「年内解散はなくなったようですが、それでも永田町の話題は解散総選挙のことばかりです。12月18日投開票の可能性は残ってますから」と話すのは、自民党の若手議員。
先送りが確実になったとみられているが、政界の一寸先は闇。自分たちの政治生命がかかっているだけに、各党の衆議院議員は選挙時期についての情報収集に余念がない。岸田文雄首相は、いつ解散総選挙を打つのか?
■不発に終わった「冷温経済」「適温経済」
2週間ほど前のこと、ある霞が関官僚は「想定日程」を手に、連日自民党や野党の議員らと“雑談”を重ねていた。「極秘なんだがね」と言いながら見せてくれた「想定日程」では、10月13日に臨時国会が開催された場合、最短で11月5日が投開票という見通しになっていた。しかし、その後の岸田文雄首相の動向から、10月20日前後にスタートする臨時国会では補正予算の成立が優先され、衆議院の解散は来年になることが確実となっている。
前出の官僚は「国会議員をまわっていて、『とにかく補正予算が先』という考え方の人が少なくことは分かっていた。閣僚クラスのスキャンダルも次々に報じられている。冒頭解散という意見もあったが、支持率がねぇ……。勝てる見込みがないというのが本当のところではないのか」と話す。自民党の有力議員が「ネタ元」という別の想定文書も持っていたが、それによると10月13日に経済対策をまとめ、3週間で補正予算案提出し審議にかけ、11月20日の週に解散、12月5日公示で17日投開票という案が記されていた。
9月25日の会見で岸田首相は「10月に経済対策を取りまとめ、令和5年度補正予算案の編成に入りたい」と発言。経済対策だけに絞った記者会見で、「消費と投資の停滞を招いた、この状況を冷温経済」、「冷温経済を脱し、活発な設備投資、あるいは賃上げ、そして人への投資による経済の好循環を実現し、経済の熱量を感じられる適温経済の新たなステージに」と聞きなれない「冷温経済」「適温経済」と意味不明な言葉を並べ立てていた。
自民党幹部によれば「岸田総理は解散総選挙に打って出た場合、冷温経済から適温経済にというフレーズを打ち出そうと考えていた。だから記者会見で使ったそうだ。発案者は、官邸の嶋田隆首席首相秘書官だと聞いている。総理と嶋田氏は進学校の開成高校の同窓。官房副長官だった木原誠二さんと並び嶋田氏は最側近だ」
■進む長期政権への地ならし
3月に岸田首相が極秘裏にウクライナ訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した時も木原氏と嶋田氏の2人が同行していた。国民の注目が野球のWBCに注がれるというタイミングで、嶋田氏が動いたと前出の自民党幹部は言う。
「嶋田さんが岸田総理にウクライナ訪問を進言した。木原さんはそのあとで聞いたはず。インドに同行していた別の総理秘書官は、岸田首相が極秘にホテルを出た後にウクライナ訪問を聞かされ、ひっくり返らんばかりに驚いたという。これまで岸田首相が重要な政策決定をするとき、必ず裏に嶋田さんがいた。直近では、東京電力の福島第一原発の処理水放出もそれにあたる」
嶋田氏がここまで踏み込んで経済対策を指南した以上、解散総選挙は十分にあると思われていた。しかし「冷温経済」「適温経済」というフレーズはまったく見出しにならなかった。「あれは不発。国民には意味不明で伝わらなかった。策を弄しすぎて失敗」と話すのは公明党の国会議員だ。すきま風が吹いていた公明党との関係だが、次の総選挙では東京都内の自民党候補を「支援しない」と明言してきた同党が、ここに来て自民党との選挙協力に合意している。
公明党との関係修復に動く一方で、岸田首相は、国民民主党の参議院議員だった矢田稚子氏を首相補佐官に抜擢した。国民民主党の連立政権入りに向けた「地ならし」とみられている。
国民民主党の国会議員が内情を語る。
「玉木代表が連立に前のめりで、矢田さんの補佐官就任、官邸入りに大賛成だった。支援組織の労組は反対を表明しているんですがね。解散総選挙になれば選挙後に自民、公明の連立に参加するのではとみています。その場合、前原(誠司)さんの周辺は連立に反対なので党は割れると思います。岸田総理にとっては好都合でしょうね」
ある自民党の大臣経験者は「岸田首相は早めの解散総選挙と国民民主党の取り込みを考えている。矢田の起用はその布石だ。今は議員ではない矢田の補佐官起用にはかなり反発がある。総理は、解散総選挙で矢田を自民党の比例候補として出馬させ、当選させればそんな批判も消えると思っているんだろう。長年対立してきた労組の一部も取り込めることにもなるから、損はないということだ」と話し、こうも追加する。「野党は年内の解散総選挙なら態勢が整わない。自民党と公明党の連立政権で過半数に乗せれば、勝利したと言える。多分、勝てるだろう。国民民主党の連立参加も『支持を得た』という格好にもなる。岸田総理の頭にあるのは、岸田派と宏池会を中心に、長期政権にしていくという野望だけだ」