【独自入手】鹿児島県警で組織的隠蔽加速|捜査記録「速やかに廃棄」指示

職員の不祥事にかかわる事件捜査の記録の開示を拒み続けている鹿児島県警察が、一般の事件も含めた対応の記録を積極的に破棄するよう現場の警察官らに指示していたことがわかった。不祥事記録の隠蔽疑いを指摘した本サイトの記事の配信と前後して、県警刑事企画課が課員向けの内部文書で「速やかな廃棄」を指示していた。悪質な隠蔽である。

■前代未聞の“隠蔽指示”

ハンター編集部が入手した問題の文書は、鹿児島県警の『刑事企画課だより』(10月2日付。下の画像)。

同文書は「適正捜査の更なる推進について」と題し、被害届の受理や押収物の還付公告など6項目について「適正」とされる対応をまとめているが、その3つ目の項目「捜査資料の管理について」の本文中に次のような記述があった。

事件記録の写しは、送致(付)した事件全てで作成し、保管する必要はありませんので、写しを作成する前に、その必要性を十分検討しましょう》(*下の画像。以下、赤い囲みはハンター編集部)

ここでいう「事件記録」がどういう書類を指すのかは明記されていないが、筆者がこれまで地元警察へ公文書開示請求を続けてきた経験に照らすと、そこには『犯罪事件受理簿』や『事件指揮簿』などの公文書が含まれている可能性が高い。もとより公務員が職務上作成した書類は原則すべて「公文書」と見做してもよく、いわば県民の財産。県警はそれらの写しを「作成、保管する必要はない」と一方的に断じ、職員に事実上その旨の指示を出していたのだ。のみならず、文言はさらにこう続く。

現に保管している事件記録の写しについても、保管の必要性を適宜判断し、保管の理由が説明できず、不要と判断されるものは速やかに廃棄しましょう》(*上の画像)

新たな記録を作成すべからずとの指示に加え、すでにある記録を「速やかに廃棄」せよというお達し。なりふり構わないと言ってよいこの対応は、どういう事情によるのか。その理由は、ご丁寧に囲み枠で強調されて掲載されていた。

再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!》(*上の画像)

もはや組織的な隠蔽の奨励。引き合いに出された再審請求や国家賠償請求は、国民の重要な権利として認められている。鹿児島県警はそれを頭から否定し、「組織的なプラス」を優先して証拠をどんどん廃棄しようというのだ。

その廃棄行為でもたらされる「プラス」は、再審や国賠のほか、情報公開に際しても発生することは言うまでもない。先述の通り、今回の『刑事企画課だより』が配布された時期は、県警の記録隠蔽疑いを指摘したハンター記事が配信されたころと重なる。これは何を意味するのか。

■公文書毀棄を奨励

警察官による犯罪・法令違反の記録は多くの都道府県警で条例に基づき適正に開示されるが、鹿児島県警は個人情報や公安情報の保護を理由にこれを頑なに拒み続けている。同県警への公文書開示請求でその事実を把握した筆者は現在、県警の「存否応答拒否」決定を不服として県公安委員会に審査請求を申し立てているが、県警がこの件でも「組織的なプラス」を優先する可能性が今回浮上したわけだ。つまり、仮に公安委の審査が真っ当な結論に到り、他都道府県と同じように不祥事捜査の記録を開示すべしとの答申が出たとしても、県警は即座にこう切り返すことができる。「速やかに廃棄しました」と。

繰り返すが、そもそも公務員が職務上作成した資料はすべて県民の財産。税金由来の書類を「組織的なプラス」のためにあっさり廃棄する行為は、それ自体が犯罪=公文書毀棄と指摘されてもやむを得まい。問題の『たより』には、捜査現場に「大学ノートやメモ帳」を携行するのは「大変危険」とし、次のように指示している記述もある。

取調べ内容を記録する紙は、必要に応じて組織的に管理する場合があるため、大学ノートではなく、取り外しが可能なルーズリーフを使用しましょう

悪びれず「廃棄」を指示する組織のこと、ここでわざわざ「取り外し可能な」と謳っているのは、ルーズリーフならばいつでも都合の悪い部分を廃棄できるためと疑われる。「適正な捜査」と言いながら、その実ほとんど犯罪の奨励に近い。事件記録関係のほかにも問題のある記述は多く、被害届を受理する際の注意事項として「被害者が秘匿録音していることもありますので、対応時の言動には十分注意してください」と呼びかける文言には、「録音されなければどんな言動でもいいのか」と突っ込みを入れたくなるほどだ。

先の「存否応答拒否」決定への審査請求をめぐってはその後、県警の弁明になっていない弁明を受けた筆者が10月6日付で反論書を提出し、先に同種の公文書を開示した福岡県警のケースを例示して公安委に公平な審査を求めたところだ。少し長くなるが、本稿の結びに同反論を全文採録し、読者諸氏の評価を請うこととしたい(以下、文中の「請求人」は筆者、「実施機関」は鹿児島県警を指す)。

◆    ◆    ◆    ◆    ◆

本件請求に係る処分(以下・原処分)を「適法」「妥当」とし、また請求人の主張を「失当」とする実施機関の弁明は、弁明になっていません。

実施機関は9月7日付『弁明書』で、鹿児島県情報公開条例第7条第1号(個人に関する情報)及び同第4号(公共の安全等に関する情報)を引き合いに出し、請求人の求める公文書に記載された情報がこれらに該当するため、同第10条に基づいて当該文書の存否を応答せずに開示請求を拒否できると主張していますが、当該公文書の情報は、上の条例第7条第1号情報(個人に関する情報)にはあたりません。

同条第1号には3項目の例外規定が設けられており、当該公文書の情報はその1つ「ア 法令若しくは条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」にあたるため、第1号情報からは除外されます。鹿児島県を含む各地の警察本部は日常的に、地元記者クラブ加盟各報道機関への広報業務として事件・事故の当事者の氏名・年齢・性別・職業・住所(の一部)といった個人情報を提供なさっています。これは上の「ア」規定に謂う「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」と見做されたため公開の対象となった(しかも開示請求を経ずとも報道機関の報道により不特定多数の国民が把握できる情報として公開された)と解釈でき、本件請求に係る公文書のうち少なくとも刑事裁判に付されることになった事案については同じ扱いが可能となります。

いみじくも実施機関が『弁明書』で自ら言及しているように「公判記録」記載の情報は裁判傍聴を通じ、あるいは確定記録の閲覧により誰でも把握できる情報であり、まさしく上の「ア」情報にあたるため、むしろ公判に付された事案に係る公文書については開示を拒む理由がなくなります。検察庁や裁判所が公知の情報として国民に提供している情報を警察のみが秘匿できる理由はありません。本請求の『請求書』で述べた指摘の繰り返しになりますが、公文書は公開が大原則です。「公判記録」で誰でも知ることができる情報を理由になっていない理由で隠すことは、もはや情報公開の趣旨に逆行する不当な情報隠蔽が疑われるほどです。なお、公判に付されていない事案についてはもとより公判記録と突き合わせることができませんので、先の『弁明書』添付の形で実施機関がお示しした警察庁の通達を参考に、最低限必要の配慮をなさった上で当該文書を開示すればよい、ということになります。これも繰り返しになりますが、北海道警察はそのように対応しています。また今般、実施機関と同じ九州管区警察局に属する福岡県警察が、請求人の請求に応じて同様の公文書の写しの交付を行なったところです。

同じく、当該公文書の情報は条例第7条第4号情報(公共の安全等に関する情報)にもあたりません。実施機関は『弁明書』で「処分台帳と捜査結果を突合することで、どのような事案が事件処理されるかが明らかになる」と主張なさっていますが、これは甚だ面妖な弁明と評価せざるを得ません。法治国家の捜査機関はまさしく「どのような事案が事件処理されるか」を「明らかに」しなくてはならない筈です。それを明かすとなぜ「公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ」があるのか、この際詳しい理由づけを聴いておきたくなるほどです。どのような行為が事件捜査の対象となるのかが明かされずに警察の胸三寸で恣意的に法が執行される社会は「秩序の維持」云ぬん以前の暗黒世界です。もはや贅言を要しませんが、北海道警察や福岡県警察ではそのような理由で開示を拒む判断は一切みられず、また両者の対応が原因で北海道や福岡県の公共の安全等が脅かされたという具体的事実は確認できません。

以上の通り、実施機関の弁明は甚だ説得力を欠き、県条例に規定する非開示情報の適用にはいずれもおよそ正当な理由がなく、あまつさえ不当な情報隠蔽というべき対応が強く疑われるところです。従って原処分は誤りであり、請求対象の公文書は一刻も速く適切に開示されるべきです。実施機関におかれてはぜひ、県公安委員会の手を煩わせることなく、審査の結果を待たずに自らご再考いただくようお願い申し上げる次第です。

なお、適正な公文書開示の実例として示した2道県警察の事例について、仮に実施機関が同2カ所の事例だけでは普遍性に欠けると主張なさるようであれば、残る43府県警察、警視庁、及び警察庁にも同様の開示請求を試み、開示・不開示の決定が得られ次第その結果を報告するといった対応も可能です(実施機関自らが各機関に照会すればたちどころに確認できる情報ではありますが、念のため)。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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