【僭越ながら】「緊急事態宣言」で募る新型コロナ対策への疑念

孫子は、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という格言を残した。その意味で新型コロナウイルスという新たな敵は、正体も退治法も定かでないというだけに厄介な相手と言える。

国内に入ってきたウイルスは、またたく間に広がり、政府が「緊急事態宣言」に踏み切らざるを得ない状況となった。

この間、パンデミック(世界的大流行)に始まり、「ロックダウン(都市封鎖)」だの「オーバーシュート(爆発的患者急増)」だの、聞き慣れないカタカナが政治家や“専門家”の方々から発せられてきたが、横文字に弱い記者などは、いまだに日本語の括弧書きがなければ、ついていけないのが実情だ。

感染拡大のスピードが早すぎるせいで、浮かんでくる新型コロナに関する疑問が解消する前に次のステージに移るという展開。実はいまだに、もやもやすることばかりだ。

 

■疑念その1 「会見」のオオカミ少年化

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って増えているのが、安倍晋三首相と各地の首長の「記者会見」。乗客・乗員が相次いで感染したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が注目を集めた直後は鈴木直道北海道知事の会見に注目が集まったが、事態悪化が歴然となってからは2月29日、3月14日、3月28日と安倍晋三首相が会見。東京五輪・パラリンピックの延期が決まったとたん、小池百合子東京都知事が会見で熱心に新型コロナ対策について情報発信するようになっている。

感染者が出るたびに日本のどこかの自治体で報告会見が開かれる状況で、感染拡大が顕著となりつつある福岡県では1日夜、小川洋知事が県庁で臨時記者会見を開き、19日までの3週間、週末の外出を自粛するよう県民に要請した。知事の臨時会見は先月28日、30日にも行われており感染者数の増加に合わせて頻度が増している。

気になるのは、主としてテレビ、新聞で報じられる自治体首長の会見の模様を、若い世代の人たちがほとんど見ていないということだ。

4月1日の福岡県知事の緊急会見は、NHKや複数の民放テレビが流したものの、翌日福岡市天神で12人の大学生、専門学校生に確認したところ、会見の事実も、県内の感染実態も「知らない」という返答だった。

新聞、テレビを見なくなった若者たちの情報源はもっぱら“ネット”。スマホの画面で拾うニュース以外は、まさに口コミの情報に頼っていることになる。従って、大手メディアが報じる首長の会見情報は、ネット情報として流れない限り浸透しないのが現状だ。

在京の報道関係者によれば、小池都知事のたび重なる外出自粛要請も、当初は「知らなかった」とする若者が多かったという。

注目される「緊急事態宣言」にしても、ロックダウン(都市封鎖)との違いや、国民がどのような対応をすればいいのかといった基本的な事柄についての理解が進んでおらず、不安が残ったままだ。有効な情報発信が少ない証拠だろう。

繰り返される安倍首相の新型コロナ会見も、その内容を正確に把握している国民は少数に止まるだろうし、把握していたとしても、さして内容のあるものではなかったため、緊急事態宣言の告知会見もスルーされた可能性がないとは言えない。意味の少ない会見を続けたことで、妙な免疫ができたということだ。

心配なのは、首相や首長らの会見が頻繁に行われることで、国民に“慣れ”をもたらさないのか、という点。

会見の回数が増えるほどに、発信する情報が重くなっていくわけで、そうでなければ会見の意味合いが薄れる。繰り返される首長らの会見が、イソップ寓話のオオカミ少年と重なる。

■疑念その2 マスクの位置付け

エイプリルフールではないようだが、安倍首相は4月1日、国会で唐突に「全国の世帯に、2枚ずつ布マスク」を配布すると言い出した。梱包して郵送するという施策実行には100億単位の予算がかかるとみられており、費用対効果を考えると愚策としか言いようがない。そもそも、マスクを必要とするのは何故か?

国会審議で、与野党議員がマスクをしたまま質疑を行う光景が当たり前になっている。いつのまにか首相や閣僚はもちろん、ほとんどの国会議員がマスクをつけているから不思議だ。

たしか、WHOの新型コロナについての見解は、“マスクは感染者が飛沫を飛ばさないようにするための手段としては有効だが、未感染者の予防にはつながらず、手洗いこそが重要”という内容だったはずだ。感染していない安倍首相や閣僚までマスクをしている理由は何なのか、ハッキリと示すべきだろう。

もちろん、誰が感染しているのか分からない状況となったため、すべての人にマスクをする必要が生じたためなのだが、パニックを恐れているのか、国も地方自治体も、その点については一切触れようとしない。

正確に説明するとすれば、こうではないか。

「新型コロナウイルスの感染を確認するためにはPCR検査が必要だが、検査体制が整わないため、数をこなせない。感染が疑われても簡単には検査が受けられないので、新型コロナウイルスに侵されていても、本人が気付かないうちに他の人に感染させる可能性がある。従って、すべての人がマスクをすべき」

首相や担当大臣がどう言い繕っても、PCR検査の実施態勢はまったく整っていない。現実問題として、体調不良でPCR検査を受けたいと願っても、検査を拒否されるケースがほとんど。当然、感染を疑いながらも患者が動き回ることになるため、新型コロナがまき散らされるという悪循環だ。

検査システムの不備は明らかだが、その点を追及されるのが嫌な安倍首相は、「マスクを配る」でごまかした。布製マスク2枚は、安倍政治が得意とする“論点すり替え”の一例に過ぎない。

 

■疑念その3 「休校」は本当に正しいのか

今月1日、政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が、『新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言』を公表した。

この中で同会議は、感染状況によって地域を次の3つに分けている。

【感染拡大警戒地域】
・直近1週間の新規感染者数やリンクなしの感染者数が、その1週間前と比較して大幅な増加が確認されているが、オーバーシュート(爆発的患者急増)と呼べるほどの状況には至っていない地域。

【感染確認地域】
・直近1週間の新規感染者数やリンクなしの感染者数が、その1週間前と比較して一定程度の増加幅に収まっており、帰国者・接触者外来の受診者数についてもあまり増加していない状況にある地域

【感染未確認地域】
・直近の1週間において、感染者が確認されていない地域。

この区分けの前提となる、「地域区分について」(分析・提言の7ページ)の中に、次のような記述がある。

なお、現時点の知見では、子どもは地域において感染拡大の役割をほとんど果たしてはいないと考えられている。したがって、学校については、地域や生活圏ごとのまん延の状況を踏まえていくことが重要である。また、子どもに関する新たな知見が得られた場合には、適宜、学校に関する対応を見直していくものとする。

教育現場に関するこの専門家会議の分析・提言が生かされていないことは、いきなり全国の学校に休校を“命じた”安倍首相の方針が示している。

さらに言うなら、休校が続く中、保育園や学童保育は従来通り運用されており、これは専門家会議の主張が正しいことを裏付けていると言えるだろう。子供たちの命を守るという大義名分は理解できないわけではないが、全国の学校が休校しなければならないような状況ではない。

安倍首相はきょう、感染拡大に押される形で「緊急事態宣言」を発令するとみられているが、国民には、その詳しい内容や対処の仕方など肝心な部分が、一切伝わっていない。

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