市民不在! 久留米市長選の裏舞台

任期満了に伴い来年1月に行われる久留米市長選の、候補者擁立劇の舞台裏が明らかとなった。政治家の自己都合が周囲を振り回すさまは、まさに「市民不在」。ハンターの緊急調査でも、投票先が見つからず戸惑う久留米市民の現状が浮き彫りとなっている。

■県教委幹部推した原口県連会長

久留米市長選にはこれまで、元市議会議長の原口新五氏(61)、県議会副議長を任期途中で投げ出した十中大雅氏(68)、医師の細川博司氏(61)が出馬を表明。原口、十中両氏の争いが軸となる見込みだ。

自民党久留米支部の幹事長だった原口氏を支援するとみられているのは地元の建設業界。久留米市が地盤の鳩山二郎衆院議員は十中氏支持を明言しており、保守分裂が確実な情勢となっている。

久留米には自民党県連会長を務める原口剣生県議会議員という大物がいるが、当初彼が地元経済人らに次期市長候補として推薦したのは、新五氏でも十中氏でもなく、現役の県幹部だった。

関係者の話によれば、大久保勉市長の突然の再選不出馬表明を受けて開かれた市長を支える経済人らの会合で原口県議は、「適任者がいる」とした上で、久留米市出身で県教育委員会の幹部を務めている人物の名前を披露。次期市長候補に市幹部を担ごうとしていた会合参加者らは、「原口さんが推されるなのなら」と賛同し、県教委幹部本人が出馬を承諾した段階で、選挙準備を進める方針になっていた。

会合直後、原口県議自身が県教委幹部に出馬を勧め、経済人らも出馬要請。大久保勉市長も、支援を約束していたという。そこで態度を一変させたのが他ならぬ原口県議だった。

■弟の出馬表明で態度一変

「市長選出馬の話はしばらく保留してほしい」――真剣に出馬を考え始めていた県教委幹部に、そう言ってブレーキをかけた原口県議。変節の背景にあったは、実弟である新五氏の出馬表明だった。

出馬への意欲を示していた新五氏は、先月10日に市長選立候補を正式表明。以後、県教委幹部に出馬を勧めたはずの原口県議は、一転して出馬断念を働きかけるようになる。

「あなたにも将来がある」――火をつけた張本人が最後に放ったのは、自分の責任を棚に上げた、身勝手な言葉だった。

■自己保身に走った剣生氏

ある県政界の関係者は、次のように解説する。
「剣生さんと新五は昔からあまり仲が良くない。だが、ともに支持基盤は土木建築業者で、新五の選挙を邪魔するようなことになれば、剣生さん自身に矢が飛んできかねない。だから自分で連れてきた県教委の幹部を降ろしにかかった。『弟が市長選に出るから無視できない』と言って情に訴えたらしいが、それは剣生さんの個人的な理由。市民不在もいいところだ。剣生さんが市長選出馬を勧めた県幹部はもちろん、剣生さんの話に乗った経済人や周囲に対して、どの面下げて会うというのだろうか。政治家である前に、人としてどうかという問題だ。自分が担ごうと言い出したんだから、兄弟が(選挙に)出ようが、親が出ようが、最後まで担ぎ通すのが筋じゃないのか。振り回された経済人らは、怒り心頭だろう」

■しらける久留米市の有権者

久留米市長選を巡る動きは、まさに「市民不在」だ。コロナ禍のなか、現職市長は無責任にもたった1期で市政放棄。次期市長の座を狙う3人も、帯に短し襷に長しといった状況だ。

十中大雅氏は、副議長就任祝賀会を開いて多額の政治資金を集めながら、その1か月後に市長選出馬を表明。県議と副議長の辞任届を封筒に入れて、議会事務局に置き捨てにするという非常識なお方だ。

原口新五氏の二人の兄のうち、剣生氏は県議で自民党の県連会長、長兄も市議である。当然、「原口一族による久留米支配」を懸念する市民は少なくない。前述したとおり、保身に走った剣生氏は、自分で推挙した人物を弟の出馬を理由に引きずり降ろしており、「懸念」は「現実」にシフトしたとみるのが妥当だろう。

細川博司氏は、新型コロナウイルスのワクチン接種中止を訴えて佐賀市長選にも立候補した医師。すでにワクチン接種を済ませた市民からは、戸惑いの声が上がる。

「投票先がない」――そう感じる久留米市民が少なくないことは確かだ。ハンターは今月4日から5日にかけて、久留米市内の情勢調査(RDD方式:470サンプル)を行ったが、原口、十中両氏が2割に満たない低い支持率で拮抗し、5割以上は投票先が「わからない」とする結果だった。久留米市民は「市民不在」の市長選になることを、すでに見越している。

 

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