新型コロナウイルスが国内で蔓延しはじめて約8か月、収束する見通しが立たぬまま、秋から冬にかけての爆発的な感染拡大が懸念される状況だ。
国や自治体は、連日新型コロナに関する情報を公表しているが、感染者や死者の数が中心で、国民にとって本当に必要な情報が開示されているわけではない。
感染した患者の行動履歴、症状、回復状況、死亡に至ったケースの経過、「軽症」の容体等々、ほとんどの国民が実情を知らぬまま、「コロナは怖い」という強迫観念にさいなまれる日々が続いている。
よくテレビの情報番組で「正しく怖がりましょう」などと言っているのを見かけるが、ウイルスの正体も、感染実態もよく分からない中で、「正しく怖がれ」はないだろう。無責任にも程がある。
■市町村には伝えられない保健所のコロナ情報
実は、新型コロナの「情報」に関する一番の問題は、都道府県と市町村との間で情報共有がほとんどなされていないことだ。縦割り行政の弊害と、過剰な「個人情報保護」が、都道府県から市町村への情報開示を阻んでいるのである。
あまり知られていないようだが、特別区や政令市、中核市を除く市町村には、保健所が掴んだ感染者に関する情報の、最低限の内容しか伝えられない仕組みになっている。
市町村が知らされるのは年代(年齢ではなく)、性別、職業、発症日、重症度、濃厚接触者の有無など。氏名や年齢、住所、勤務先、行動履歴などの詳しい情報については、都道府県が把握しているだけで、市町村には一切伝えられない。
特別区、政令市、中核市以外の保健所を所管しているのが都道府県だから――というのがその理由だ。
例えば、政令市である福岡市や北九州市、中核市である久留米市はそれぞれが保健所を設置できるが、それ以外の市町村には県の出先である保健所しかない。
鹿児島県なら鹿児島市以外の市町村にある保健所は、すべて県の所管だ。
では、なぜ詳細な感染者情報が市町村に伝えられないのか――?福岡県感染症対策課に、市町村に提供されるコロナ感染者情報について問い合わせたところ、「県は詳細に把握しているが、個人情報保護の観点から、個人が特定されないよう配慮した形で提供している。市町村が発表している内容と同じ内容である」という回答だった。どこの都道府県も、ほぼ同じ理由で、市町村への詳しい情報開示を行っていない。
同じ「役所」でありながら、市町村には「個人情報」だから教えるわけにはいかないというのだ。「縦割り行政」の弊害と、過剰な「個人情報保護」が、結果的に国民の命を危険に晒していると言っても過言ではあるまい。
■守るべきは「命」だ!
様々ご意見のあるところだろうが、命より重い「個人情報」があるとは思えない。新型コロナは、少しでも早く感染の連鎖を止めることが重要で、そこに「個人情報保護」という壁を作ったら作業が止まることになる。県と市町村の垣根を越えて情報の共有化を図らなければ、これから先の事態には対応できないだろう。
そもそも、感染者の詳細な情報を知り、行動履歴や濃厚接触者の確認が素早くできるのは、地域を誰よりもよく知る市町村の職員であって、保健所の職員ではない。守秘義務については十分理解しているはずの同じ地方公務員である以上、都道府県も市町村もない。
守らなければならないのは、役所の掟ではなく住民の命なのだということを、都道府県の知事は再確認すべきである。