「ノーサイド」にもいろいろある

鹿児島県知事選挙の投開票から3日経ったウイークデーの昼下がり。鹿児島市内にあるホテルのロビーで取材相手を待っていると、すぐ横のスペースに背広姿の男性が4人やってきた。ソファーに腰を沈めるなり、大きな声で話し始めた彼らの“議題”は知事選。落選した前職の三反園訓氏を応援していたらしく、敗因や地域ごとの票の出方についての分析が続く。

話の内容から、どうやら4人は建設会社の社長・会長で、相当深く選挙に関わっていたことが分かる。初当選した塩田康一氏の人物評に移ったところで何度も聞こえてきたのは「ノーサイド」という言葉だった。「選挙が終わればノーサイド。これからは仲良くしてもらおう」――そういうことらしい。不愉快なノーサイドである。

■本来の意味から離れたノーサイド

ノーサイドとはラグビー用語で、もともとは試合終了の意。それが発展した格好で、“試合が終わったら立場の違いに関係なく同じ仲間”といった意味で使われるようになったのだという。ラグビーが紳士のスポーツとされる所以である。

いつ頃から転用されるようになったのか寡聞にして分からないが、選挙が終わる度に「ノーサイド」が使われようになった。自民党や野党の党首選でも頻出する言葉だ。

2018年9月に行われた自民党総裁選の際は、高村正彦副総裁(当時)が、「新しい総裁が選出されたところでノーサイドだ」として、党の結束を呼びかけたことが記憶に新しい。同年の総裁選で安倍晋三氏と争ったのは石破茂元幹事長。石破氏を干し上げたその後の安倍さんの姿勢を見る限り、政界にラグビーの精神を求めるのは無理ということだろう。

そもそも、「ノーサイド」で異なる政治的主張が一つにまとまると考えるのは間違い。いかなる選挙であろうと、複数が立候補するのは、そこに政策や政治理念の違いがあるからだ。負けたからといって、自らの主張を捨てるようでは政治家失格と言わざるを得ない。

小泉純一郎元総理は3度の総裁選を戦ったが、2度敗れ、2001年に3度目の正直でようやく総理総裁の座を射止める。この間、持論だった「郵政民営化」の旗は、絶対に降ろさなかった。総裁選で敗れた小泉氏にとって、「ノーサイド」はなかったということだ。

むしろ、スポーツの分野以外で「ノーサイド」が連呼される時には、自民党の場合がそうであるように、裏に修復不能の対立やろくでもない企みがあるとみるべきだ。鹿児島県でノーサイドを使うのは、“変節”をごまかしたい方々である。

■みっともない鹿児島のノーサイド

鹿児島の経済界には、いわゆる“まとめ役”がいない。誰に聞いても、「バラバラ」「リーダー不在」といったマイナスの感想ばかりが返ってくる。県商工会議所の会頭はいわさきグループの岩崎芳太郎氏だが、経済界を引っ張るだけの力はない。

その岩崎氏、7月の知事選では三反園前知事を支持していたが、塩田新知事の登場でかなり焦っているのだという。

いわさきグループはホテル、バス、フェリーなど観光・交通を事業の核に据えており、県との良好な関係が不可欠。知事と敵対したままでは、商工会議所会頭の地位はもちろん、グループの浮沈にもかかわりかねない。なんとか塩田知事に接近しようとしているらしいが、周辺からは“変節”をなじる声が聞こえてくる。ある県政界関係者は、声を潜めてこう話す。
「好きな相手ではなかったようだが、岩崎さんが三反園を支持したのは事実。一昨年に三反園が政治資金パーティーを開いた時は、岩崎さんが発起人代表だった。知事選の敗北から1か月ちょっとで、塩田知事に秋波を送るというのでは、節度が無さ過ぎる。ノーサイドと言いたいのだろうが、虫が良すぎるよ。もっとも、鹿児島で変節漢といえば岩崎さんだけでないが…‥」

たしかに、鹿児島は変節漢ばかりだ。2016年の知事選で敗れるまで知事を務めていた伊藤祐一郎氏の後援会会長は、県医師会トップの池田琢哉氏だった。しかし、三反園氏が当選したとたん池田氏は三反園後援会の会長に就任。医師会内部からも変節ぶりを咎める声が相次いだという。一番呆れたのは県民だったはずだ。さすがに今度は、ノーサイドというわけにはいきそうにない。

自民党の県連は、もっとたちが悪い。前回知事選において「公認並み」の態勢で推したのは伊藤元知事。その伊藤氏を落選させておいて、その後の数年間で三反園氏とねんごろになった。三反園氏は、共産党を含む野党勢力が支援した人物だったにもかかわらず、自民党は今回の知事選ではその三反園氏を推薦した。これほど酷い変節はあるまい。

薩摩隼人は卑怯や変節を蔑んだと伝えられているが、自民党県連は何といわれようがお構いなし。同僚議員を恫喝してまで三反園氏の自民党推薦にこだわっていた県連幹部は、「ノーサイド」とばかりに早くも塩田知事との関係を深めようと動き出しているという。

もっとも、鹿児島県政史上最大の変節漢といえば、野党陣営に支えられ「脱原発」を掲げて当選しておきながら、自民党にすり寄って九電の言いなりになった三反園前知事ということになるだろう。同氏にとってのノーサイドは、本来の意味の「試合終了」なのである。

「地域の未来や住民のためノーサイドの精神で互いに協力し合おう」――そういう意味での選挙後のノーサイドは歓迎だ(ほとんど実例はないが)。だが、利権のため、保身のため、変節をごまかすための、つまり「私的な動機」から使われるノーサイドには嫌悪感を覚える。

知事選直後、鹿児島市内のホテルで「ノーサイド」を連発していた建設業者の狙いは、もちろん自社の利益だ。だから、敵対したが知事になった塩田氏とは仲良くしたい。ノーサイドには、いろんな意味がある。



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