「さざ波」「笑笑」はダメに決まっている

今月9日、内閣官房参与を務める高橋洋一嘉悦大学教授が新型コロナウイルスの感染状況とオリンピック開催の是非を巡る議論について、ツイッターに《日本はこの程度の「さざ波」。これで五輪中止とかいうと笑笑》と投稿、物議を醸す事態となった。(*下が高橋氏のツイッター投稿画面)

欧米諸国との感染者数を比較するグラフが添付されていることから、データを示して『五輪を中止する必要はない』と主張したかったのだろうが、三度目となる緊急事態宣言の発出を受けて息苦しい生活を余儀なくされている国民にとっては、スンナリ受け入れられる話ではない。さらに、報道各社の世論調査では6割前後の人が五輪開催に反対。高橋氏の投稿はすぐに炎上した。その後、ネット上などで言い訳を並べている高橋氏だが、それこそ「笑笑」では済まないのが国内の現状だろう。

そもそも、諸外国の感染者数を引き合いに出し、国内のコロナ被害を軽視する主張を展開すること自体が間違いだ。

■みっともない責任転嫁

高橋氏を含めて、東京オリンピック・パラリンピックの実施を求める関係者が持ち出してくるのが諸外国と比べ少ないとされる感染者の数。何故そうなっているのか、という理由が分かっていないにもかかわらず、「日本の感染者は少ない。騒ぎ過ぎだ」と冷めた目で世の中を見る人は少なくない。感染拡大を防ぐための自粛や規制に反対であることを明言してきたホリエモンこと堀江貴文氏なども、そうした考えの持ち主だろう。

しかし、日本国内における死者数の累計が1万2,000人を超える勢いであることは事実だ。感染拡大が止まらなければ、更にその数は増える。高橋氏はSNS上や「現代ビジネス」のコラム『ツイートの「炎上」を経て考えた、マスコミの「切り取り報道」の問題点』の中で《「さざ波」という表現は、「正義のミカタ」で一種に出演している元厚労医療技官木村盛世氏が1年前ほどから番組でいっているもの》などと責任転嫁を図ったが、自身が同じ考えだからこそツイッター投稿に「さざ波」「笑笑」と記したのではないのか。人のせいにして逃げるのは、卑怯というものだろう。

■政権擁護派が無視する接種率データ

問題のツイッター投稿で高橋氏が用いたグラフは、飢餓や自然災害などの世界的な問題を扱う「Our World in Data」が公開している調査データの一つだった。下が、その画像だ。

このデータは、100万人あたりの7日間感染者数を平均化し、グラフにしたもの。高橋氏が引用した5月7日のデータでは、フランスが276.11人、インド282.37人、カナダ202.42人、ドイツ191.64人、イタリア165.62、アメリカ131.8と上位が 日本は39.59人。イギリスが30.53人だった。

日本の感染者の数は、欧米やインドなどに比べて確かに少ない。しかし、前述したように死者は毎日増え続けている。インフルエンザでも沢山の人が死んでいるという反論もあろうが、新型コロナと同列で論じることには不同意だ。インフルエンザには特効薬があるが、コロナにはない。なにより、ワクチンが行き渡る保証がない以上、感染防止に努めるのは当然だろう。五輪反対は、その延長線上にある帰結なのだ。

諸外国の死者数と比較するのもナンセンス。殺人事件が起きて人ひとりの命が絶たれた場合、たいていのケースがニュースになり、事件の内容によってはワイドショーにも取り上げられる。例えば、紀州のドンファン殺人事件は、発生当時も、先月の犯人逮捕時も、マスコミは大騒ぎだった。

1万人以上の死者が出ている新型コロナの感染状況を、誰が言い出したにせよ「さざ波」と表現するのは、亡くなった人や遺族に対する冒涜以外の何物でもあるまい。「さざ波」が、高橋氏が述べているように別の人物が常用していた言葉であったとしても、ツイッター上に投稿した一文に明記したのは高橋氏本人。どうあがいても、言い訳は通らない。

国内のコロナ感染を過小評価する元厚労医療技官氏や高橋氏などの政権擁護派は、先進国の感染者と比較してモノを言う傾向が強い。前掲のグラフは、その主張を裏付けるアイテムだ。だが、Our World in Dataは、別の調査データも毎日更新している。ワクチン接種率である。高橋氏が感染者数で参考に使った5月7日時点のデータの中の、「ワクチン接種率」を見てみたい。グラフには、イスラエルや韓国のデータも加えてある。

主な国の接種率を抜き出して表にすると、次のようになる。

もちろん、1%にも満たない国もある。しかし、G7に参加するようないわゆる先進国の中で、10%以下の接種率にあえいでいるのは日本だけだ。外国と比較して論を立てるのなら、都合のいいデータだけでなく、悪い方のデータも提示すべきだろう。

菅首相が高齢者向けワクチン接種を1日100万回にし、7月末までに完了すると言い出したのは、何がなんでもオリンピック開催を実現したいとする強い意志の表れだ。政府やその周辺の忖度派も、右へ倣えである。内閣官房参与である高橋氏が、五輪に消極的な世論に苛立った結果が、「さざ波」「笑笑」だったことは疑う余地がない。

高橋氏は、前術した現代ビジネスのコラムの中で、こうも述べている。
《本コラムで繰り返し指摘してきたが、日本の新型コロナ状況は世界の先進国の中ではトップクラスで良い。日本では第4波と大騒ぎだが、人口当たりでみると、劇的に改善した英国と同水準である。それにもかかわらず、日本の感染状況を理由として日本側からIOCに中止を申し出た場合、日本はIOCに数千億円程度の巨額の賠償金を支払わなければいけなくなるのは確実だ。

実際に中止になる場合、このシナリオの可能性が高い。というのは、IOCは放送権料が入るので、IOCから中止を言い出すことは考えにくい。万が一、五輪参加選手が大量にボイコットすれば、IOCとしても中止せざるを得なくなるだろうが、感染状況を世界からみれば、日本は安全な地域とされ、その可能性は高くないだろう。》

コロナ対策の失敗から医療崩壊を招いた上、国民のワクチンさえ十分に準備できない国が、なんで安全と言えるのだろうか……。

(中願寺純隆)

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