先月のある日、福岡県福智町赤池にある焼肉店に、飲食を共にしながら楽しそうに語り合う数人の男たちがいた。
語り合うといっても、大声でしゃべっているのはほとんど一人の人物。大臣経験もある大物政治家だった。かなり酔っていたらしく、他の客の席に来て「久しぶり」などと声をかけてきたというから機嫌が良かったのは確かだ。件のご一行様は競馬についての話題で盛り上がり、元大臣は「このメンバーで有馬会でもつくるか」などとご満悦の様子だったという。
呆れたのは同席していたうちの3人が、新聞記者だったということ。一部始終を見聞きしていた人の話によれば、朝日の筑豊担当と他の大手新聞の記者、そして西日本新聞の田川支局長だった。彼らの顔と名前を知っていた、ということだ。よほどやり取りが面白かったらしく、その客は元大臣ご一行の会話をしっかり記録していた。
当然地元がらみの話題に及んでおり、元大臣らは、酒の勢いもあってか田川市長を罵ったり大任町の元副議長を呼び捨てにするなど言いたい放題だった。大任町や田川市が犯した「情報漏洩」に自分の秘書が関わったのかどうか聞かれた元大臣は、「知らなかった」と答えている。記者たちは、相槌を打ちながら飲み食いし、時折質問する状況だったという。
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新聞記者が政治家の懐に飛び込むのは仕事上必要なことであり、悪くはない。しかし、それはあくまでも1対1の関係においてだ。違う新聞社の記者達が、政治家を囲んでにこやかに飲食する姿を見た読者はどう思うか――考えればわかるだろう。
共同記者会見でもないのに、政治家が発した情報を他社の記者と共有することを普通だと考えているとしたら記者失格。会社が咎めないというなら、報道の堕落に他ならない。
言うまでもなく報道の使命は権力の監視にある。どんなに親しくなっても、政治家と一定の距離を保っていなければ、いざという時の批判記事は書けまい。
お粗末過ぎてため息をつきたくなったのは西日本新聞の記者の言動。「西日本新聞の中で俺の味方はあんただけだよ」との元大臣の持ち上げ言葉を受けた記者は、うれしそうに「私の名前、覚えてくれてますよね。○○ですよ」と返していた。この記者が書く元大臣に関係する記事を評価する読者がいるだろうか?
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先月30日、自民党の小林鷹之政調会長が、誕生日を祝ってもらったとしてXに一枚の集合写真を投稿した(*下の画像参照)。

小林氏を囲んでいるのは「番記者さんたち」(小林氏の表現)。なれ合いの象徴を堂々とSNS上に展開した小林氏の見識を疑うしかないが、一緒に記念写真に納まった番記者たちにはがっかりだ。取材する側とされる側の境界線を越えた付き合いに、田川郡の焼肉屋で元大臣と飲食を共にし、盛り上がった記者たちの姿が重なる。
新聞の購読者が減り続けている原因は、権力に迎合して戦おうとしない記者が増えたからだ。そんな連中の記事が、読者の心に響くはずがない。新聞を購読している20代の若者は1割に満たないというのが現状で、ネット上の情報こそが真実だと信じる人が増えている。報道が死んだ時、国がどのような道をたどるかは、80年前のこの国の惨状を振り返れば解る。
初の女性総理がもてはやされる一方、ヒロインが招こうとしている新たなる戦前に警鐘を鳴らす報道は数えるほどだ。“政治家と飲み食いする時間があるのなら、もっとましな原稿を書け”と言いたい。
(中願寺純則)















