九州で顕著な安倍・麻生両元総理の影響力低下

総選挙がスタートし、報道各社や政党が実施した情勢調査の結果が出回り始めた。ハンターのホームグラウンド、九州でも興味深い数字が並んでいる。

■長崎1区:安倍氏の元秘書が大苦戦

安倍晋三元首相が、自ら「公認候補として出してほしい」自民党長崎県連にねじ込み、長崎1区から出馬させたのが初村滝一郎氏。

国民民主党の前職で2期目を狙う西岡秀子氏との対決だ。報道各社の情勢調査では西岡氏がリード。自民党が直近で行った調査でも、西岡氏が43%、初村氏が31%となっている。

長崎1区の自民党県議の話。
「地元では違う候補者を検討していた。それが公募したとたん、いきなり落下傘のように初村がやってきた。安倍元総理自ら、県議や市議にまで電話で初村氏を猛プッシュ。県連としては、初村氏を選ぶしかなかった。しかし、高圧的にやられたらしこりが残るが当然で、それが情勢調査の数字に現れている」

初村氏は、長く安倍元首相の秘書として支えてきた人物で、批判を浴びた森友・加計や、桜を見る会の疑惑も裏で支えて乗り切った。安倍氏には、なくてはならない存在だったという。

初村氏は長崎1区の出身、祖父で同姓同名の初村滝一郎氏は県議会議員から参院議員となり、労働大臣も務めた。

父の初村謙一郎氏も元衆院議員(1期)。安倍氏とは、南カルフォルニア大学の留学の同期生で親しく、その仲間の一人が加計学園の加計孝太郎理事長だ。初村候補はまさに「安倍直系」と言えるだろう。

「初村氏の一族と安倍氏は切っても切れない仲。だが、謙一郎氏の地元での評判は芳しくないのです」(前出・長崎県議)

謙一郎氏は、オレンジ共済事件で実刑判決を受けた元参院議員の友部達夫と親しく、多額の献金を受けていたことが発覚し、事件への関与を疑われた。また友部氏が理事長の財団の理事にも就任していたことがある。さらに、細川護熙元首相と友部氏の会食をセッティングするなど活発に動き、友部氏から3,000万円を受け取り、参院選における新進党の比例名簿上位に友部氏を入れたという疑惑まで浮上した。そのせいもあって政界引退。今も影響が残っているというのだ。

前出の長崎県議がこう語る。
「安倍さんは初村氏の情勢がよくないことを把握しており、党本部に掛け合って、人気のある小泉進次郎前環境相や高市早苗政調会長を応援に寄こした。安倍氏自身も長崎1区に入る予定もあると聞いている。だが、地元の反応は冷たい。苦戦が続くのではないか」

「一強」を謳われた元総理を支えてきた候補者が苦戦する長崎1区は、安倍政治の終わりを印象付ける選挙区になりそうだ。

■福岡5区・8区:麻生派元大臣が苦しむ公認争いの後遺症

そして、もう一人、思わぬ事態に直面しているのが、福岡8区を地盤とする麻生太郎副総裁だ。自民党の情勢調査の数字では、麻生氏は41%と共産党とれいわ新選組の候補者を大きくリードしている。しかし、よく検討してみると共産党の河野祥子氏は14%、れいわの大島九州男氏が15%。もし野党統一候補となっていれば、単純計算で麻生氏41%に対して野党は29%。展開次第では、麻生氏も安泰とはいかなったことになる。

「麻生氏の数字がこんな低調というのは過去にはなかったと思う」――ある自民党幹部の、偽らざる感想だ。

すでに報じたように、福岡5区では激しい争いの末に党本部から「公認」を勝ち取った麻生派の原田義昭氏が立候補。だが、マスコミの情勢調査では、原田氏が立憲民主党の堤かなめ氏に3%のリードを許している。自民党が今年になって行った3回の情勢調査で、常に原田氏を上回っていた元県議会議長を引きずり降ろした後遺症だ。福岡県内であっても、麻生ブランドは通用しなくなっている。

麻生氏本人は公示日を地元・福岡8区で迎え、こう演説した。
「いろんな人のご尽力、ご協力でコロナがこの程度で止まった」「この選挙で勝った方が政権を担う。このたび立憲――よう名前が変わるんでわかんなくなる、立憲なんとか党、立憲社会、いや立憲民主……」

聞いていた地元民が顔を歪めて批判を口にした。
「この次の選挙では、麻生さんが引退するのではないかと囁かれています。息子さんが後継者でしょう。そんな中、今日のような上から目線の演説はやめたほうがいい。福岡8区という選挙区が、こういう上から目線を許す地域だと思われてしまう。こんな態度が続いてきたので、票も昔ほどは出なくなっている。投票率が下がったせいもありますが、昔は15万票くらいとっていたのに、今では12万から13万程度。福岡では、ハッキリ言って不人気なんです。今回を花道にされた方がいい」

2人の元首相が、意外なところで力の低下をみせいている。

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