「“石破は嫌い”で突っ走ったのが間違い。これで当面は反主流。冷や飯だ」と苦笑するのは麻生派の衆議院議員。自民党総裁選で、麻生派は麻生太郎氏の意向で1回目から多くの所属議員が高市早苗経済安保相に投票。決選投票では高市氏と同じ右寄り路線の小林鷹之前経済安保相の陣営も巻き込んで反石破に動いた。「麻生派から旧安倍派、旧茂木派にも高市でやってくれと頼んだ」いうその議員は、裏金事件で解消されたはずの派閥がうごめいたと証言する。注目されるのは、自民党唯一の派閥である麻生派の領袖、麻生元首相の動向である。
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総裁選の最終盤、裏金事件で自民党からの離党勧告を受けた世耕弘成元参院幹事長や東京五輪疑惑で東京地検特捜部から事情聴取された森喜朗元首相まで高市氏支持で動いた。しかし、結果は決選投票で石破茂氏が勝利。反石破派は一敗地にまみれた。
石破氏の推薦人だったある議員は、「旧派閥が動き出し、それに嫌気をさした議員がうちに入れてくれたことも勝因。石破総理の215票に対して、高市さんが194票。21票差というわずかな差を見てもよくわかる」と話す。
総裁の座に最も近いとされていた小泉進次郎元環境相が予想外の3位に転落。前回、2021年の総裁選で2位だった河野太郎デジタル相も決選投票に残るにはほど遠い30票しかとれなかった。だが、小泉氏と河野氏、そして石破氏は「小石河連合」と呼ばれるほど良好な関係。決選投票でその関係が生きた。そこへ、菅義偉元首相が率いる「ガネーシャの会」や旧二階派の一部が加わり、石破票が積み上がった。
旧茂木派からは、茂木敏充幹事長と加藤勝信元官房長官2人が出馬。しかし、同派の参議院の票の多くは石破氏に流れたという。「決選投票では、麻生さんを頼る茂木さんの票の一部が高市に流れたが、石破さんが旧茂木派だった青木一彦参議院議員を選対本部長代理につけたことで、うちの参議院議員の票は石破さんに流れた」(旧茂木派の参院議員)
旧岸田派からは林芳正官房長官と上川陽子外相の2人が総裁選に出馬。「岸田首相は、自分が再選されれば石破さんを幹事長として取り込もうとしていた。それほど二人の関係は深い。旧岸田派は最後、ほぼ全員が石破氏に乗った。当然、岸田首相の号令があったからだ」(旧岸田派の衆議院議員)
その結果、麻生氏の目論見は潰え、返り咲いた菅氏とともに新たなキングメーカーとして岸田文雄首相が名乗りをあげたという構図だ。
石破内閣のメンツを見ると、麻生派の浅尾慶一郎参議院議員が入閣。また石破氏に総裁選で敗れた高市氏が総務会長を固辞したことで、麻生氏の義弟である鈴木俊一財務相にそのポストがあてられた。麻生派を離れ、石破氏の選対本部長となっていた岩屋毅氏が外務大臣に起用されている。
「浅尾が入って、鈴木さんも財務相から幹事長に次ぐ総務会長。悪くない。うちと同じように非主流派になった旧安倍派だけが、裏金事件もあって閣僚ゼロ。うちは冷遇されかねないと思っていたから、旧安倍派よりマシだと思うよ」と前出の麻生派議員は言う。
最高顧問に祭り上げられた麻生氏は総裁選直後、周囲に「どうなっているんだ」「なんで石破が勝つんだ」と漏らし、不機嫌さを隠さなかったという。麻生氏は84歳という年齢。10月27日に投開票される解散総選挙には出馬しないのではないかという見方もあるが、このまま引き下がるとは思えない。敗れたとはいえ、最後に麻生氏が支持した高市氏と石破氏の票差はわずか。党員票では石破氏を上回ったのも事実だ。裏を返せば、自民党の半分近くを握っている形なのだ。次の一手を打ってくる可能性は十分にある。
岸田氏は裏金事件で自ら派閥を解消し、総裁選にも「責任をとる」として出馬しなかった。だが、麻生氏は派閥を維持し、総裁選でもその力を背景に高市氏に乗った。自民党の古参議員は次のように話している。
「麻生さんは、『茂木は高市に乗ったのに』と石破支持にまわった岸田さんにはカンカンだそうです。ですが、岸田さんから見れば勝ち馬に乗ることが一番。麻生さんや麻生派がどうなろうが関係ない。最後の最後、岸田さんは麻生さんを切って、引導を渡した。キングメーカーではなくななったことで麻生さんの影響力が落ちたのは確かでしょう。ただし、麻生さんがいなくなれば、総裁選でぼろ負けしたこともあり河野が派閥を継承するのは無理。このままなら麻生派も自然消滅でしょう。麻生さんが黙って引っ込むとは思えないが……」