安倍・高市は「保守」に非ず

自民党総裁選を巡る新聞テレビの報道合戦が始まって以来、「保守」という言葉の使われ方に首を傾げることが多くなった。「保守」の概念が、歪めて伝えられているのではないか――そう感じるからだ。

特に、安倍晋三元首相が支援する高市早苗氏のことを、多くのメディアや評論家が「保守色が強い」「保守派の」などと表現することには不同意である。

自民党は保守政党であり、総裁選に立候補している4人は全員「保守」を標榜する政治家。なぜ高市氏だけが、保守の代表のように扱われているのだろうか。

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保守を色分けするとすれば、軍事優先で他国に対して強硬姿勢をとる「タカ派」と平和を希求する「ハト派」に分けるか、あるいは個人や自由を尊重する人たちを「リベラル」という言葉で括り、国家主義的な考え方に立脚する政治家を「右派」と称して区別するかのどちらか。そうした意味合いにおいて、高市氏は「右派の代表」あるいは「国家主義者」であって、『保守の代表』では決してない。

敵基地攻撃能力導入、原発推進、靖国万歳、選択的夫婦別姓反対、先の大戦における従軍慰安婦や侵略戦争の否定、国防軍の創設――高市氏の政治的な主張は、単なる「右派」の域を超えた極右、もしくはウルトラライトと呼ぶべきものだろう。厳密にいうなら、同氏のように極端なものの考え方をする人は、「保守」とは言えない。

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本来、伝統的な保守の考え方とは「寛容」が基本。社会を急激に変えるのではなく、ゆっくり時間をかけて改善してゆこうというものだ。「温故知新」というべきで、古いものに固執するのが保守ではない。「日本を取り戻す」などと戦前回帰にこだわる安倍晋三元首相の政治姿勢も、保守のそれとは言い難い。

保守政治の前提となるのは議論の末の合意形成で、当然ながら少数意見も尊重する。だが、安倍氏の政治は、「数の力」に頼った独裁。国民の半数以上が反対した特定秘密保護法や安全保障法制を強行採決で成立させたことが、端的にそれを物語っている。

そんな安倍政治を「継承する」と明言している高市氏は、「総理になっても靖国神社に参拝する」と公約した。日本の総理大臣が任期中に靖国に参拝したら周辺諸国がどう反応するか――。分からないとすれば外交音痴、分かっていて参拝するというのであれば、危険思想の持ち主だ。そもそも、天皇陛下が参拝を控えている靖国にどうしても行くという政治家が、なぜ「保守」なのか?

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自民党には「保守本流」という考え方がある。吉田茂が率いた旧自由党系の流れを汲む政治勢力のことを指す。現在では、池田勇人元総理の系譜につながる宏池会 (岸田派)、志公会(麻生派)、有隣会(谷垣グループ)、田中角栄元総理の旧田中派から続く平成研究会(竹下派)が該当する。総裁選を戦ってきた岸田文雄と河野太郎は、保守本流に連なる政治家である。

一方、福田赳夫元首相が創設した清和会(現在の清和政策研究会)の流れをくむ細田派は、保守本流ではなく、いわゆる保守傍流。高市早苗氏がかつて所属していたのは細田派で、保守本流ではない。松下政経塾を出てから、無所属→柿沢自由党→新進党→自民党と渡り歩いた高市氏が、保守の代表を気取るのは滑稽というものだ。

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安倍晋三が首相として訴えてきたのは「戦後レジュームからの脱却」だ。その言葉通り安倍は、強行採決を繰り返して特定秘密保護法や安全保障法制を成立させ、憲法解釈を変更してまで戦後の内閣が認められないとしてきた集団的自衛権の行使容認に踏み切った。「一強」をいいことに、戦争好きの政治家が、たいした議論も経ずに国の根幹を大きく変えたということだ。「革新」というべき性急な変化だったとも言える。中国、韓国を敵視するあまり、米国依存を強めざるを得なくなり、普天間飛行場の辺野古移設を巡っては沖縄県民から「民主主義」を奪い取った。この国の姿を歪めた安倍が、「保守」であるはずがない。

(中願寺純隆)

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