昨年7月の参院選で、広島県内の首長や地方議員などに2,900万円ものカネをバラまき、公職選挙法違反(買収)の疑いで逮捕・起訴された前法相で衆院議員の河井克行被告と妻で選挙に当選した参院議員の河井案里被告。連座制の適用を視野に入れた「百日裁判」となったため、起訴後1か月以内に初公判が行われる予定だったが、記録や証人が多すぎて証拠の検討や事前の打ち合わせに時間を要したため日程がずれ込み、8月25日に東京地裁で初公判が開かれることが決まった。公判は今年12月までに55回開かれ、「被買収」の政治家らが順次証人尋問される見通しだ。
■「百日裁判」過密日程に関係者の悲鳴
裁判員制度が導入され、刑事事件では短期間の集中審理で裁判が進むことが増えた。だが、河井被告夫婦の場合は裁判員裁判ではなく百日裁判。裁判日程について、「超過密スケジュールですよ。信じられない」と弁護団からもぼやきが聞こえる。
例えば、9月初旬の日程を見ていると1日、2日、3日、4日と4日間連続。そして9日、15日、16日、17日、18日と続く。同じようなペースで、12月下旬まで日程が決まっているというのだから関係者は多忙を極める。
過密日程は、証言を求められる関係者にも無理を強いる。ある河井被告夫婦の支援者は、次のように憤慨する。
「政治家はカネもらっているんだから、仕方ない。けど、私は政治には素人で、河井夫婦をただ昔から応援していただけ。参院選1か月ほど前、克行さんが急にきて『これ、これ、挨拶だから』と勝手に5万円を置いて帰った。こんなことで法廷に呼ばれるのは納得できない。おまけに検察は事前の打ち合わせも東京でやりたいと電話してきた。冗談じゃない」
河井被告夫婦の支援者が怒るのは無理もない。買収された人たちの大半が広島県在住。新型コロナウイルスの感染が拡大傾向にある中、患者が最も多い東京に来いと言われて喜ぶ人はいないだろう。「法廷へ行きたくないのは、河井被告夫婦への怒りとコロナ感染の怖さ」(前出・支援者)というのが本音だろう。
東京地検もそうした事態を想定していたらしく、高齢者や持病などで東京まで行けない人に、ビデオリンク方式などを利用して証人尋問の対応をする方法を模索しているという。
河井被告夫婦は、カネはバラまいたが統一地方選の陣中見舞いや当選祝いで、買収ではないという主張だ。「検察が被買収側に『罪に問わないようにするから』と持ち掛けて、違法な司法取引をした」として「公訴棄却」を主張する見込みだという。
■被告夫妻に反省の色なし
一方、広島では8月9日、河井被告側からカネを受け取り、市長が辞任に追い込まれた三原市と安芸高田市で出直し市長選が行われた(上掲の写真参照)。選挙戦を振り返った三原市のある市議は、怒りを隠そうともせず、こう語る。
「選挙では、自民党であってもなくても、とにかく河井夫婦とは関係ないと演説するのが定番でしたね。関係があると見られただけで票が減る。河井夫婦は買収ではないと主張してるようだが、どう言い訳しても、夫婦でカネをバラまいたのは事実でしょう。しかし、まったく反省していない。議員辞職しないのが、その証拠だ。彼らは、自民党から1億5千万円をもらった上に、今も議員報酬や公設秘書の給与をもらっている。裁判にも税金がかかる。どれだけ税金を食い散らかせばいいのか、河井夫婦は自分たちの罪がどれほどのものか、まるで分っていない。広島の恥だ」
河井被告夫婦は、今も保釈が認められず、東京拘置所に収容されたままだ。