「日大闘争」から53年|物言わぬ学生たちへの失望

秋田明大(あきた あきひろ)という名前を記憶している日大OBはどのくらいいるだろうか。1968年、教授の脱税や水増し入学を発端に、国税の調査によって数十億円に上る使途不明金が発覚した日本大学で、多くの学生が正常化を求めて立ち上がる。『日大闘争』の始まりだった。秋田は、闘争の中核となった「日大全共闘」の議長として知られた人物である。

秋田が主導した全共闘は、当時の日本大学トップ・古田重二良会頭を含む全理事の退陣や使途不明金についての説明などを求め運動を展開。曲折を経て3万人もの学生が参加したといわれる「大衆団交」を実現させ、大学当局を追い詰めた。

暴力的な闘争方針が警察官の殉職を招くなどしたため、最終的には国家権力の介入によって沈静化することになるが、日大の不透明な運営体制に“学生”が声を上げたことは確かだった。

53年後の今年11月29日、その日大に理事長として君臨してきた田中英寿容疑者が、同大学を舞台にした背任事件に絡む脱税(所得税法違反)の容疑で東京地検特捜部に逮捕された。現代の日大生たちはどう動いてきたのか――?

◇  ◇  ◇

日大闘争は50年以上も前の話。時代が違えば、若者を取り巻く環境も、若者たちの気質も変わって当然だ。昔の学生と現在の学生を比較するのは、それこそ「ナンセンス」と笑われそうだが、10月に日大板橋病院の建て替え工事を巡る背任事件で井ノ口忠男元理事らが逮捕されてから田中容疑者に手錠がかけられるまでの過程で、現役学生が大学当局を厳しく追及する場面がなかったことには正直、失望した。

人数を揃えて大学当局と対峙した全共闘の真似事をやれとは言わない。コロナ禍の中、デモなどアッピールの手段が禁じられていたことも分かる。しかし、署名を集めるとか、ネット上で議論を重ねるとか、いまの若者らしい意思表示はできたはずだ。日大は学生数約7万7,000人を擁する日本一のマンモス大学、一斉に声を上げれば、大学側も無視はできなかったろう。

要求はシンプルに、全理事の退陣と不透明な資金の流れの解明、最終的には学内の正常化だ。日大が掲げる教育理念は「自主創造」。学生たちは、日大生としての誇りを持って歪んだ権力体制と戦うべきだった。田中容疑者の逮捕後、同大学の1年生がツイッター上で現役生対象の署名集め(「日本大学へ運営体質改善を求める署名」)を始めているのが、せめてもの救いだ。(*下が署名を求めるツイッターの画面)

もっとも、一番だらしなかったのは、逮捕されるまで理事長を退任させることができなかった日大の理事会。マンモス大学を経営する能力も自覚もない集団であり、ただ存在するだけの評議員会や教授会も、学生に偉そうなことを言う資格などない。

ちなみに、日大の「危機管理学部」は田中氏が理事長として2016年(平成28年)に創設したものだが、自分の大学組織の危機は救えなかった。

◇  ◇  ◇

それにしても、日大に限らず、大学生は大人しくなり過ぎた。ゲバ棒とヘルメットで闘えと言うつもりは毛頭ないが、近年、権力や世の中の理不尽に対し、大学生が声を上げるシーンを見た記憶がない。

例外として記憶に残る学生たちの動きといえば、2015年に国会前で安全保障法制への抗議を展開した学生団体「SEALDs(シールズ)」のことくらいだが、それも1年あまりの活動期間で幕を下ろした。選挙権年齢が18歳まで引き下げられたにもかかわらず、権力に対する若者の批判精神はしぼむ一方だ。その証とも言えるのが、年代別の政党支持率である。

自民党を支持する割合が多いとされる年代は、10代後半から30代にかけての若者。かつては権力ともっとも遠かった若者たちが、安定を求めるようになったということだろう。批判精神が失われていく中、口だけは一人前の若者ばかりが増える。

◇  ◇  ◇

口は達者だが、言うべきことを言わない――。昨年から世界中に影響を与えてきた新型コロナウイルスの脅威が、そうした学生ばかりになったことを改めて教えてくれた。

コロナ感染が拡大したとたん、全国の大学が学生の構内への立ち入りを禁じ、対面授業からリモートへと切り替えた。そのため理工系の学生などは修学に必要な「実験」ができなくなり、中途半端なままで進級や卒業を余儀なくされている。大学の施設は使わせないのに授業料は満額請求するという理不尽な対応がほとんどなのだが、意義を申し立てたのは一部の学生だけだった。学費を支払う親の身にもなってみろと言いたい。

一番情けないと思うのは、幼稚園・保育園や小中学校、高校の児童生徒が整然と対面授業を受けるようになっても、大学だけがダラダラとリモート授業を続けてきたことだ。児童生徒にできることが、「最高学府」であるはずの大学や、そこで学ぶ若者にできないという現実に、暗然とする思いだ。かくいう筆者は、日大に4年次まで通い、中退した自称OB。秋田明大という人物の名前が、妙に懐かしい。

 

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