新型コロナウイルスのワクチン開発で知られる製薬メーカーの「アンジェス」が今月7日、『新型コロナウイルス感染症(武漢型)向けDNAワクチンの開発中止及び新型コロナウイルス感染症の変異株に対する改良型DNAワクチン並びにその経鼻投与製剤の研究開始に関するお知らせ』を公表。同社が、新型コロナウイルスのワクチン開発を断念することがわかった。
これまで、最終治験の取り止めまでは発表してきたアンジェス。今回のアナウンスで、吉村洋文大阪府知事が「日本初、大阪産コロナワクチン」とはしゃいでいたワクチン開発自体が、失敗に終わったことがハッキリした。
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新型コロナウイルスの感染拡大がはじまって間もない2020年3月にワクチン開発を開始したアンジェス。民間企業なので失敗は自社で責任をとればいい。むしろ問われるべきは、同社の業績や株価アップに「加担」してきたの吉村洋文大阪府知事の責任だろう。
ハンターでは、新型コロナを巡る吉村知事の言動について、大きな問題があると何度も警鐘を鳴らしてきた。(参照記事⇒コロナワクチン開発失敗で問われる吉村大阪府知事の責任|囁かれる株価操作への疑念)。
一昨年4月、大阪府と大阪市は、アンジェスと新型コロナウイルスのワクチンを共同研究している大阪大学などと『新型コロナウイルス感染症にかかる予防ワクチン・治療薬等の研究開発に係る連携に関する協定』と題する協定を締結。5月20日の記者会見では、パナソニックから新型コロナウイルスのワクチン開発に大阪府に寄付された2億円のうち、1億5千万円を大阪大学に割り当てたことを公表し、「まず大阪大学においては、DNAワクチンの開発を今進めています。これは7月に現実に、動物実験はやっていますから、7月からは現実に治験として人に打つ、そういったことを開始していく予定です。10月には対象者を拡大した治験というのもやっていく予定です」と説明していた。
同年6月17日の記者会見では、さらに踏み込んで「スケジュールですけども、今、大阪大学の森下教授が中心になって進められているワクチンです。これはDNAワクチンと申しまして、新型コロナウイルスを不活化させて、不活化というのはちょっと弱らせてやるというワクチンじゃなくて、そのDNAを組み込んだワクチン、ワクチンの種類としては非常に安全な部類に入ります」、「10月には、安全性を確認した上ですけども、これを数百名程度の規模に拡大していきます。対象者を拡大します。そして、今年中には10万から20万の単位での製造というのが可能になります。ただ、これを現実に、治験という手続でありますので、現実にこれを一般のワクチンとして投与するためには国の認可というのが必要になります。国の認可を得るというのが来年のおそらく春から秋にかけてということになりますので、この来年の春から、いわゆる一般投与としての実用化というのをここで目指していきたいと思っています」とまで語っていた。
(*下は2020年6月の会見で公表された資料の画像)
自信満々に語った吉村知事だったが、ファイザー、モデルナなど海外のワクチン開発が先行する中で、アンジェスの遅れが指摘されるようになる。しかし、医者でもない素人の吉村知事は、2020年11月になっても「大阪産ワクチンは安全性を重視。日本人に合ったようなワクチンを目指し、ゲームチェンジャーになると思っている」とまで言い切っていた。
その後の動きは本稿の冒頭に記したとおり。「日本初、大阪産コロナワクチン」で大風呂敷を広げた吉村知事による一連の発言は、大嘘だったと言われてもおかしくない格好だ。パナソニックからの寄付2億円のうち1億5千万円は、民間企業であるアンジェスに渡り、紙くず同然に――。1億5千万円を別のコロナ対策に充当していれば、どれだけ多くの府民が救われたことだろう。
今月9日、記者会見で吉村知事は「これは実際に研究した森下さんから聞いた話に基づいての発信。その通りにいかないのは残念。チャレンジがないと成功はない。国産ワクチンチャレンジは重要です。チャレンジして結果的にうまくいかない。(私の記者会見での発言は)研究者でないとわからないと森下さんに聞いている、想像して独自に発信したのではない」と責任逃れに終始した。
これまでの配信記事で何度も指摘してきたが、吉村知事を巡る問題は、府民に「ガセ」の情報を掴ませ、1億5千万円をアンジェスに流し込んだことだけにとどまらない。
吉村知事の発言のたびに上昇したのはアンジェスの「株価」。同社のワクチン開発に、大阪府が「お墨付き」を与えたことで、マーケットに影響を与えたのは紛れもない事実だ。コロナが猛威を振るう前の2019年12月頃、同社の株価は600円台後半。ところが、吉村知事が記者会見で「後押し」した途端に株価は急騰。2020年6月17日に吉村氏が会見で森下教授の名前を出したところ、18日には2,324円にまで急上昇していた。たった半年で、4倍もの値をつけていたのだ。
だが当時から、「アンジェスのレベルで、本当にワクチン開発が可能なのか?」として大阪発のワクチンを疑問視する府の職員は少なくなかったという。懐疑的な意見や見方がある中。「会見で踏み込んだ発言をしたのは吉村知事の決断」(ある大阪府幹部)だったという。
9日の会見で吉村知事は、反省するどころか「変異株について、アンジェスはアメリカのスタンフォード大学と共同研究すると聞いている」と、相変わらずPRを続ける節操のなさ。「政治は結果責任」と繰り返してきた吉村知事は、巨額の公費を投入してまでのめり込んだワクチン開発の失敗について、きちんと責任をとるべきだろう。