガワ側を攻撃した点については認めざるを得なかったということ。それを、“炭鉱で栄えた田川地域の文化”だと主張して正当化していた。牽強付会もいいところだ。不信任という異例の事態を招いたことに真摯に向き合おうとしなかったばかりか、懲罰対象となった口汚さを「文化だ」と開き直った陸田氏――。市民の間からは次のような批判の声が上がる。

「乱暴な言葉使いが田川の文化なんて、とんでもない。悪い言葉使いなのも確かでしょう。陸田さんは、子供たちに『これが田川の文化だ』と胸を張って言えるんでしょうか?言えるわけがないですよね。もし『いや、言える』というのなら、そんな人が議長だなんて許せません。ネットで問題の発言を確認してみましたが、陸田さんは威圧的で怖い。不信任されたんですから、さっさと辞めてほしいですね」(田川市在住・30代主婦)

「不信任に対する陸田さんの主張は、聞き苦しいものでした。決して合理的な反論とは言えない。『言論と表現の自由は大前提の基本的人権』とか『発言自由の原則』とか言っているが、そもそも不信任になったのは、気に入らない議員らの発言を遮ったり、同じ会派の議員を特別扱いしてきたせいでしょう。矛盾している」(田川市在住・50代教員)

「見解表明というか反論というか、とにかく難しく話そうと努力されたことは分かるが、むきになっているだけで、理解に苦しむ。まったく共感できない。改めて過去の議会の動画を見てみたが、確かに陸田氏の議会運営は公平公正を欠いていたケースがあり、高圧的な姿勢であることも確かだ。不信任やむなし」(田川市在住・50代会社経営者)

陸田議長が見解の中で述べた“蒼天有眼”は、中国の李克強元首相が引退の際につかったもの。もちろん意味を理解した上での引用だろうが、これは陸田氏自身に向けられるべき言葉ではないか?ハンターは近く、田川市の新浄水場建設工事に絡む疑惑について詳細を報じる予定だ。

*田川市議会は18日、懲罰特別委員会を開き、陸田議長への懲罰動議について議論。地方自治法が規定する4段階の懲罰(公開の議場における戒告、公開の議場における陳謝、一定期間の出席停止、除名)の内、「陳謝」を命じることを決めた。

 

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