検証・安倍政治|問われる「一強」の是非

次の総理・総裁になることが確実視される菅義偉官房長官が2日夕の会見で、安倍晋三政権の政策を「継承する」と明言した。つまり、民意を無視し、官僚の忖度に支えられる政治を続けるということだ。

寛容なのか悪ふざけなのか分からないが、直近の世論調査では、現政権を支持すると答えた人が20ポイント以上増えて約6割。安倍政治を引き継ごうとしている菅氏やその周辺はニンマリといったところだろう。

だが、歴史の分岐点では立ち止まって考えるのが大切。後継が誰になるにせよ、安倍政治の検証を怠ってはなるまい。

■8年やっても残せなかった「レガシー」

正確を期すなら“次の総理が決まれば”ということになるが、8年近く続いた安倍政権が、ようやく終わりを告げる。

「ご苦労様でした」とねぎらうのが大人の態度だと分かってはいるが、長期政権のこれまでを振り返ると、素直にそう言う気にはならない。

一億総活躍、女性が輝く社会、働き方改革、地方創生、クールジャパン、積極的平和主義等々――。ほぼ1年ごとに新しいキャッチコピーを生み出してきた安倍政権だったが、退陣すると分かって考えてみれば、成果として認められるものは何もない。

任期途中だからとか、病気を抱えながらなどという言い訳が通らないのは、辞任表明の会見で「政治においては、最も重要なことは結果を出すことである」と述べた首相自身が分かっていることだろう。

会見で首相は、自らの政治的なレガシーについて聞かれ、「国民の皆様が御判断いただけるのかなと、また歴史が判断していくのかな」とも答えた。おそらく多くの国民が、安倍さんのレガシーについては「?」というのが実情ではないのだろうか。

政権の最重要課題と位置付け「私の任期中に解決する」と明言した拉致問題はまったく進展しておらず、北朝鮮とは没交渉の状態だ。

「外交の安倍」という言葉を何度も聞いてきたが、歴代総理の中で最多となる外遊でやったことといえば、多額のカネをばら撒いただけで、何の果実も得ていない。中国や韓国との関係は冷え込んだままであり、ロシアにも軽くあしらわれただけだ。
派手に動いてはいたが、世界に向かって誇れる実績など皆無に等しい。

内政面での失敗も、数え出せばきりがない。差別主義者のトランプに追随し、6,000億円もの予算をかけて導入を決めたイージスアショアの整備計画は、コロナ禍に紛れて突然中止になった。

沖縄では、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対し続けている県民の意思を黙殺して工事を強行してきたが、埋め立て予定海域の下に軟弱地盤が確認されており、何兆円かけても滑走路ができない可能性が指摘されている。

直近の失政といえは、やはり政権を追い込んだ新型コロナ対策だろう。水際対策の失敗から迷走を続け、アベノマスクや30万円の臨時給付金で大きく躓いた。この過程で首相は、人気ミュージシャンがSNS上に公開した動画にコラボする形で、自宅で愛犬とくつろぐ姿を投稿して批判に晒されるという失態を演じている。

■「負の遺産」の数々

一方で、国民が望まない法律や施策だけは、いやというほど積み上げた。

特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安保法制、武器輸出3原則の放棄、共謀罪法――。戦後70年以上かけて先人たちが築き上げてきた「平和国家」の土台を、数の力で崩したことだけは確かだ。

安倍首相にとっての「戦後レジームからの脱却」とは、平和国家日本の姿を壊し、戦争ができる国にすることではなかったのか。その総仕上げが、「憲法改正」だったことは言うまでもない。彼の「美しい国」を眺めずに済んだことは、国の未来のためには良かったと言うべきだろう。

長期政権の柱となった経済政策も、一部の金持ちを喜ばせただけで、実はGDPが大幅に上昇したわけでも、失業率が極端に下がったわけでもない。アベノミクスの恩恵を受けたのは大企業と一握りの投資家だけで、庶民が景気回復を実感することはなかった。消費増税を2度も実施して消費を冷え込ませた総理として、記録には残るだろうが……。

■派閥談合「菅一強」にうんざり

しかし、選挙は強かった。国政選挙では連戦連勝。第二次安倍政権発足後に行われた3度の参院選と2度の総選挙は、野党の体たらくに助けられ、すべて大勝。その結果生まれた「一強」が、この国の政治と行政をダメにした。

過剰な忖度が横行する中、森友学園問題で公文書の改ざんを強要された財務省職員が自殺し、北海道では首相の街頭演説中に「安倍辞めろ」とヤジを飛ばしただけの一般人を、道警の警察官が拘束するなどして「ヤジ排除問題」を引き起こした。北朝鮮や中国並みに暴走する権力が、安倍政治を支えてきたと言っても過言ではあるまい。

つまり、国の根幹を揺るがしてきたのが安倍政権の8年間であり、これを引き継ぐという菅氏や自民党の方向性は、かなり民主主義の基本原則と乖離しているとみるべきだろう。

「一強」という化け物に支配された政治を継続するべきなのかどうか、先ずそのことが問われるべきだったが、首相の突然の辞任に驚く国民を尻目に、自民党の派閥談合政治が復活。今度は、「菅一強」という光景が現出している。

かつての自民党は、国民の支持を失った総理・総裁とは違うタイプのリーダーを後継に充て、流れを変えるという知恵があった。例えば、金脈問題で退陣した田中角栄の後に、弱小派閥を率いて清潔そうな三木武夫を持ってくるといった具合に、党内に「振り子」の原理が働いていた。しかし、現在の自民党は一強に慣れて驕りが生じており、国民の意見など眼中にない。

本来、総裁を選ぶにあたっては、「党員投票」を含めたフルサイズの総裁選が原則だ。しかし、二階幹事長や麻生副総理らは「密室談合」で菅支持の流れを作り、中堅・若手議員や多くの党員の声を無視して両院議員総会での決着を決めた。これは、民意を無視する安倍政治の手法そのものなのだ。

国民は、安倍政治の継続を望むのだろうか?

(中願寺純隆)

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