「10年ひと昔」東日本大震災と劣化する日本

東日本大震災から10年、今年も「3.11」が巡ってきた。私たちは、“震災から○年”と指を折ることができるが、津波に飲み込まれて亡くなった人たちは、震災を振り返ることはもちろん、家族との楽しい思い出を語り合うこともできない。

震災当時、この国は「絆」という言葉を掲げて東北の復旧・復興を誓い、国民の連帯感は高まったかにみえた。多くの国民が「3.11」を胸に刻んでいるはずだったが、原発事故の記憶は薄れ、被災地の出身者を差別するという馬鹿な連中さえ現れた。まさに「10年ひと昔」である。

開催できるかどうか分からないオリンピック・パラリンピックと新型コロナウイルスが過去の話になったとたん、震災の記憶を思い返す機会は、さらに少なくなるだろう。それを予見できる証拠は、いくらでもある。

■五輪招致に利用された被災地

東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まったのは、東日本大震災から2年半後の2013年9月。当時の安倍晋三首相は、震災を受けてメルトダウンした福島第一原発の汚染水について「状況はコントロールされています」と明言し、招致を成功させた。

「コントロール」が真っ赤な嘘だったことは、増え続ける汚染水を海に垂れ流さざるを得なくなっている現状をみれば明らか。港湾内の0.3キロ内にブロックするどころか、湾外の広範囲に放流するというのだから開いた口が塞がらない。

被災地が五輪誘致に利用されたのは確かで、当初政府が掲げたテーマは『復興五輪』。それが、震災の記憶が薄れるにつれ隅に追いやられ、『人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証』に変わり、最近では『多様性と調和』の五輪ということになっている。オリンピックの目的は、その時々の政権の都合に合わせて書き替えられてきた。

■「原発回帰」に動く原子力ムラ

原発に関する国民の意識も低下する一方で、つい先日、それを象徴するようなニュースに接した。永田町の総理官邸前では、毎週金曜日に市民団体が脱原発を訴えるデモを続けてきたが、参加者の減少と資金難が原因で、3月末をもって休止することになったという。

地方でも、再稼働する原発の周辺で行われていた抗議集会への参加者が減ってきており、「反原発」「脱原発」に対する熱気を感じることはなくなった。

勢いを増しているのは原子力ムラで、今月8日には日本経済団体連合会(経団連)が「電力システムの再構築に関する第2次提言」を発表し、原則40年とされる原発稼働期間の延長を20年とする現行制度を、さらに20年延ばして80年の稼働を可能とするよう提言。「新増設」を国策として位置付けるよう求めるなど、国に原発回帰を強く働きかけている。

東日本以外の経済界も歩調を合わせ、9日に関西経済連合会、 九州経済連合会、中国経済連合会、四国経済連合会、中部経済連合会、北陸経済連合会が共同で、原発再稼働や新増設を求める意見書をまとめ公表した。福島第一原発の事故直後に、こうした提言や意見書が出ていたら、それぞれの経済団体は抗議する群衆に囲まれていたに違いない。原子力ムラは、震災から10年の節目を迎え、ほとぼりが冷めたとでも思っているのだろう。

■安倍・菅政権で劣化した日本

2011年に政権を担当していたのは、2009年に自民党を下野させた民主党で、東日本大震災が発生した時の首相は菅直人氏だった。翌年に総選挙で勝利した自民党が政権を奪い返すまでのことを、安倍前首相は度々「悪夢の3年間」と罵倒してきた。しかし、安倍から菅義偉へと続く約8年の政権が生んだのは、「忖度」と「接待」、そして政局の節目ごとにかけ替えられる「3本の矢」であるとか「一億総活躍」といった、すでに死語となったキャッチコピーの数々だった。アベノミクスが、ただ株価を上げただけで、実際には「格差」を拡大させた愚策だったことも証明済みである。

官邸の支配下に置かれた霞が関が正気を失っていったのと同時進行で、政治も劣化した。チルドレン議員らは次々に事件を起こし、遂には大臣・副大臣クラスが収賄で立件される始末。歴代の総務大臣までNTT側から接待を受けていたことが暴かれており、腐敗は底なしの様相を呈している。

そもそも、森友・加計や桜を見る会、役人接待といった政権を揺るがす“大事件”に関与していたのが、最高権力者の妻や出来の悪い長男だというのだから、下に示しがつくわけがない。確かに幼稚ではあったが、民主党政権の方が、よほどましだったと断言しておきたい。

東日本大震災から10年。この国の中で、本当に「絆」はつながっていたのだろうか?原発や被災地のことについて、身近な人たちと語り合う機会があるだろうか?震災前日の2011年3月10日にニュースサイト「ハンター」を立ち上げてから10年経ったが、世の中が良くなったとは思えない。

(中願寺 純隆)

 

 

 

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