【新型コロナ】「逐次投入」で重なる安倍晋三と戦前の軍部

事態が悪化するたびに“自粛”の範囲を広げるが、後手に回った政府の対症療法では効果が得られず、にっちもさっちも行かなくなった――これが現在の日本の姿だろう。

新型コロナウイルスが国内で猛威を振るい始めて約2か月。安倍晋三首相が打ち出す策は、ことごとく的外れに終わり、感染拡大のスピードは緩む気配さえない。窮地に立った首相は17日、ついに緊急事態宣言の対象を全国に広げると言い出した。アベノミクスノの「三本の矢」同様、放った矢がすべて落下した格好だ。

■蘇る戦前

こうした事態を招いた責任が政府にあるのは間違いないが、張本人の安倍首相は右往左往するばかりで思い切った手を打てていない。「後手に回る」という言葉が、これほど当てはまるケースは稀だろう。安倍首相が「悪夢」と罵ってきた民主党政権の、東日本大震災への対応より酷い。

新型コロナ対応が“戦い”であるとするなら、政府がやっているのは、戦いにおいてもっとも避けねばならない「戦力の逐次投入」であり、このことについては、すでに複数の識者がネット記事などで言及している。

歴史に詳しい人が想起するのは、「ガダルカナル」という舌を噛みそうな島の名前だ。敗戦を招いた日本の軍部――とりわけ陸軍――が犯した「兵力の逐次投入」の、代表例となった戦闘が行われた南洋の島である。

ソロモン諸島の制空権確保を狙った日本軍は、1942年(昭和17年)7月にガダルカナル島に上陸。島内に飛行場を建設した直後、大挙して押し寄せた米軍に圧倒される。ガ島には数百名の兵力しかなかったため援軍が送られることになるが、陸軍は数百~数千人規模の派兵を繰り返しては全滅させられるという失態を演じ、わずか5か月で2万人を超える死者・行方不明者を出して撤退する。死者の半数以上は餓死か病死だったとされ、これが明治以降の戦史上、もっとも軍部の無能さが露呈したといわれるガ島における「戦力の逐次投入」の概要だ。

戦争好きの安倍首相はもちろんガダルカナルの失敗を知っていたはずだが、新型コロナウイルスとの戦いでは、歴史に学ぶ姿勢がまるっきり見えてこなかった。「先手を打った」という事例は、ただの一度もない。

春節を迎えた中国から、新型コロナの感染者が大勢日本にやってくることが分かっていながら、習近平の訪日問題にこだわったせいで入国制限を見送り、結果、国内の感染は拡大した。あとは周知の通り。マスクの手配も、感染症病床の確保も、経済的な支援策も、PCR検査の体制強化も、何もかもが後手に回っている。

唐突に打ち出した生活困窮者への30万円の給付も、政府・与党内の足並みが乱れて、補正予算の組み替えという異例の事態に――。すべての国民に10万円をばら撒くという結論に至ったが、きょう・明日の暮らしが危うくなっている人が多いというのに、給付はいつになるのか分からないという。

事態が悪化してから次の策を打ち出すという対症療法的な対応は、まさに「戦力の逐次投入」。安倍政権と戦前の軍部がみごとに重なる。

■「指揮官交代」が国を救う

「自粛」というのは文字通り、国民個々が自らの判断で動きを止めるということだ。マスク代466億円にしろ、経済支援で消える予算にしろ、もとは国民の税金。安倍首相は、会見のたびにいつになるか分からない感染症対策を誇らしげに語っているが、他人の褌(ふんどし)で相撲をとっているだけ。どうみても国民を率いるリーダーとしての資質を欠いている。感染者が日ごとに増えていることでも明らかな通り、新型コロナ対策は大失敗であり、戦力の逐次投入で事態を悪化させた責任は重い。

政権の力も落ちた。森友学園や加計学園を巡る疑惑で、霞が関に公文書の隠蔽や改ざんを強いた官邸が、新型コロナの危機対応ではまったく指導力を発揮できなくなっている。安倍首相への不信感が、政府の機能不全を招いていると言っても過言ではあるまい。

野球やサッカーなどのスポーツでチーム力が上がらず、敗戦が続けばどうなるか――。いずれのケースでも同じだが、「監督交代」だ。戦いの最中に指揮官を変えることで、チームが生き返ることはよくあることだし、凡将・愚将は早々に交代させなければ傷口が大きくなる。

安倍首相は17日の衆院厚生労働委員会で、週刊誌が報じた昭恵夫人の大分旅行について聞かれ、「東京都知事が週末の外出自粛を要請した3月25日より前だ」として問題ないとの見解を示した。しかし、首相の「イベント自粛要請」は2月26日、翌27日には「休校要請」を行っている。そうした中での昭恵夫人の旅行が、どれだけ苦しんでいる国民の感情を逆なでするのか、首相はまるで理解できていない。

報道によれば、昭恵夫が大分を訪問したのは3月15日。23日には先ごろ問題となった都内でのお花見食事会を開いていたことが分かっており、「自粛」とは程遠いファーストレディの姿勢に、世間の批判が集まるのは当然と言えるだろう。自分の妻に国民軽視をたしなめるどころか、非を認めずに問題ないと開き直る首相の態度は、「撤退」を「転進」とごまかし、「全滅」を「玉砕」と続けた戦前の軍部と同じである。いまこの国を救うために必要なのは、総理大臣を代えることではないのか。

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