自民党の菅原一秀元経産相は、2017~2019年にかけて選挙区内の有権者に、枕花名目で生花18台(計17万5,000円相当)を贈ったり、秘書を通じて菅原氏の名義で香典(計約12万5000円分)などを渡したりしたとして、公職選挙法(寄付の禁止)違反容疑で刑事告発を受けた。その後、東京地検特捜部は「法を無視する姿勢が顕著とも言えない」という不思議な理由で、20年6月に不起訴処分(起訴猶予)に――。だが、東京第4検察審査会が今年2月24日付で「起訴相当」と議決したことで、特捜部に再捜査が求められることになった。
■「起訴」迫られる東京地検特捜部
「起訴猶予」とは、犯罪事実はあるが起訴するまでには至らないというもの。事件発覚当時経産相だった菅原氏の大臣辞職が「社会的制裁」と評価され、起訴を免れた経緯がある。
仮に特捜部が再度起訴を見送った場合、検察審査会が二度目の「起訴相当」を議決すれば、菅原氏は強制起訴となり法廷で裁かれる。検察審査会への申立代理人となった郷原信郎弁護士は、次の展開をこう読む。
「起訴猶予で犯罪事実があったことを立証した東京地検特捜部としては、強制起訴だけは避けたいところ。自分たちの手で起訴するしかない」
■安倍前首相に贈られたのは「ローヤルゼリー」
菅原氏にかけられているのは、生花と香典で合計30万円ほどを配ったという容疑。だが、事件を最初に報じた週刊文春は菅原氏の秘書の証言などから「総額300万円」と報じており、特捜部が菅原氏や政権に「忖度」したという声もある。
起訴猶予が“甘い処分”だったことを裏付ける証拠は少なくない。申立書やその補充書には、菅原氏の「悪徳手口」も記されているのだが、菅原氏の秘書は常に「菅原一秀」と名前が入った香典袋を5枚から10枚を持たされ、即座に対応することを求められていたという。具体的なケースも明らかになっている。
・2019年1月27日、地元である支持者の訃報が伝えられた。すると、それを知った菅原氏からLINEで「1万円」と連絡が入る。秘書は手持ちの香典袋に1万円を入れ、遺族のもとに向かう。
・2019年3月29日、地元で別の支持者の訃報が伝えられた。秘書が「香典はおいくらでしょうか?」とお伺いを立てると、「俺が17:15に行きます」と菅原がLINEで返信。さらに、1万円相当の供花を贈った。
香典や花を贈った内容が、細かく記されているのだ。
特捜部は、香典や花代の30万円相当しかターゲットにしていないが、ハンターが独自に入手した2008年1月7日現在とある「贈答リスト」には、メロン、カニ、たらこなどの高級品を贈っていたことが記録されている。リストにある送り先には、100人近い有権者、政治家、政治評論家の名前がある。(*下が問題のリスト。画像クリックで拡大)
自民党の大物政治家もいて、安倍晋三前首相には「ローヤルゼリー大」、石原伸晃元自民党幹事長には「2006年夏カニ 2006年冬たらこ・すじこ 2007年夏メロン」が贈られたことになっている。小物ではあるが、収賄容疑などで逮捕され収監中の衆院議員・秋元司被告には2006年冬に「メロン1個」を贈ったようだ。
「香典も贈答品もすべて、菅原氏の命令で贈っていたものです。河井夫妻の2900万円には勝てないが菅原氏も週刊文春に報じられるまではばらまいていた。1,000万円くらいはかかっているんじゃないかな」と菅原氏の地元関係者は話す。
■菅原氏の「不出馬」見据えた動きも
菅原氏の今後について自民党内で囁かれているのは、“議員辞職→解散総選挙では無所属で出馬→当選して自民党に復帰→検察審査会は議員辞職の「反省と制裁」で勘弁しもらう”という筋書なのだという。
ある自民党幹部は、検察審査会の動きに不満を漏らす。
「河井夫妻の2,900万円のバラマキだけでも大変だ。夫の克行の判決も5月には出るだろう。そこに、同じ公職選挙法違反で菅原氏が立件となれば、自民党の信頼は地に堕ちるね。弁護士に高額な報酬を払っていて、検察審査会も大丈夫だと聞いていたのに、うまくいかないもんだ。なんとか、切り抜けられないものか」
昨年5月、賭けマージャンで東京高検検事長の座を追われ賭博罪で告発された黒川弘務氏の事件も、起訴猶予処分のあと東京第6検察審査会が「起訴相当」と議決した。検察は再捜査をほとんどせず、18日、東京簡裁へ略式起訴して「やりました」という格好だけはつけた。
菅原氏も黒川氏と同じ起訴猶予。ならば、特捜部は、どういう形になるにせよ“立件”しなければならない。郷原弁護士は、次のように解説している。
「検察が政権との間に、何か密約でもあるのかなと疑いたくなる。菅原氏の事件は明らかに犯罪が成立しています。起訴猶予ということは、検察も犯罪事実を認定しているということで、もう次は起訴するしかない。政治家に気を遣った茶番劇に検察は付き合う必要はない。菅原氏は公職選挙法にひっかかっており、河井夫妻と同じ。有罪となれば、公民権停止、つまり一定期間衆院選に出馬できなくなる。犯罪事実があるのに、河井夫妻だけ逮捕で、菅原氏が無罪放免では国民感情が許さないでしょう」
確かに、河井夫妻と菅原氏は同じ公職選挙法違反。どちらもカネをばらまいている。河井夫妻は離党し、妻の案里氏は議員辞職している。さらに、案里氏は有罪判決で公民権停止。その秘書らも同様だ。菅原氏がセーフというのは、明らかにアンフェアと言えるだろう。
自民党内では衆院東京9区への対応を巡り、菅原氏の不出馬など非常事態もあり得るとして候補者を模索する動きがある他、小池百合子東京都知事が衆院への再転身を図るため同区を選ぶのではないかとの見方も出ている。