鹿児島県が、港湾土木工事の入札で採用されている総合評価方式のガイドラインを改定し、災害協定を締結したマリコン団体「鹿児島県港湾漁港建設協会」の加盟業者だけに「0.6点」もの加点を与えている問題を巡り、県への情報公開請求で入手した文書などから総合評価の実施方法を検討した「県土木部総合評価委員会」の不透明な実態が浮かび上がった。
総合評価のガイドライン改定を決めた県土木部総合評価委員会などの会議の議事録は残されておらず、災害協定を利用した総合評価の加点「0.6」については、根拠が何も示されていなかった。
■「議事録」不存在
県は、総合評価のガイドラインの改定をするまでに、次の三つの段階を経ている。
・令和2年3月6日:「令和元年度第2回鹿児島県土木部総合評価委員会」
・同年3月17日:「入札契約手続運営委員会」
・同年3月23日:「第4回鹿児島県入札手続等改善検討委員会」
このうち民間の有識者が委員として参加していたのは、6人の委員で構成されている土木部総合評価委員会だけで、鹿児島大学の名誉教授、鹿児島工業高等専門学校の名誉教授、鹿児島大学の教授がそれぞれ一人ずつ、残り3人が国交省九州地方整備局の役人だった。
総合評価のガイドラインを改定し、港湾土木の総合評価で災害協定を締結したマリコン団体の加盟業者だけに「0.6点」の加点をするという方向性を認めた3月6日の総合評価委員会では、事務方(県土木部)が案を提示し、委員らがこれを承認する形となっていた。
前述したように委員は6人だが、会議当日は鹿児島工業高等専門学校の名誉教授と鹿大の教授が欠席。民間からは鹿大の名誉教授だけの参加で、残りの出席者はすべて役人という会議だった。九地整の役人も、県の役人も、マリコン業者との関係は深い。
入札契約手続運営委員会と入札手続等改善検討委員会は県職員だけで構成されており、土木部総合評価委員会の結果を追認しただけ。すべて県土木部のシナリオに沿って事が運ばれ、どうみても不適切なマリコン団体への加点「0.6」を決めている。
三つの会議の「議事録」は残っておらず、県の担当課は「議事録は作成していない」としている。
■根拠がない加点「0.6」
では、なぜ「0.6点」なのか――。開示された文書を精査すると、土木部総合評価委員会の会議記録に加点の意義についての記述があった。それが、下。
「災害時に迅速な対応が求められる地域の企業について、災害協定の締結など、災害対応体制を有する企業の評価点を引き上げ、地域における災害対応体制の維持を図る」――というのが、加点を「0.6」にした理由ということだ。
しかし、改定後のガイドラインの記述に唐突に出てくる「0.6」の根拠――なぜ0.6なのか――については、一切説明がなかった。
■優遇される「マリコン談合」の業者
これまで本シリーズの配信記事で報じてきた通り、それまでの加点「0.4」では協会非加盟業者にも仕事が回る可能性があったが、「0.6」にすれば協会加盟業者だけで県の発注工事を独占できる可能性が高まる。「0.5」では不足。最低でも「0.6」が必要だったというわけだ。
鹿児島県港湾漁港建設協会の事務局長は県土木部幹部の天下りポスト。マリコン各社にも土木部系の県幹部OBが役員などで天下っており、「港湾マフィア」の世界を構築していることが分かっている。県の一部とマリコン団体がつるんで、港湾土木を特定の業者だけが集中して受注できるような仕組みを作ったということだろう。それが「談合」に直結することは、容易に想像がつく。
ところで、土木部総合評価委員会の会議記録にある記述を素直に読めば、「災害協定の締結など、災害対応体制を有する企業」ならどの企業でも「加点0.6」がもらえることになる。しかし、実際のガイドラインは『災害協定に基づく海上緊急出動態勢』がなければ「0.6」の加点がもらえないことになっている。災害協定が絶対条件になっているのだ。なぜ「災害協定の締結など、災害対応体制を有する企業」という幅の広い対象ではなくなったのか――?ここまで検証してくれば、解説の必要はあるまい。
同県の災害協定自体、締結にあたっての基準や要件がないという杜撰な制度。そのいい加減な災害協定を“悪用”して、癒着する県土木部とマリコン団体が、港湾土木工事の独占を目論んだということではないのだろうか。
問題のマリコン団体は、10年前の談合事件で厳しい処罰を受けた業者の集まり。そろって巨額の税金を食い物にしていたことを忘れてはなるまい。
(*下は、鹿児島県港湾漁港建設協会に加盟している県内業者と、2009年に発覚したいわゆる「マリコン談合事件」で受けた処分の内容)
(以下、次稿)