「これまで強運だったというだけ。粘り腰をみせていた岸田総理だが、そろそろ名誉ある撤退に入ったほうがいいんじゃないのか」と話すのは、自民党の大臣経験者。岸田文雄内閣の支持率は急落の一途となっており、11月第1週に実施された各報道機関の世論調査でも数字を下げた。その影響は地方選にまで及んでおり、政権末期の様相を呈している。
■菅政権末期と似た状況
11月12日に投開票された東京都青梅市長選では自民、公明両党が推薦し3選を目指した現職の浜中啓一氏が、小池百合子都知事の都民ファーストの会などが推した新人の元市議、大勢待利明氏に8,000票以上の差を付けられ完敗した。
9月の立川市長選、10月の都議補選・立川市選挙区でも自民党は敗れており、東京都内の選挙では3連敗。「世論調査の結果がそのまま選挙戦に反映されている」と、自民党幹部が苦い表情で語る。
地方選連敗のドミノは東京都内だけではなく、10月に行われた埼玉県所沢市の市長選でも自民が惨敗。福島県議選でも過半数を割るなど逆風が止まらない。ある安倍派の参議院議員も、「いまの状況は、菅(義偉)政権の末期と似ている」と話す。
安倍晋三元首相による長期政権の後、菅氏が総理に就任したのは2020年9月。安倍政権の番頭=官房長官として辣腕をふるい、満を持しての首相登板だった。
就任直後から支持率が60%超えの高い数字をキープ。最大派閥の安倍派をはじめ、麻生太郎氏、二階俊博氏といった実力者のバックアップもあり、党内は「非主流派」の姿がほとんどないほど盤石の体制を築いた。
しかし2021年、新型コロナウイルスの感染拡大への対応を誤り支持率が急降下。同年4月の衆参補選で、自民党は不戦敗も含め三つの選挙区で全敗。支持率は30%台に落ち込み、不支持が上回るようになる。
「衆参補選の敗北で、菅さんが選挙の顔では勝てないとして党内の空気が一変。それに呼応するように、支持率が劇的に落ち込んだ。官房長官としての実績は十分だった菅さんでも、選挙の顔になれないと分かった途端に、みんな反旗を翻すようになった」(前出・安倍派の国会議員)
菅氏の政権末期は、支持が30%に届くかどうか。不支持は60%前後と2倍もの差がつくようになっていたことから、菅氏は、2021年9月の自民党総裁選に出馬すらできなかった。
勝利したのは、当初「劣勢」とされていた岸田氏。念願の総理総裁に就任した岸田氏は、衆議院選挙で単独過半数を確保し、22年夏の参議院選挙でも勝利。今年春の衆参補選も4勝1敗で乗り切ったが、先月の衆参補選は1勝1敗。直後の支持率は先に述べた通りだ。
自民党総裁選は来年9月に予定されている。一方、衆議院議員の任期は10月だ。岸田政権を「ど真ん中で支える」と公言している麻生氏の派閥に所属する国会議員は、次のように解説する。
「今の劣勢を跳ね返して来年の自民党総裁選で岸田さんが再選されるには、その前に解散総選挙を断行し、勝つしかない。“衆議院議員の任期は2年先だ”なんて悠長な話してたら、再選どころか岸田派の連中からも出馬を止められるんじゃないか。うちの派閥だって『ど真ん中で支える』なんてことはしないだろう。もし自民党総裁選までに解散総選挙がないと、任期満了は目の前。追い込まれての“やむなし解散”になる。場合によっては政権交代にもつながりかねない。菅氏が総裁選に出馬できなくなったケースと同じような道を岸田さんは辿っているようにみえる」
■限られる解散時期と都知事選
来年9月の自民党総裁選までの間に、岸田首相が解散に打って出れるタイミングはそう多くない。時系列でみれば、年明けの1月に始まる通常国会の冒頭か、国会で予算が通過した来年4月頃、次が総裁選前の7月から8月だ。しかし、世論調査で致命的な数字を記録し続けている現状で、年明けは困難との見方が多い。残るは4月からのわずかな期間となる。
「解散総選挙の可能性があるとすれば4月あたり。そこしかタイミングがない。4月末には補選もあるからね。菅さんも補選で負けて菅おろしの波にさらされた。結局、それを食い止められなかった。同じような状況になっている岸田総理にとっては、厳しい政権運営になった」(前出の自民党大臣経験者)
大臣経験者が言う「補選」とは、島根1区で当選を重ねてきた細田博之前衆議院議長の急逝に伴うもの。来年4月末頃に実施予定だという。旧統一教会との親密な関係、女性記者へのセクハラなど三権の長としてはあり得ないスキャンダルにまみれた細田氏だっただけに、その後継を立てての補選となれば誰を擁立しようが自民党の苦戦は必至。負ければ、岸田政権にさらなるダメージとなることが容易に想像できる。
野党側からは、衆院議員と参院議員をともに1期経験した実績のある亀井亜紀子氏が出馬するものとみられ、保守王国の島根ながら、かなり激しい選挙戦になるのは間違いない。
「島根1区の補選で負ければ岸田政権はますます窮地に立たされ、支持率は20%台前半にまで低迷するでしょう。いっそ解散総選挙ということにすれば、補選はなくなる。ダメージも少ない」(前出・麻生派の国会議員)
岸田首相が狙うのは、解散総選挙で勝ち、国民の信任を得たとして自民党総裁選を無投票で終わらせるというシナリオ。そうなると解散総選挙は7月あたりに設定するしかない。しかし、来年7月は東京都知事選が予定されており、現職の小池百合子知事選が3選を目指し立候補するのが確実。対抗馬には、元大阪府知事の橋下徹氏や前明石市長の泉房穂氏などの名前があがっている。岸田派の議員はこう話す。
「夏に解散総選挙となれば、選挙費用との絡みにあるので都知事選とダブルにせざるを得ないのではないか。小池知事の相手が誰になるかわからないが、都知事選なのでそれなりに盛り上がる。自民党からも有力な候補を出さざるを得ない。しかし、小池さんが圧勝という展開になれば、総選挙にも大きな影響を及ぼす。できないとは思うが、野党側の候補がそろった場合、へたすれば1回の衆議院選挙で政権交代だ。さすがにそれは避けなければならない。やっぱり春しかない。今は菅さんの時と似たような状況だと誰もが感じているが、すべては総理のかじ取り次第。だが、かなり厳しいと言うしかない」
「減税」を宣言しても支持率低下が止めることができない岸田首相。政権の「終活」を考える必要がありそうだ。