福岡県田川市・バイオマス発電所建設計画の闇(上)|発端となった県議会質問

2018年6月15日の福岡県議会定例会。ある県会議員がバイオマス発電の促進を訴える質問を行い、小川洋知事(当時)から前向きの答弁を引き出していた。

その県議会質問が起点になる形で、住民から激しい反対運動が起きることになるバイオマス発電の建設計画が急速に進むことになる。本サイトで今月1日に報じた経済産業省九州経済産業局による公文書の隠蔽(既報)は、そのバイオマス発電所建設計画の『瑕疵』が露見することを恐れた関係者の意向によるものだったとみられている。

■県議会質問後、急浮上したバイオマス発電所建設計画

問題の議会質問を行ったのは、昨年、選挙区である田川市内に大量の違法ポスター(*下の写真)を大掲示していたことでハンターの追及を受けた佐々木允県議会議員。バイオマス発電の推進を訴えた同氏の質問内容を、県議会議事録から抜粋した。

まず、再生可能エネルギーの普及促進について知事にお伺いをいたします。我が国では、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を契機として、国民生活や経済活動の基盤であるエネルギー、とりわけ再生可能エネルギーの普及促進が進められています。2012年7月からは再生可能エネルギー固定価格買い取り制度が導入をされ、太陽光、風力、中小水力、地熱などを用いた発電施設の導入が進んでいます。また、先日発表された国のエネルギー基本計画改定案では、再生可能エネルギーを主力電力化することを目指しています。

本県では、安定的なエネルギー、電力需給を確保し、産業の活性化や雇用の確保を図るため、2013年2月に福岡県地域エネルギー政策研究会を設置し、県に対して、新たなエネルギー社会を先導して実現するための課題や取り組みをまとめた報告書を2015年3月に提出し、この提言を県は指針に置きかえています。

そこで一点目に、再生可能エネルギーを主力電力化していくという国の新しい方針案について、知事としてどのように認識しているのかお聞きをいたします。

二点目に、県指針から三年経過しましたが、これまでの県指針の進捗状況についてお示しください。
この指針の推進機関として小川知事は、自身を本部長とする福岡県エネルギー政策推進本部を設置しています。しかし、その推進本部については、これまで4回会議を行ったのみで、2017年5月を最後に1年以上開催されず、最近では6月4日に開催されたということです。また、県民生活にも直接かかわりのある分野であることから、広く情報公開をすべき分野にもかかわらず、第一回の本部会議の様子はホームページに記載があるものの、その後はその記載すら行われず、エネルギー関連施策がどのように進んでいくのか、県民には十分な情報発信ができていない状況です。

そこで三点目に、この推進本部の位置づけを改めてお聞きするとともに、果たして3年間4回の会議で、推進本部としてどのような成果があったのか具体的にお示しください。また今後、推進本部の活性化と情報発信について、知事としてどのように取り組まれていくのかお聞きをしたいと思います。

県指針では、再生可能エネルギーの今後の現状について、太陽光発電に偏重した現状を改め、多様な再生可能エネルギーの導入を進めることが必要であると述べています。一方、2016年度末における本県の再生可能エネルギーの設備容量のうち、太陽光発電の割合は約92%となっており、依然、太陽光発電に偏りを見せているのが現状であります。

そこで四点目に、本県における太陽光以外の再生可能エネルギーの普及の必要性について知事はどのように認識しているのかお聞きするとともに、県指針に基づき、太陽光発電以外の再生可能エネルギー推進のため、県として今後どのような取り組みを行っていくのかお答えをください。

本年3月に行われた地域エネルギー政策研究会の検討課題として、地域資源を活用したバイオマス利活用の拡大を実現するための地方の取り組みとして、特に地域の未利用間伐材を利用したバイオマス利活用事業の可能性について討議がされている状況です。現在、本県の未利用間伐材を使ったバイオマス発電所はありませんが、未利用材は1年間に約39万二2千トン発生しており、国のエネルギー基本計画改定案にも、地域に密着したエネルギーとして長期安定的な電源の一翼を担う存在として期待がされています。

そこで五点目に、現在の本県の未利用材の利用量の状況についてお聞きします。その上で、未利用間伐材などバイオマス利活用を県内で行っていく必要性について、知事としてどのように認識しているのかお聞きします。

2009年に策定されたバイオマス活用推進基本法に基づき、2010年、国としてバイオマス活用推進基本計画が策定されました。その中で、都道府県にもバイオマス活用推進計画の策定を求めており、当初2年後の2020年度までの策定を求めていました。しかし、2020年度までに全都道府県での策定が困難であることから、2025年までに全都道府県での策定達成に改められたところであります。現在、18の道府県で策定されているものの、本県は未策定となっていますが、バイオマスを取り巻く社会情勢の変化に的確に対応するためにも、また全都道府県での計画策定を国も求めていることからも、計画策定は急務であると考えます。

六点目に、計画の策定の必要性について知事の認識をお示しください。その上で、県バイオマス活用推進計画策定に向けた取り組みについてもお聞きします。

本県は、私の地元田川市を初め県内各地に産炭地を抱え、日本の近代化と経済発展を石炭というエネルギーで支えた地域であります。ぜひ、再生可能エネルギーという新しいエネルギーにより光を当て、エネルギー立県として大きく飛躍することを期待し、この項を終わります。

質問に対する小川洋知事(当時)の答弁は、「木質バイオマスを県内で利用することは、間伐材の有効活用はもとよりのこと、雇用の創出などによる地域の活性化にもつながってまいりますことから、引き続きその利用の拡大に向け、しっかり取り組みを進めてまいります」というもの。バイオマス発電の促進に向けて、佐々木氏が県の前向きな姿勢を引き出した格好となっていた。

バイオマス活用推進計画の策定について知事は、国が示しているバイオマスの種類について、各計画に基づき、その利用を進めていると述べられています。しかし、現在、本県で数値目標を定めているのは、このうちわずか3項目だけであります。一方、国の計画には9項目挙げられており、また国が都道府県向けに作成したマニュアルには15項目の数値目標が定められています。また、ことし3月に行われた福岡県地域エネルギー政策研究会で農林水産省からは、全都道府県による計画策定を目標としていることが述べられたばかりであります。しかも、この計画は本来あと2年後の2020年度までに策定が求められ、農水省は6年前の2012年9月には詳細な中身を示した策定のためのマニュアルまで準備をしている状況です。そして、まさに先ほど知事は、地域の特性を生かした多様なエネルギーのさらなる普及、拡大に取り組んでまいるとも述べています。

バイオマスに関しては、その原料、電力、熱、いずれも数値化しやすい分野であります。未利用材の県内発生量に関して、県内での利用率、利用量は、率にしてわずか6.6%であることも今回明らかとなりました。数値目標があるかないかで、その施策の進捗に大きな差があることは知事も十分認識されていることと思います。改めて、バイオマス推進計画について、その策定に向けた検討を早急に行っていただくよう強く要望して、一般質問を終わります。

この質疑の翌年(平成31年=2019年)、田川市においてバイオマス発電所の建設計画が突然浮上。あっという間に発電所建設が決まり、地元住民の意向を無視して計画が進むことになる。詳細は今後の配信記事で明らかにしていくが、いかに急な動きだったかを理解いただくため、一連の流れをまとめた。

 政治家の熱心な再生エネ推進論が、田川市に大手企業の進出を実現させた格好だ。しかし、佐々木氏の議会質問が、田川市においてバイオマス発電事業を進めようとしていた南国殖産という企業にとってプラスに作用したのは疑う余地がない。事実、佐々木県議は住民を置き去りにしたこの計画が進む過程で、南国殖産側に立った動きをすることになる。

(以下、次稿)

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