統一地方選の前半戦では、大阪府知事選、大阪市長選、さらには奈良県知事選などで圧勝した維新の躍進が目立った。後半戦の目玉は、6日に告示された参院大分と11日に告示された山口2区、同4区、和歌山1区、千葉5区の五つの補欠選挙だ。
昨年7月に銃撃でこの世を去った安倍晋三元首相の地元・衆議院山口4区をはじめ同2区、千葉5区の三つの衆院補選は、自民党VS立憲民主党を軸とする与野党対立の構図。しかし、和歌山1区だけは状況が異なり、自民党VS維新の争いとなっている。
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自民党は和歌山で、衆議院3期の実績を誇り国交省政務官も務めた元職の門博文を擁立。日本維新の会は、昨年8月の和歌山市議補選で当選したばかりの林ゆみ氏を対抗馬にあてた。
政界でのキャリアは皆無に等しい林氏だが、直近で行われた情勢調査の数字によると門氏優勢ながらその差は数ポイント。「門氏に決まってやばいと思っていたが、現実になってきた」と、ある自民党の和歌山県議は頭を抱える。
当初、和歌山1区は「確勝」を期して、鶴保庸介参議院議員を転出させるものとみられていた。そこに、「透明性がない」としてストップをかけたのが鶴保氏のライバル世耕弘成参議院議員。県連会長の二階俊博元幹事長も、鶴保氏内定を保留とした。前出の和歌山県議がこう振り返る。
「門は、世耕先生の力を背景になんとか補選の候補者に滑り込もうと必死でした。世耕氏との2連ポスターまで制作して、和歌山1区に掲示をはじめていたんです」
そうした経緯を経て最終的に門氏が候補者に決定。二階氏にさんざん煮え湯を飲まされてきた世耕氏が一矢を報いた格好となった。
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鶴保氏から門氏へと方針が変わった背景には、自民党の世論調査の数字があったという。維新の候補者が決まっていない時点で、鶴保氏ならトリプルスコア、門氏でもダブルスコアで勝つという内容だったといわれる。そのあたりの経緯を、自民党の和歌山市議は次のように解説する。
「鶴保さんは、昨年の参議院選挙を戦ったばかり。衆議院へ転出すると補欠選挙になる。“浪人中の門でも勝てるのなら”ということだった。世耕さんの力が大きく働いたというわけではない」
楽観視する県連の関係者に対し、二階氏氏は「選挙は最後に厳しくなる。我々自民党がが戦った経験が少ない維新が相手。人気者が都市部の和歌山1区にどんどん入ってきたら、楽な選挙にはならない」と語り、危機感を隠そうとしなかった。それが現実になりつつある、ということだ。
和歌山1区は、国民民主党の衆院議員から知事に転身した岸本周平氏の牙城で、門氏は小選挙区3連敗。岸本氏が知事に就任したことで、ようやく巡ってきたチャンスだった。
門氏も鶴保氏も二階派所属。しかし門氏は、前述した2連ポスターなどで世耕氏を頼った。しかし、補欠選挙への出馬が決まると今度は一転、二階氏との2連ポスターと差し替えている。
「維新との激突になれば、岸本知事の支援が不可欠。そこで、二階氏の「子飼い」ともいわれる岸本票欲しさに2連ポスターを新しく作って、二階先生にゴマすろうという魂胆じゃないか。節操がなさ過ぎる。みえみえなので、門のライバルだった岸本知事も『門はどうなっているのか』ととても不安そうにしている」(前出の自民党市議)
鶴保氏も和歌山1区に後援会員を抱えているが、土壇場で門氏に衆院転身を阻まれたことへの「怨念」からか動きは鈍い。「岸本さんが知事になれたのは、二階先生の鶴の一声があったから。その時の恩義がある。しかし、ライバルの門を急に応援しろと言われてもね」(岸本陣営の関係者)。その隙に付け入ろうというのが維新である。
維新の林氏は、市議補選で約3万5千票を獲得しており、2位の自民党候補に3,000票近い差をつけダントツで勝った実績がある。過去3度の門氏の衆院選を振りかえると、岸本氏が6万票から7万票だったのに対して、5万票台しか獲得できていない。大阪府知事選、市長選、府議選、市議選に加え、奈良県知事選まで勝利したことから、勢いにのる維新――。同党のある衆院議員は、こう話す。
「和歌山1区でも勝機があるとみており、統一地方選の後半戦は和歌山に我が党の関係者が大量動員されるはずです。再選を果たした吉村府知事はもちろん、松井(一郎)顧問も応援に駆け付ける予定です。人気者を次々に投入して、自民党の牙城を切り崩したい」
衆参補選は全国で5つ。自民党では「全勝は当たり前。負けるとしても参議院大分だけ」という見方が大勢だ。しかし、和歌山1区が危うくなってきたとなれば事態は変わる。
「和歌山1区で負けると、統一地方選の前半戦で大きく議席を伸ばした維新をさらに増長させる。そうなると政局になりかねない。世耕さんも、負ければ安倍派の会長はおろか衆議院への転出も難しくなる。和歌山1区の結果はいろいろなところに波及しかねない」(自民党幹部)