「警察一家」擁護としか思えない不当な捜査指揮で強制性交事件の実相をねじ曲げた鹿児島県警が、数十件分もの捜査資料を流出させながら公表せず、内々で処理しようとしていることが分かった。県警は、違法な情報漏洩の実態を把握しながら、隠蔽に走る構えだ。
■発端は「不当な捜査指揮」
ハンターは昨年10月から、鹿児島県警幹部による不当捜査の実態について報じてきた。問題視したのは、強制性交の疑いで鹿児島中央署に告訴状を提出された男性が、逆に被害者の雇用主を名誉棄損で訴えた件の捜査指揮。二つの事案の捜査を指揮した中央署の当時の署長は、現在の県警刑事部長・井上昌一氏で、同氏は鹿児島西警察署が対応すべき名誉棄損事案を強引に中央署で処理させ、先に表面化した強制性交事件を捜査中だった強行犯係の警察官に対応させるという異常な捜査指揮を行っていた。その証拠が、県警内部から流出した下の2枚の「告訴・告発事件処理簿一覧表」。いずれの事案にも「署長指揮」と明記してある。
赤い囲みで示した処理簿の記述から明らかな通り、中央署強行犯係が同一人を“被疑者”として『取り調べ』しながら、同時に“被害者”として『聴取』を行うという、テレビドラマでもあり得ない事態。さらに、二つの事件に関する捜査が行われていた間、強制性交の疑いが持たれていた男性の父親が、現役の警部補として中央署に在籍していたことも判明している。(参照記事⇒①)
子供でさえ“警察の正義”を疑いかねない暴走に、県警周辺から上がったのは「不適切な捜査指揮だ」「捜査をやり直すべき」といった声。上掲の2枚は、弱者を切り捨て組織防衛に走る県警幹部に反発した「正義の関係者」が流出させたものとみられていた。
■「捜査情報漏洩」で問われる県警の姿勢
確かに、2件の事案の処理経過は不当捜査の証拠だが、他方では「情報漏洩」の証拠でもある。
県警が本サイトの報道を確認しているのは確実で、処理簿に氏名の記載のある関係者に記事の概要を伝えた上で、個人情報が流出したことへの謝罪を申し入れてきているという。情報漏洩を認めたということだ。しかし、鹿児島県警は今日までその事実を公表しておらず、謝罪会見も開いていない。
ハンターが入手した2枚の文書に記載されているのは、4件の事案の処理状況だ。つまり1枚に2件。上掲の2枚だけで民間人7人、警察官5名の氏名と3社の法人名が記載されており、黒塗りは一切ない。民間企業や自治体なら、情報漏洩が認められた時点で概要を公表し、謝罪を行うのが普通。厳格な個人情報保護が当たり前となった現在では、民も官も関係なく、情報管理についての説明責任を果たすことが求められている。しかし、鹿児島県警は流出したのが絶対に漏らしてはならない「捜査情報」であるにもかかわらず、事実関係を公表していない。何故か――?
疑問への答えは一つしかない。漏洩した事件の情報が、井上刑事部長が署長在任中に捜査指揮を執った事件に関するものだからだ。処理簿に強制性交事件の捜査を歪めた証拠がある以上、情報漏洩についての会見を開けば、その点を突かれるのは必至。刑事部としては、なんとしても避けたい事態だろう。ハンターには、不当捜査や情報漏洩についての公表を拒む刑事部長周辺の動きについても詳しい情報が寄せられている。
前述の通り、これまでハンターが報じてきた流出文書に記載された事案は4件。“少ない関係者への内々の謝罪で済ませて幕引きを図ればいい”というのが鹿児島県警の最終判断だったとみられるが、流出した文書を2枚と決め込む判断をしたのは早計だった。実は、流出した文書は多数で、数十件分の捜査情報が洩れていることを明らかにしておきたい。
個人情報の漏洩に罰則があるのは周知の通り。取り締まる側の警察に重大な情報漏洩がありながら、それには頬かむりというのでは話になるまい。県警は先ず、不当な捜査指揮の証拠となる処理簿を含む数十件分の捜査情報が漏れたことを公表し、県民に謝罪すべきだろう。
鹿児島県警を巡っては昨年10月、本部留置管理課に勤務する現職の男性巡査長を、13歳未満の少女に対する強制性交の疑いで逮捕しながら公表せず、記者会見も拒否。さらに、霧島署に勤務する50代の男性警察官がストーカー規制法違反の疑いで書類送検されたことを、地元紙・南日本新聞がスクープするまで隠していたことも分かっている。(参照記事⇒②)
守るべき県民を二の次にし、「警察一家」を庇うため真実に蓋をしようとする腐敗組織・鹿児島県警――。捜査情報漏洩とどう向き合うのか、注目したい。