菅義偉首相や二階俊博自民党幹事長との関係で知られる民間のコンサルタント会社が、新型コロナウイルスのワクチン供給で注目を集める製薬会社「ファイザー」の求めに応じて、監督官庁である厚生労働省の幹部に、接待を行っていたことが分かった。
複数の関係者の証言によれば、接待の実務を担っていたのは、近年政財界のフィクサーとして知られるようになった矢島義也(本名:義成)会長が率いるコンサル会社「大樹総研」。同社は2016年から18年頃にかけて、ファイザーの依頼を受け、厚生労働省の局長や次官クラスの官僚を、都内の料理店などで接待していたという。
大樹総研とファイザーは、コンサル契約を締結。契約金は、少なくとも1億をくだらない額だったとされ、接待の結果、医薬品に関する厚生労働行政に何らかの影響を与えた可能性が否定できない。
新型コロナのワクチン供給を巡って、交渉相手となった日本政府に、「首相を出せ」と主張したことが報じられているのがファイザー。数年前までは、コンサルを使ってまで政府に食い込もうと画策していたことになる。
■菅・二階両氏と昵懇の「大樹総研」
接待を行っていたとされる大樹総研の創設は2007年(平成19年)。資産家の矢島氏が、静岡で昔からの友人関係にあった鈴木康友氏(元民主党衆院議員。現・浜松市長)が選挙に落選して浪人中だったため、同じように落選して充電中の政治家が、しっかり勉強できるようなシンクタンクを作ろうということで立ち上げた組織だ。設立時のこうした経緯から、当初は旧民主党の政治家たちと関係が深かった。
設立当初は、鈴木のSと矢島のYで「S&Y総研」。日銀を辞めて政界に転じ、落選した経験のある池田健三郎氏(2000年に石川3区から民主党公認で出馬し落選。2003年には神奈川県大和市長選挙に出馬し落選)が2009年に入社したことで飛躍のきっかけをつかみ、熊谷弘元通産相、山口敏夫元労相など矢島氏の父親とつながりのあった政治家との縁で永田町や霞が関へと人脈を広げたという。
2010年頃には政治・経済がらみの発言や著述で活躍していた徳川宗家19代・徳川家広氏と接点が生まれ、同氏が大樹総研の役員に就任(その後退任)。社名を徳川宗家のことを表す「大樹」と変更したのはその頃だ。
矢島氏本人は高卒だが、スタッフには東大卒の財務省キャリア官僚出身者から元法務大臣、辣腕弁護士まで一流ブランドをそろえるようになる。ちなみに、かつて客員研究員として名を連ねていた若田部昌澄氏は、現在の日銀副総裁である。
こうした経緯を経て、大樹総研は保守政界の中枢にも食い込んだ。2016年5月に矢島氏が2度目の結婚をした際には、帝国ホテルで開かれた披露宴に菅氏と二階氏がそろって出席していたことが確認されている。(下は、大樹総研発行の冊子)
■存在感増すフィクサー
一部の関係者だけが知る存在だった大樹総研が注目されるようになったきっかけは、2017年10月に行われた総選挙の際、細野豪志衆議院議員に渡ったとされる5,000万円の裏金問題。裏金を提供したとされる「JC証券」の親会社「JCサービス」と、細野氏への資金提供を斡旋したとみられていた大樹総研が、東京地検特捜部の捜査対象となり関係先の家宅捜索が行われた。立件は見送られたが、細野氏はその後、矢島氏が親しいとされる二階俊博自民党幹事長が率いる「志帥会」に入会している。
菅首相は、地銀再編の仕掛人であるインターネット金融大手SBIホールディングスの北尾吉孝社長とも昵懇の仲。両人を引き合わせたのは、誰あろう矢島氏だ。首相を支えるフィクサーとして存在感を増す矢島氏の大樹総研が、新型コロナのワクチン供給で注目を浴びるファイザーの依頼で厚生労働省にまで手をのばしていたとなれば、政権が受ける打撃は計り知れないものとなる。