札幌地検が即時抗告断念|「取り調べ映像」初の開示へ

北海道警察の違法捜査が問われる国家賠償請求訴訟で、裁判所が捜査機関に取り調べ映像の開示を命じた決定について、3月30日付で提出命令を受けていた札幌地方検察庁が、4月10日までに即時抗告(不服申し立て)を断念、映像を開示する意向をあきらかにした。札幌地裁の命令が確定し、地検は6月上旬までに当該映像を証拠提出する見通し。本サイト既報の通り、取り調べ映像が開示されるのは極めて異例で、国賠代理人によれば全国で初めてのケースとなる。

◇   ◇   ◇

地元紙・北海道新聞が独自取材で得た抗告断念の情報を7日付の朝刊で伝え、次いで朝日新聞や共同通信なども同旨の事実を報じた。これを受けて抗告期限当日の10日夕、筆者が札幌地検のオープン会見(記者クラブ非加盟者も参加可の会見)で確認を求めたところ、同地検の石井壯治次席検事が上の事実を認めた。

抗告を見送った経緯については「本件に関しては抗告しないこととした」と述べたのみで、具体的な理由はあきらかにしていない。仮に今後も同じ命令があった場合は「事案ごとに検討することになる」と、飽くまで一律に命令を受け入れるとは限らない考えを示した。

提出命令が出ることになった国賠訴訟は、無罪事件の容疑者だった札幌市の女性らが北海道警察の不適切捜査への賠償を求めて起こした裁判。もとの事件の弁護人を務めた弁護士らによると、道警の捜査員らは取り調べの過程で女性の黙秘権を侵害し、また私物の『被疑者ノート』を無断で持ち去って“検閲”するなどの不当捜査に及んだ。

当時の筆者の取材に「適法な職務執行だった」と違法捜査を否定した道警は、一昨年8月に地元弁護士会から苦情申し入れを受け、さらに12月になって先の国賠訴訟を提起されてもなお、黙秘権侵害などの事実を否定し続けた。

国賠の審理で原告側が取り調べ映像の提出を求めた際には「映像はすべて検察に送っており、こちらではいかんともしがたい」と答えている。女性の代理人らは「事件・事故の捜査にドライブレコーダーや防犯カメラが活かされるように、取り調べ映像が存在するのならそれをもって捜査の適正性を確認できるはず」として昨年5月、裁判所に「文書提出命令申し立て」を行なった。今回の地裁命令は、その申し入れを受けて発出されたものだ。

検察の抗告断念による命令確定を受け、国賠代理人は「そもそも開示を拒む理由はなかった」と、次のように指摘する。
「取り調べの録音・録画は違法捜査を抑止する目的で導入されたもので、それこそドラレコや防犯カメラのように事後的に内容を検証できないのであれば記録する意味がない。とはいえ今回の決定は重要な前例になるので、今後は同じ趣旨の文書提出命令申し立てが増える可能性があるのではないか」

地裁命令では「決定確定の日から2カ月以内」に当該映像を提出することとされており、地検は遅くとも6月上旬までにデータを開示しなくてはならない。もとの国賠訴訟の次回口頭弁論期日は現時点で未定だが、早期の命令確定により今後の審理が迅速に進むことが期待されている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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