さよなら安倍政権|世論調査と民意

第二次安倍政権が発足してから7年半、国民は「一強」という政治状況を憂いつつも、4割を超える高い支持率を与える形で安倍政治を容認してきた。

「私は認めていない」という声が聞こえてきそうだが、特定秘密保護法に始まり集団的自衛権の行使容認、安全保障法制、共謀罪法と、戦前回帰路線を突っ走ってきた安倍首相を、主として「他に適任者がいない」「野党は信頼できない」といった消極的な理由で国民が支持してきたのは事実だ。

支持率は選挙結果に直結しており、安倍晋三氏が首相になってから行われた2014年と17年の総選挙、2013年、16年、19年の参院選で、自民党は圧勝している。それは正しい選択だったのか――。

■破綻した安倍政治

高い支持率という免罪符を得た首相は、森友や加計といった昔ならとうに政権が吹っ飛んでいたはずの疑惑でさえ闇に葬り、好き勝手を続けてきた。歴内首相が絶対に手を出さなかった検察幹部の人事まで牛耳ろうとしたのは、彼が「独裁者」になった証左だろう。

歪みが顕在化した「一強」にストップをかけたのが、世論を無視して強行した検察人事と、目に見えないウイルスだったことは衆知の通りである。

目をかけた東京高検検事長は、検事総長就任を前に“賭けマージャン”で退場。新型コロナウイルスの対策で後手に回り、失地回復を狙って打ち出したアベノマスク配布や、自粛期間中に配信した自宅で優雅な時間を過ごす動画は、かえって傷口を広げる結果になっている。一律10万円の特別定額給付金は都市部での支給が遅れており、政権の対応に満足している国民は皆無に近い。

悪いことは重なるもので、政権の支えになっていたアベノミクスはコロナ不況で化けの皮が剥げ、北朝鮮のミサイルに対抗するためと称して導入を決めた新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画が停止に追い込まれるなど、これまでの重要政策が次々と破綻した。得意の安全保障でつまづいた上に、「私の内閣で解決する」と明言した拉致問題は一向に進展せず、今月6日には北朝鮮にさらわれた娘に会うことなく拉致被害者家族の象徴的な存在だった横田滋さんが亡くなった。

いまや「三本の矢」も「一億総活躍」も昔話。安倍政権の看板政策だった国家戦略特区も、首相と首相のお友達による怪しい仕組みとして認識されているだけだ。「インバウンド」や「観光立国」の危うさについては、論じる必要もないだろう。

■20%を下回る数字も

首相側近の河井克之元法相と妻で参院議員の案里氏が、公選法違反(買収)で逮捕されたことも政権にとっては大変なマイナス材料だ。これだけ悪い要因が揃えば、当然「支持率」は下落する。

これまで、どれだけ不祥事や強引な政権運営が行われても、安倍政権は世論調査で4割以上の数字を保持してきた。おそらく、大多数の人が肌感覚との違いを感じ、調査結果への疑念を抱いてきたのではないか。

ハンターの編集部も「世論調査の結果には納得できない。報道機関が数字をいじっているのではないか」「肌感覚と違い過ぎる」「周りに安倍さんを支持する人はいないのだが……」といった読者メールを数多く頂戴してきたのだが、ここに来てようやく世間の思いと調査結果とのズレが無くなりつつある。

朝日新聞が今月20、21日に実施した全国世論調査によれば、安倍内閣の支持率は31%。5月調査の29%から若干上げたとはいうものの、不支持率は52%に達している。他の大手メディアが実施した世論調査も、「安倍内閣を支持する」と答えた人の割合はすべて30%台だ。

一方、沖縄の琉球新報が中旬に行った世論調査では、安倍内閣を「支持する」と答えた人が18・73%、「支持しない」は66・33%という結果が出ている米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事を強行する安倍政権に対する反発を考えると、当然の結果とも言えるのだが、低支持率は沖縄に限ったことではない。

信濃毎日新聞が先月末に実施した新型コロナに関する長野県民の意識調査では、内閣支持率18.6%という数字だったことが報じられており、本土でも政権離れが進んでいることをうかがわせる。

安倍政権の支持率が20%を切ったという話を「当然だ」と思う人はいても、「そんなバカな」と反発する国民は少数だろう。肌感覚と調査結果との差が、ようやく無くなってきたとも言える。

■囁かれる解散・総選挙

安倍政権を支えてきた高い支持率は、主に都市部の20代~40代によるもので、地方では10ポイント近く低くなる傾向がある。都市圏偏重で格差を広げた安倍政権に対する地方の怒りは、確実に増大しているとみて差し支えあるまい。

先月ハンターが鹿児島市内に限定して行った調査では、「安倍政権を支持する」が30.27%で、「支持しない」は50.52%だった。全県を対象にすれば、政権支持のポイントはさらに減るものとみられる。保守の牙城といわれる鹿児島でも、安倍の不人気は決定的なのだ。

安倍の悲願だった憲法改正は、もはや望むべくもない。世界中で感染拡大が止まらない以上、オリンピック政治的なレガシーにすることさえ難しい状況だ。追い込まれた安倍の周辺で囁かれ出したのが、秋の解散・総選挙である。

問われるのは「解散」の大義名分だが、そもそも安倍に解散権を行使する資格があるとは思えない。

一連の不祥事やコロナ対策の失敗について、「真摯に向き合う」「責任がある」というのなら、総辞職して次の総理・総裁に解散権を委ねるべきだろう。

2017年(平成29年)、モリ・カケ疑惑で追い詰められた安倍首相は、核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮を引き合いに出し、「国難突破解散」と名付けて総選挙に打って出た。「疑惑隠し」のための衆院解散であることは誰の目にも明らかだったが、希望の党を立ち上げた小池百合子都知事の“排除発言”に助けられた形で、与党は圧勝する。

首相は二匹目の泥鰌を狙うつもりだろうが、支持率が下がり続ける中、自民党の影響力低下を示す事例が目立ち始めている。

27日、日本医師会の会長選挙が行われ、安倍首相や菅義偉官房長官と太いパイプを持つ現職の横倉義武氏が落選。長年副会長として横倉体制を支えてきた中川俊男氏が新会長に選出された。官邸の影響力が低下した象徴的なケースだとみられている。

5日に投開票される東京都知事選選挙では、自民党都連と敵対してきた現職の小池百合子氏が圧勝する勢いで、候補者擁立を見送った自民党はすっかり影が薄くなっている。

また、本土最南端の保守県・鹿児島では、25日に告示された知事選で、自公が推薦を決めた現職の三反園訓氏が大苦戦。7名が立候補するという乱立選挙で、2位か3位にとどまる可能性が囁かれる状況になっている。

ある自民党の国会議員は、ため息交じりにこう話す。
「安倍さんでは総選挙は戦えない。このまま(選挙に)突っ込めば、惨敗必至だろう。コロナの終息が見通せないなかで、国民は選挙どころではないはずだ。前回の総選挙で森友と加計を乗り切ったもんだから、今度もうまくいくと思っているとしたら、とんでもない間違い。給付金の10万円が届いていない家庭も少なくない。世論調査の数字は、政権への不満を正確にすくい上げているとは思えない。底流には、もっともっと強い反発がある。解散する前に、総辞職するべきだ」

■さよなら安倍政権

戦争を経験した人が減るのに従い、偏狭なナショナリズムを鼓舞する輩が増えた。この国の戦争犯罪から目を背ける人も、安倍政権になって確実に増えている。

一方、沖縄では県民の声を黙殺して、辺野古基地の建設工事が進められてきた。想像力の問題になるが、あなたやあなたの住む地域の声が権力によって踏みにじられるという理不尽な仕打ちを受けたら、どうするだろう?あるいは、住まいの周辺に軍事基地を造られたら?米国に追随して、戦争に巻き込まれたら?

世論調査や選挙で安倍政権や自民党を支持することは、間違った権力行使を認めるということだ。新型コロナ対策は確かにお粗末だったが、もっとも批判されるべきは、安倍晋三という政治家が戦後70年以上をかけて先人たちが築き上げてきた「平和国家」の根幹を、いともたやすく崩したことだろう。

安倍政治の薄っぺらさが見えた今こそ、「さよなら安倍政権」という民意を、世論調査の結果に反映させねばらない。

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