長期政権の驕り|高島福岡市長「福岡がなければ九州から人がいなくなる」への反論

記事のタイトルを見た瞬間、傲慢さが鼻についた。「福岡がなければ九州から人がいなくなる」――今年2月、高島宗一郎福岡市長が地元紙西日本新聞のインタビューで述べた言葉だ。長く権力の座に座る人間の“驕り”の臭いがする発言だった。

◆   ◆   ◆

市長はそのインタビューの中で、「アクセルを踏み続け、人口流出から九州を守りたい」とも語っている。“優秀な人材の流出に歯止めをかける”なら理解できないこともないが、「福岡一極集中」を加速させるような主張には不同意である。

西日本新聞はインタビュー記事の中で、《“独り勝ち”との指摘に、高島氏は『手を緩めれば海外に行ってしまう。福岡がなかったら九州から人がいなくなる』。九州外への人口流出を防ぐ「ダム機能」を果たす考えだ》と書いており、一極集中を容認した格好だ。

一方で、《だが、都心部のオフィス空室率は供給過剰とされる5%を超す。市内では過去10年で計500社以上を誘致したが、雇用創出効果が大きい本社機能誘致は1割に満たない。東京圏に対しては千~3千人程度の転出超過で、就職や進学を迎える若者を中心に九州外への流出も止まらない》と懸念材料も示す。ただ、何を意図したものか判然としないタイトルにある市長の言葉に、私は嫌悪感を覚えた。

そもそも、福岡市に人口が集中することで九州の人口減が防げるという発想が間違いだ。九州各地に住み暮らす人たちは、伝来の土地を愛し、未来への希望をみつけようとそれぞれの立場で努力している。それでも出生率は全国的に低下しており、福岡市も同様。この国の最大の課題が“人口減少”なのだ。極端かもしれないが、福岡市だけに人が集まってしまえば、九州の物流や経済は回らなくなるだろう。

そもそも、「アジアのリーダー都市」「アジアの玄関口」を標榜してきた福岡市がとるべき道は、市を起点に九州各地に人を送り出し、経済波及効果をもたらすような努力をすることではないのか。それが「福岡がなければ九州から人がいなくなる」(高島市長)――これは他の自治体を見下す姿勢に他なるまい。傲慢な態度は、打ち出す施策にも表れている。

■唐突に「保健所廃止」

福岡市は昨年10月、市内7つの区にある保健所をなくし、「福岡市保健所」として一元化する方針を決めた。健康危機管理体制を強化するため、保健所の広域的・専門的機能を一元化するのだという。市が各区の保健所を廃止のする方針を決めたという報道はあったが、市民にとってはまさに唐突、いまでも知らない市民は少なくない。それほど急な話だった。高島市長は何をしようというのか――確認するため市に情報公開請求して入手したのが下の文書である。

要は、各区に保健福祉サービス分野の仕事だけ残すが、7つの「保健所」は廃止。最も重要であるはずの感染症や難病に関する業務は1か所にまとめるというもの。担当課に説明も聞いたが、要領を得なかった。

新型コロナウイルスが拡大していく中、感染者あるいは感染の恐れがある人の窓口になったのは「保健所」だった。感染の疑いがあれば、あるいは感染したら、まず保健所に連絡し、指示を受けるというのが決まり。感染拡大にともない、全国各地の保健所はパニック状態となり、電話がつながらない、指示が行き届かない、といった状況に陥った。地域の保健所に勤務する人員が不足し、都道府県に応援を求めるケースが続出した。保健所は、感染症対策の第一線だったということだ。

その保健所をなくし、1か所にまとめて、いざという時に感染症対策が機能するのか?新たな感染症が発生した時、1箇所で市内全域の住民の電話対応ができるのか?人員は大丈夫なのか?

これに対する市側の回答は、「その時に適宜対応する」という程度のもの。事前に十分な備えを行うというわけではないということだ。つまり、行き当たりばったりの組織改悪。福岡市長は、感染症に対する認識が甘いと言わざるを得ない。

ちなみに、福岡市立こども病院の前身は1980年に設立された「福岡市立子供病院・感染症センター」。同センターは県内唯一の第一種感染症指定医療機関、第二種感染症指定医療機関としての指定を受けていたが、高島市政下で決まったこども病院のアイランドシティ移転にともない、いずれの指定も返上している。

新感染症の所見がある患者、一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる医療機関として厚生労働大臣が「特定感染症指定医療機関」に指定した病院は全国に4箇所(千葉、東京、愛知、大阪)で、県内にはない。一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等の患者を入院させる医療機関として県知事が指定する「第1種感染症指定医療機関」は県内古賀市の「独立行政法人国立病院機構 福岡東医療センター」のみで、2床しかないのが実情である。

■唐突に大阪・関西万博

高島市長は昨年8月、2025年に開催予定の大阪・関西万博を生かした地域振興で大阪府などと連携することを発表。今年になって「出展」する方針を決定する。これもまた“唐突”な話だった。下が方針決裁に添付された「大阪・関西万博への出店について(方針)」と題する文書だ。

 地域振興で大阪府などと連携するのは結構だが、出展までする必要があるのだろうか?万博については大きく賛否が分かれており、むしろ「反対」「延期」という意見の方が多い状況だ。不人気の原因は、巨額の会場建設費。当初、建設費は1,250億円とされたが、2020年には1,850億円に増額。昨年10月に再び上振れし、ついに2,350億円にまで上昇している。計画当初の約2倍。これとは別に、国の負担額が約837億円に上ることも判明しており、さらなる増額が懸念されることから批判は強まる一方だ。しかも、工事費が上がるにつれ出展計画を見直す動きが拡大しており、万博の華といわれる各国のパビリオンが減り続ける状況となっている。工事を請負っているゼネコンからは「工事は間に合わない」という声が上がっているのも事実だ。

そうした中、今年正月に発生した能登半島地震が「万博」の開催意義をさらに薄れさせた。いまだ終わらぬ復旧。復興に向けて不足する建設資材と作業員。いったん万博を延期し、能登半島にすべてを投入すべきとの声が多数だが、大阪府・市――というより日本維新の会――は馬耳東風だ。

吉村洋文大阪府知事は「被災地支援と万博は二者択一の関係ではない」と発言。維新の馬場伸幸代表は「万博の準備と復興は同時並行でやっていくべき」とうそぶいた。ついには「北陸のみなさんにも新たな夢や希望を持って、明るい将来に歩みを進めてもらえるイベントになるのではないか」(馬場代表)。権力べったりで知られる経団連の十倉雅和会長も、大阪・関西万博が能登の復興につながるとの考えを示した。「復興万博」と言いたいのだろうが、そうはいくまい。東京五輪を東日本大震災からの「復興五輪」と称して誘致し、結局は「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証し」にすり替えられたことは記憶に新しい。

問題山積の万博に、福岡市が公金をかけて出展する意味があるとは思えない。しかも唐突な方針発表。保健所廃止も万博出展も、市民の声を聴くことなく、一方的に決めたのは確かだ。かつて高島氏は、福岡市を揺るがしたこども病院移転の方針を決める際、じっくりと市民の声を聴き、第三者委員会まで設置して丁寧に議論を進めた。残念ながら今の高島氏には、市民の声を重くみていた青年市長の頃の面影は、ない。

高島市長の初当選は2010年。以来、4期連続当選で、選挙のたびに得票を増やしてきた。スピード感のあるコロナ対策は立派なものだったし、市民に希望を与える施策も少なくなかった。しかし、「権不十年」という。就任から14年を経た高島氏に、驕りが生じていると感じているのは筆者だけではあるまい。「福岡がなければ九州から人がいなくなる」は、いただけない。

(中願寺純則)

 

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