自民党の総裁選は、決選投票で石破茂氏が高市早苗経済安保相を破り、5度目の挑戦で総裁の椅子を射止めた。9人が出馬という大混戦の総裁選。1回目の投票では高市氏が党員票で最高得票となる109票、議員票でも72票を集め計181票でトップとなった。石破氏は党員票で108票と高市氏を下回り、議員票は46票で計154票と27票差の2位に。当初は優勢とみられていた小泉進次郎元環境相は急降下して3位だった。決選投票となり、高市氏の194票に対し石破氏が215票を獲得して逆転勝利を収めた。
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2012年の総裁選では、1回目の投票で安倍晋三元首相を上回りトップに立った石破氏。しかし、決選投票で敗れるという苦い経験があった。「まさにドラマチック。劇的な総裁選だった。これで低迷していた自民党の支持率も少しは回復するのではないか」と石破陣営の衆議院議員は話す。
石破氏は1日に首班指名を受け第102代内閣総理大臣に就任。すでに終えていた閣僚と党役員人事では、高市氏が総務会長の打診を受け断っている。
「高市氏は幹事長、ダメなら財務大臣を想定していた。すでに政調会長をやっているのに『どうして幹事長じゃないの? 総務会長なの?』と激怒している。『一国会議員として支える』として活動するということです。石破さんは決選投票で争った高市さんに対し、失礼ではないか」と高市氏の推薦人となった旧安倍派の議員は憤慨する。
そんな高市氏を石破氏は見限ったようで、総務会長には鈴木俊一財務相を起用した。
「なぜ石破総裁が高市さんを幹事長で迎えなかったのかといえば、選挙との兼ね合いだ。衆議院選挙は10月27日が投票日。そこで裏金議員をどう扱うかが注目される。高市さんの推薦人には裏金議員が13人もいたので、彼女が幹事長になると責任者としてすぐにその対応に取り組まなければいけない。最悪、裏金議員の非公認などを申し渡すような立場にもなりかねません。解散総選挙となれば、幹事長がカネを差配する。厳しい役回りは、ベテランの森山裕さんでないと務まらない。高市さんは総務会長として選挙応援に奔走し、挙党体制を築いて、衆院選を勝ち抜きたいというのが石破総裁の考えだった。それに、高市さん自身も30枚を超えるリーフレットを発送した問題を抱えており、矢面に立つことになる幹事長には不適だった」(前出の石破陣営議員)
先に書いたように森山氏が幹事長、菅義偉元首相が党副総裁、小泉氏は選対委員長、加藤勝信氏が財務相、林芳正氏が官房長官留任という布陣だ。石破内閣のメンバーを見ると、女子大生との「買春疑惑」が週刊誌で暴露されたにもかかわらず、農相となった小里泰弘氏のような“スキャンダル持ち”や旧統一教会との関連議員はいるが、裏金議員は皆無。まさに、政治とカネの問題に石破氏が向き合った証左だろう。
「高市さんの固辞で、鈴木さんが総務会長と聞いて驚いた」と言うのは麻生派の衆議院議員。鈴木氏は麻生太郎副総裁の義弟にあたるが、総裁選では1回目に高市氏に票を投じたはず。麻生氏が高市氏に票を集めろと指令を出していたからだ。しかし石破氏は、麻生氏の“影武者”のような鈴木氏をあえて総務会長にあて、挙党体制の演出をしている。
残念ながら、高市氏には石破氏のそういう思いは理解できないようだ。それどころか高市陣営からは「石破がわれわれの陣営をないがしろにするなら、解散総選挙を終えてから党を割る可能性だってゼロじゃない」、「10月には靖国神社の秋の例大祭もある。高市さんが参拝すると騒がれます」と靖国参拝まで持ち出し戦闘モードだ。しかし、前出の石破陣営議員はため息交じりにこう話す。
「高市さんは決選投票にまで進んだ自民党の看板の一人。あまり好き勝手なことを言っていると、“挙党体制にヒビ”とメディアは騒ぐ。解散総選挙に影響しかねないということ。その場合、高市さんの陣営の議員が落選しかねない。高市さんにはブーメランになる可能性がある。なぜなら、推薦人20人の内、裏金議員が13人。高市さんには、裏金疑惑を招いた旧安倍派からかなりの議員票が入っているはず。裏金や旧統一教会に関係する議員が落選して一番困るのは高市さんでしょう。ここは石破新総裁の思いを受け入れてほしかったですね」
空気の読めない高市氏という「爆弾」を、石破氏はどうさばいていくのだろうか?