「岸田の乱」― 派閥解散の胡散臭さ

今月19日、東京地検特捜部が自民党安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティー裏金事件に関する刑事処分を公表。裏金が6億円超の安倍派、2億円超の二階派の会計責任者を政治資金規正法違反(不記載)で在宅起訴し、裏金が3千万円超の岸田派の会計責任者は略式起訴にした。大山鳴動して鼠一匹とはこのことで、大物政治家逮捕を見送った検察には国民から厳しい批判の声が上がる状況だ。

そうした中、岸田文雄首相が唐突に「派閥解散」を宣言した。「岸田の乱」である。

◇   ◇   ◇

政治家個人については、安倍派からキックバックの裏金5,145万円を隠ぺいしていた大野泰正参院議員を在宅起訴。同じく4,300万円を不記載にしていた谷川弥一衆議院議員を略式起訴となった。また、二階俊博元幹事長の政治団体「新政経研究会」の収入3,500万円を収支報告書に記載していなかったとして、秘書が略式起訴されている。

肝心の安倍派5人衆ら幹部のうち、世耕弘成前参院幹事長側には1,500万円超、松野博一前官房長官側にも約1,000万円が裏金として渡っていたが、刑事責任は追及せず幕引きとなった。

鼠数匹が軽い処分で受けて終わるという結末となった裏金事件。捜査終結を見据えたように動いたのが岸田首相だ。東京地検の処分発表前日、岸田派の会計責任者が立件されることがニュースになると、派閥幹部を呼び寄せ「岸田派解散」を通告。首相自ら取材に応じ、池田勇人元首相が創設した伝統派閥「宏池会」の解散を発表した。「岸田の乱」を受け、特捜部に立件された安倍派、二階派も派閥総会で「解散」を発表している。ある自民党の大臣経験者はこう話す。
「自民党は派閥同士がしのぎを削って政権与党の座を維持してきた。派閥解散となればその歴史も終わってしまう。岸田総理は、最大派閥である安倍派の大混乱に乗じて思い切った奇襲に出てきた。安倍派、二階派も面食らっただろう」

2021年9月の自民党総裁選で岸田首相に勝利をもたらしたのは派閥の力。党内最大の安倍派に加え麻生太郎副総裁の麻生派、茂木敏充幹事長の茂木派をがっちりと固め、首相の座についた。しかし岸田氏は、慣例となっている派閥離脱を拒み、宏池会会長に居座っていた。

重い腰をあげ、会長を自任したのはパーティー裏金事件が表面化した昨年12月。それが一転して、自ら派閥解散ドミノを仕掛けた格好だ。

「本当は安倍派が最初に解散すべきで、しっかりケジメをつけてクリーンな政治をアピールすべきだった。だが、トップの会長不在で何も決められない。間隙をぬって総理が岸田派解散を決定。安倍派はそれを追随するしかなかった。裏金事件のマイナス部分を、総理だけがプラスになるように持って行かれた」(安倍派の衆議院議員)

だが、麻生派と茂木派は派閥解散に慎重な構え。解散を表明した3派とは、共同歩調をとらないものとみられている。岸田氏が宏池会解散を打ち出した翌日、麻生氏は自民党本部を訪ねて面談。麻生派の国会議員は、怒りをにじませこう語る。
「(麻生)会長は、『麻生派は解散しない。うちは裏金もなく検察の処分もない』と伝えたそうです。岸田総理をよく思っていない人がいても、会長が『うちは岸田でいく』と言えば、一致結束して支えてきた。それが岸田派だけさっさと解散していい子ちゃんぶる。さすがにそれはおかしいでしょう」

これまで、難局に差し掛かる度に麻生氏を頼った岸田首相。「岸田の乱」に世論が好意的となる中、党内では一気に「岸田おろし」に向け火ぶたが切られることも想定される。しかし、元日に能登半島を襲った巨大地震への対応はいまだに不十分で、政争による空白など許されない状況だ。岸田派の国会議員が、先を読む。
「総理総裁の次の最有力候補は、麻生氏と良好な関係の茂木さん。しかし、岸田派をはじめ3つの派閥が解散しているのに、麻生派と茂木派が派閥政治は解散しないとなれば、国民は政治に対する不信感は一層深まります。自民党の支持率も低迷したままにななるでしょう。そうなると、次の解散総選挙では自民党自そのものが政権与党の座から転落しかねません。麻生派と茂木派だけが残るということになれば、能登半島地震で大変な中、カネのために派閥を続けるのかとイメージが悪くなるばかり。早晩、派閥解散に追い込まれますよ」

岸田首相の奇襲が、本当の改革になるか否かは疑問だ。自民党の歴史を見ると、1989年に起きたリクルート事件という大スキャンダルの後、まとめられた「政治改革大綱」には《派閥の弊害除去と解消への決意》と明記。さらに、《派閥と政治資金のかかわりや派閥の内閣、国会および党の全般にわたる人事への介在、派閥本位の選挙応援など、さまざまな弊害を生んでいる。かりに、現状のような派閥中心の党運営が続くならば、党が真の意味での近代政党、国民政党へ脱皮することは不可能である。したがってわれわれは、すくなくとも早急に次の措置を講ずることにより、派閥解消の第一歩とする》、《われわれは、派閥解消を決意し、分野を特定して活動するいわゆる族議員への批判にこたえ、さらに、党運営においては、人事・財政・組織の近代化をはかり、世界をリードする政策を立案・実行できる政党への脱皮をはかる》とまで踏み込んでいた。しかし、派閥は解消されるどころか肥大化。カネと人事を握り、派閥の悪弊は蔓延った。小泉純一郎元首相は「自民党をぶっ壊す」と宣言し高支持率を維持したが、派閥解散に追い込めなかったのは周知の通りである。

昨年12月7日の産経新聞に岸田首相と岸田派についての、こんな記事がある。

《今年9月に山梨県富士吉田市で開いた派の夏季研修会では、官邸から駆け付けただけでなく、所属議員同士の親睦を深める懇親会に長居したという。派の幹部は「首相は機嫌がよかった。時間だから帰るかと思ったが、なかなか腰を上げなかった。派閥が好きなんだ」と周囲に語っていた》

「岸田の乱」が本当に政治改革につながるのかどうか――自民党の「口先」に騙されないよう見極める必要がある。現時点で、岸田首相への「称賛」は不要だ。

 

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