【菅首相退陣】立憲・枝野氏らの「無責任」批判への不快感

政治家としては安倍晋三前総理に次いで嫌いだった菅義偉氏が、自民党総裁選への出馬を辞退し、今月末の任期切れと同時に政権の座を明け渡すことになった。後手に回るばかりの新型コロナウイルス対策を、「失政」と評価された末の退陣劇だ。急転直下の首相退陣に右往左往する自民党にも呆れる思いだが、もっと不愉快だったのが野党幹部らの反応だった。

◇ ◇ ◇

たしかに、感染拡大が予想されるなか、強引に東京オリンピックとパラリンピックを開催し、結果として現在の医療崩壊や患者の増加を招いた責任は重い。欧米諸国から大きく後れをとったワクチン政策も、決して「よくやった」とは言えないものだろう。だが、コロナの初動で役に立たないマスクを配るなど間違いばかり犯した安倍前総理は、菅氏以上に責任を感じるべきだし、そうした意味では安倍―菅政権を支えてきた自民・公明のすべての国会議員も同罪というしかない。

総裁選を前に突然人変わりして菅首相批判に転じ、コロナ対策を打ち出した岸田文雄元外相にも共感できない。彼は昨年まで党の政策責任者である政調会長だったはず。総裁選出馬に向けた政策発表では「先手先手の対策」を強調していたが、なぜ」政調会長在任時に「先手」を打たなかったのか――?おそらく、岸田氏は答えに詰まるはずだ。

ワクチン担当大臣として期待されながら、大した仕事もできていない河野太郎氏も、総理総裁の器ではないと感じる。小泉純一郎元総理同様の「変人」だが、「郵政民営化」のような軸を持たないからだ。

河野氏は2012年、超党派の議員らが立ち上げた「原発ゼロの会」に参加し、政策提言に同調した。その折、自身のブログ「ごまめの歯ぎしり」に、“政策提言骨子の発表にあたって”の一文を掲載していた。一節に、こうある。
東京電力福島第一原発事故を踏まえて、我が国の政治がなすべき第一は、「原発ゼロ」に向かうという決断である

ところが閣僚になった彼は、原発ゼロについて発言することはなくなり、その理由を問われて次のように言い訳している。
外に向かっては、政府で決めたことを言うのが議院内閣制のルール

閣僚になろうが、党の要職につこうが、政治家が持論を封印して権力にへつらうのは有権者への裏切りに他なるまい。だから、河野太郎という男は信用できない。しかし、この人たち以上に信用できないのが、野党の面々だ。

◇ ◇ ◇

菅氏の退陣表明を受けて、枝野幸男立憲民主党代表は強い語調で「無責任」だと非難した。
「こうした事態に至ったことに対しては、甚だ怒りを持って受けとめているところであります。総理も無責任でありますし、またこうした状況を作り上げた自民党全体にも、もはや政権を運営する資格はないと言わざるを得ないというふうに思っております。自民党の党内の権力闘争ではなく、速やかに新しい政権を発足させる。我々は、その準備が既に十分に整っているというふうに思っております」(記者団へのコメント)

同党の安住淳国会対策委員も、次のように批判した。
「衆院議員の任期が残り50日を切った中で、政治日程を一切決めないままに放り投げるのは無責任だ。国政の停滞にもつながる」(同)

社民党の福島瑞穂党首も、右へ倣いだ。
菅総理はあまりに無責任です」(同)

一様に「無責任」という言葉を使って菅氏を批判しているが、この連中は自分たちのこれまでの主張や、やってきたことを忘れたとでもいうのだろうか?

菅政権のコロナ対策を「失敗だった」と批判することに異論はない。その責任を問うのは、野党として当然の務めでもある。しかし、菅氏はコロナ対策に専念するために「総裁選には出ない」と言っているだけで、これが表向きの理由であろうと、任期いっぱい務めるのは確かだ。安倍氏のように、政権を放り投げるわけではない。それがなぜ「無責任」なのか?政治日程を一切決めないのは、いずれ総理・総裁としての資格を失うことがハッキリしているからで、むしろ決めないことが正解だろう。どう考えても「無責任」は間違いだ。

枝野氏は今年の4月、こう語っている。
「日本ではあまり例はありませんが、他の議員内閣制の国によっては。こうした危機の時に政府が機能しなければ、少数与党による危機管理・選挙管理内閣を作って、目の前の危機を乗り越えて、選挙を行うということは、各国の例ではいろいろありますし、日本では戦前、制度の違いはありますけども、そうした少数与党で選挙管理と危機管理を行うという前例があります。私は、それを求めていきたいと思っています」

 つまり、菅氏に「退陣しろ」と言っていたわけだ。それが退陣表明したとたんに「無責任だ」――。支離滅裂である。一体、どうして欲しいのか?「菅さん、もっと続けて」とでも言いたいのか?

安住氏にしても福島氏にしても同じことが言える。そもそも、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、社民党の野党4党は今年6月、内閣不信任決議案を提出し、菅内閣に退陣を迫ったのではなかったか。それが、菅氏が退陣表明をしたとたん「無責任だ」では筋が通るまい。一連の経緯からすれば、「遅きに失した」と言うべきだろう。

無責任なのは、安倍-菅体制にだんまりを決め込んできた自公の国会議員であり、批判ばかりで政権批判の受け皿になれなかった野党の議員たちなのだ。「国会議員全員、顔を洗って出直せ」ーーこれが国民の大多数の意見ではないのだろうか。

◇ ◇ ◇

記者が野党幹部らによる「無責任」の大合唱に腹を立てた理由が、もう一つある。「惻隠の情」を欠いた彼らの姿勢に、嫌悪感を覚えたからだ。

安倍氏はコロナ対策で行き詰まって政権を放り出したが、菅氏は最後までやると言っている。ならば、対峙してきた相手であろうと、最初に「ご苦労様でした」とねぎらうべきではないのか?「情」を無視した政治スタイルが立憲民主党の基本方針であるなら、次の選挙でこの政党に投票する気にはならない。

(中願寺 純隆)

 

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