高市政権が目指す「軍産複合体国家」|戦後80年の節目に現出した“新たな戦前”
「軍産複合体」とは、軍部、軍需産業、政治、行政が結びついて相互利益を享受する体制のこと。アメリカのアイゼンハウアー第34代合衆国大統領が退任演説で用い、その影響拡大に警鐘を鳴らしたことで知られる。日本に置き換えれば自衛隊、防衛装備品メーカー、政府という組み合わせだ。
戦争好きなアメリカが軍産複合体国家であることは言うまでもないが、戦後80年を経て誕生した極右政権が日本を同じ道に導こうとしている。「新たな戦前」の始まりである。
■首相の狙いは核保有
高市早苗首相は、平和国家であることを誇りにしてきた日本の安全保障政策を根底から覆すつもりだ。台湾有事を我が国の「存立危機事態」に結びつけたことでもわかる通り、高市氏が目指しているのは“戦争をするための軍事力強化”。そのため、2025年度補正予算で防衛費1.1兆円を計上。今年度の防衛費は、アメリカの要求を呑んだ形でGDP(国内総生産)比2%に達している。
防衛費の大幅増に続いて政権が実現に向けて動いているのが次の2項目だ。
・「非核三原則」の見直しによる核兵器持ち込み容認。
・「防衛装備移転3原則」の見直しによる防衛装備品の輸出規制撤廃。
非核三原則=「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」は平和国家日本の国是。歴代内閣はこれを堅持してきたが、高市氏はこの中の「持ち込ませず」を消し去り、二原則に変えることを目論む。
唯一の被爆国であるという事実を忘れ、核兵器持ち込みを認めることは国家への冒涜だ。仮想敵からみれば「脅威の拡大」であり、対抗措置としてそれを凌駕する軍備強化に走らざるを得なくなる。核は抑止力にならないということだ。
問題は、右翼的な政権の誕生で調子に乗った「戦争屋」たちが、「核持ち込み」を飛び越えて「核保有」を叫び始めていること。総理大臣補佐官を務めている尾上定正元空将による「核を持つべきだ」との発言は、ついうっかりというものではない。
核武装論者は、核持ち込みを認めなければ日本や周辺で「有事」があった時に十分な対応ができないと主張。それを根拠に、非核三原則第3項の「持ち込ませず」の削除、さらには核保有や核シェアリングを提言する。こうした危険な主張を繰り返す人物を「核軍縮・不拡散問題担当」の総理補佐官に任命していることをみても、高市氏の狙いが「戦争のできる国」の実現にあることは確かだ。
高市氏ら右派の最終目標は米国の核ではなく自前の核。しかし、アジア諸国が反発を強めるのはもちろん、アメリカでさえも日本の核保有には反対。同国の国務省は、元空将の核保有発言を受けて「米国にとって日本は核不拡散と核軍備管理の推進で世界のリーダーであり重要なパートナーだ」と表明しており、右急旋回の高市政権にくぎを刺した格好だ。
■「死の商人」育成を宣言した小泉防衛相
核保有を含む軍備拡張に必要なのは膨大な「予算」である。財源となる税収を上げるためには経済の発展が必須。そこで登場したのが、車や機械・機器といった従来の輸出品の主役ではなく「防衛装備品」である。
小泉進次郎防衛相は、就任後初の記者会見で防衛装備移転3原則(旧・武器輸出三原則:「➀移転を禁止する場合の明確化」「②移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開」「③目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保」)や運用指針の見直しを進める方針であることを表明。合わせて「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型に限っている防衛装備品輸出ルールの撤廃を視野に入れると明言した。
以後、武器輸出に関しては「もっと稼いでいきます」と前のめり。国内の防衛産業を経済の中心に据え、稼げる防衛装備品の輸出拡大を推進していく意向を示している。
一連の発言から連想されるのが、「殺傷兵器」を輸出して国内の防衛産業を潤し、以て経済を回していく「軍産複合体国家」。要は「死の商人」を育てようということだ。コメ大臣から武器大臣になった小泉氏に、80年前の日本の惨状は見えていない。
■拡大する防衛費、お粗末な物価高対策
総理補佐官による核保有発言、小泉防衛相の武器輸出拡大方針、自民と日本維新の会が進める「非核3原則」「防衛装備移転3原則」の見直し――。平和国家から軍産複合体国家へと変貌しようとしている現状を象徴するかのように、2025年度補正予算18兆3,034億円のうち、防衛費は1兆1,000億円という巨額なものとなった。
25年度当初予算における防衛費は約9兆9,000億円。補正予算で加算された1.1兆円と合わせると約11兆円に上り、「国内総生産(GDP)比2%」に達している。さらに高市政権は、膨れ上がる一方の防衛費の原資を確保するため、所得税に「防衛特別所得税」として1%を上乗せすることを決めている。「増税」である。
これに対し、物価高対策の目玉となったのは子育て世代向けの2万円と、誰も喜ばない3,000円ぽっちのお米券。国民の暮らしより軍事を優先する高市内閣が、高い支持率を誇っている理由が分からない。あなたは、「軍産複合体国家」を認めますか?
(中願寺純則)















