他の自治体では通常10,000円で済む開示費用が、なんと20万円――。鹿児島県出水市が、HUNTERの情報公開請求に提示してきた開示費用は、事実上市民の知る権利を否定する形となる法外な金額だった。
これまで報じられることのなかった出水市における情報公開制度の実態とは……。
■通常1万円が20万円
出水市に情報公開請求したのは、市長交際費の使途が分かる文書と、使途ごとの領収書。同市の市長は、前任者の任期満了にともない今年4月に交代したばかりだが、前市政時代の市長交際費の使途に疑問があるという市民からの連絡を受けて、交際費の決裁文書及び領収書などを開示請求していた。
開示決定期限を前に、出水市側がHUNTERの記者に連絡してきたのは、開示にともなって発生する費用の予想額。市職員が説明した金額は、聞いたことのない非常識な計算方法による、法外なものだった。
市側の説明によれば、市長交際費の支出は年間200件ほど。1件(1枚)につき200円徴収するので4万円となり、5年度分だと20万円ほどかかるのだという。
耳を疑った。自治体の開示費用は、白黒コピー1枚を10円とするのが一般的となっている。鹿児島県も鹿児島市も1枚10円だ。財政難の自治体では1枚20円、30円のところがごく稀にあるものの、1枚200円などという法外な金額など聞いたことがない。なにかの間違いではないかと、何度も確認するが「情報公開条例の規定通りにやっている」と譲らない。そこで、同市の情報公開条例を確認してみた。
■「知る権利」無視した出水市の情報公開条例
同市の情報公開条例は、「手数料」について、《公文書の開示を受ける者は、別表で定めるところにより、開示の実施に係る手数料を納めなければならない》と規定しており、下が条文中の「別表」だ。この記載内容から、二つの問題が見えてくる。
まず、いまだに「手数料」を徴収していること。情報公開の必要性が認識されるようになって、各自治体は独自に「情報公開条例」を定め、役所の情報を積極的に開示するようになった。住民の知る権利に応え行政運営の透明化を図りつつ、説明責任を果たすという観点からすると当然の流れだ。
出水市の情報公開条例にも、その目的を「市民の公文書の開示を求める権利を明らかにすることにより市政運営の公開性の向上を図るとともに、本市の諸活動を市民に説明する責務を全うし、もって市民参加による公正で開かれた市政を一層推進すること」と規定している。しかし、実際の情報開示に過大な費用がかかれば、負担に耐えられない住民は、開示請求の権利を失うことになる。
自治体には、情報公開の費用を可能な限り抑える努力が求められるはずだが、出水市は真逆。用紙やコピーの実費以外に法外な「手数料」を徴収するというのだから、市民はたまったものではない。
ちなみに、鹿児島県の情報公開条例には「手数料」という文言はなく「費用の負担」。これは鹿児島市も同じだ。霧島市や西之表市、鹿屋市、垂水市などは、条文に「公文書の開示請求に係る手数料は、無料とする」と明記しており、同様の開示請求に対する費用に、出水市と他の自治体では大きく差がつく可能性が高い。出水市の情報公開制度は、形だけのものと言っても過言ではあるまい。
■恣意的運用を招く「ワンファイル200円」
次に問題となるのは、出水市では閲覧であっても写しの交付でも、『1件(簿冊にあっては1冊)につき200円』を徴収されるという点。特に、“簿冊にあっては1冊”という文言がくせ者だ。情報公開に消極的な自治体によくあるケースが、ワンファイル〇〇円という規定。代表的なのが霞が関の官庁で、開示請求の際にワンファイル(1件)につき300円を「印紙」を買う形で支払わなければならない。
官庁によってカウントの仕方が違うのだが、例えば、かつて環境省に3年間分の業務委託(天下り法人に対するもので500万円以上に限定)に関する文書を開示請求した際に同省は、1件の契約をワンファイルとカウント。3年間分の業務委託件数が265件であるとして300円×265件=79,500円分の印紙を納付しなければ閲覧にも応じないと通告してきたことがあった。同じ業務委託契約の関連文書でも、年度ごとにワンファイルとカウントする役所もあり、対応は様々となっている。手数料を請求することと合わせ、国の情報公開は国民の知る権利に応える姿勢ではない。ただし、領収書1枚をワンファイルとカウントする出水市の非常識さは、国のそれをはるかに超えている。
そもそも、出水市は自ら定めた情報公開条例について、運用の仕組みが理解できていない。前述した手数料規定「別表」の備考欄にある記述が、それを証明している。
《1件とは、事案決定手続等を一にするものをいう》とある。「事案決定手続」とは、役所がものごとを決める過程のこと。これを文書化、あるいはデータ化したものを「伺い」あるいは「決裁」と称する。すると、市長交際費に関する支出とその証明となる領収書については、事案決定手続上は同じことになるはずで、領収書だけを1枚(1件)200円とカウントするのは間違いだろう。支出に関する決裁文書は何百件あっても1件でカウントしておいて、領収書1枚ごとに「事案決定手続」があったとするのはあまりに傲慢。恣意的運用の最たる例と言える。
■「常識」を否定する出水市
「1,000枚で20万円とは、非常識だ。こんな金額では市民は開示請求できない」――。抗議する記者に、出水市側は「常識の問題ではなく、条例上の問題」と何度も繰り返した。“非常識であろうと、自分たちの解釈は1枚200円だから払わなければ情報を開示しない”という論法である。情報公開の必要性や意味が理解できていない証拠である。
HUNTERの猛烈な抗議を受けた市は出稿直前、「条例の見直しを検討するよう市長から指示があった」と連絡してきた。しかし、今回の開示請求費用は「領収書1枚200円」のままだという。やっぱり、何が問題なのか分かっていない。出水市は、市長も議員も職員も、1,000枚程度の公文書を見るだけのことに20万円も払うお人好しがいるのかどうか考えてみるべきだろう。「仕方がない。条例の規定だ」と言い張る者がいれば、その方には公人としての資格はない。隠蔽の背景には必ず腐敗があるもの。HUNTERは、同市の行政運営や議会の実態について取材を強化する予定だ。
自治体の情報公開制度に詳しい市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は、次のように話している。
「交際費の領収証1枚につき200円などという酷い話は、聞いたことがない。信じられない。出水市は、市民の知る権利に応えようという意識がないのだろう。法外な金額を示されて、情報公開請求を断念した市民もいたはずだ。情報公開条例があっても、役所が今回のような恣意的運用を行えば、制度自体の意味がなくなる。手数料をとるというのも時代遅れ。出水市は、情報公開に対する考え方を根本から改めるべきだ」