安倍政治の終焉と「次」への期待

この人の「言い訳」を信用する国民は、ごく少数でしかないだろう。24日、安倍晋三前首相の政治団体が「桜を見る会」前夜祭費用の差額を補填していた問題で、安倍氏本人が記者会見し、国会で百回以上も不正を否定する虚偽答弁を行っていたことなどについて釈明した。東京地検特捜部が立件した事件が、政治団体「安倍晋三後援会」の会計責任者を務めていた公設秘書に罰金100万円、安倍氏は嫌疑不十分で不起訴という軽い処分で終わったことを受けての動きだった。

■「責任」「真摯」は言葉だけ

会見の中で安倍氏は、「秘書がやった」、「秘書が本当のことを言わなかった」、「自分は何も知らなかった」、「秘書が嘘をついた」などと責任転嫁としか思えない発言を連発。すべての罪を秘書に押し付け、自身は議員辞職や離党をする気持ちはないとして開き直った。

25日には衆参両院の議院運営委員会に出席して会見時と同様の答弁を繰り返し、委員会終了後に記者団から来年の総選挙への対応について聞かれた際は「来年の衆院選には出馬し、国民の信を問いたい」と答えている。

公設秘書の犯罪行為に加え、国会での虚偽答弁。本来なら、議員辞職して引退すべきだ。それでも政治家でいたいのなら、次の選挙で“みそぎ”を受けて出直すというのが筋だが、安倍はバッジにしがみつく構えである。卑怯極まりない姿勢は、この国の無責任政治の象徴とも言える。

そもそも、「秘書がやった」が不正を犯した政治家が使う最後の逃げ道であることは、ほとんどの国民が承知しており、子供からも軽蔑されることが確実な一言だったはず。憲政史上最長となった政権で宰相を務めてきた政治家がとるべき態度ではあるまい。

さらに、会見の中で出てきた「責任がある」「真摯に受け止める」は、法案の強行採決や自民党議員の不祥事が起きるたびに安倍氏が繰り返し述べてきた、いわば常套句。これも同氏の持ちネタである「丁寧な説明」と並んで、実行されない美辞麗句の代表例である。会見を見て「またか」と思ったのは、記者だけではなかったはずだ。

■「一強」が政治腐敗を招いた

嘘とでっち上げに支えられた安倍長期政権が招来したのは“政治腐敗”。カジノ汚職では内閣府副大臣だった秋元司被告が逮捕・起訴され、広島で起きた前代未聞の選挙買収では元法相の河井克行被告と妻で参院議員の案里被告が公職選挙法違反に問われている。

前例のない巨額買収事件から派生した形の鶏卵生産大手「アキタフーズ」による贈収賄事件で検察のターゲットとなっているのは、吉川貴盛衆院議員と内閣官房参与を務めていた西川公也の両元農相。安倍政権下で重職を担ってきた政治家たちが“カネまみれ”になっており、永田町では次の事件を危惧する声が上がるほどだ。歪む政治の背景にあるのが、長く続いてきた「一強」と呼ばれる政治状況であることは言うまでもない。政治腐敗が進むのに比例して、政治不信も募る状況となっている。

■産経記者の再登板質問に唖然

もちろん、自民党だけが悪いというわけではない。安倍の政治姿勢に否定的な有権者の受け皿になれず、国政選挙が行われる度に惨敗してきた野党のふがいなさにはうんざりだし、週刊誌のスクープ報道を後追いして一時的に大騒ぎするだけの新聞・テレビが、国民の政治離れに棹をさしたことは確かだ。

一番罪が重いのは、権力の監視という使命を忘れ、政権の犬となってちょうちん記事を連発し、安倍の嘘つき政治を礼賛してきた読売新聞と産経新聞だろう。両紙は、政治腐敗を招いた自民党と共犯関係にあり、25日の安倍の会見では、そうした醜さを如実に示した場面があった。

安倍と記者団との質疑にうつって間もない時間帯、産経の記者が唐突に「党内から再登板を求める声もあるが」と問いかけたのである。耳を疑った。差額補填や国会での虚偽答弁について追及が続く中、不適切行為を犯した側の元首相に、首相再登板についての見解を求めるという意味不明の行為。安倍に助け舟を出したつもりなのか、あるいは本当にそう思っているのかのどちらかだろうが、いずれであるにせよ件の記者は、“茶坊主”か“太鼓持ち”に商売替えをすべきだろう。いくら非常識な極右広報紙の社員だとはいえ、度を越えた安倍へのヨイショは見苦しかった。

■検察の体たらく

広島の巨額買収事件で元法相を逮捕して得点を稼いだかにみえた検察だったが、桜を見る会を巡る事件では、国民の期待を裏切った。

検察が適用した政治資金規正法上の「不記載」とは、記載すべきものを怠ったという程度の話。会計責任者が軽い罰を受け、政治資金収支報告書を「訂正」あるいは「修正」で1件落着である。

一方、虚偽記載とはまったくの嘘を収支報告書に記載したという極めてタチの悪い、つまり故意犯。不記載も虚偽記載も5年以下の禁錮か100万円以下の罰金(政治資金規正法第25条)だが、虚偽記載なら安倍の責任はより重くなっていたはずだ。さらに言うなら、宴会費用の差額を補填したことは、どう見ても公職選挙法が禁じる「有権者への寄付」=「差額買収」であり、適用法令に異論が出る状況は当然と言えるだろう。

■新しい政治への期待

政治は機能不全。チェック機能を担う報道も弱体化。「巨悪は眠らせない」――はずの検察も税金泥棒状態。お先真っ暗のこの国だが、最近、政治の将来にわずかながら期待がもてるのではないかと考える機会があった。

福岡市の高島宗一郎市長は、ハンターが長年追及の対象としてきた政治家。随分、厳しい記事ばかり配信してきたのだが、その高島氏が12月7日の定例記者会見で「九州」について何度も言及。「道州制になればいいと、とても思っています」とした上で、九州市長会が進めているという「九州府構想」についても前向きな発言した。

高島氏が何を考えて九州だの道州制だのと言い出したのか判然としないが、政治不信が深まる現状を打開するためのヒントにはなった。

与党も野党も国民の期待を裏切っており、「誰がやっても同じ」「何も変わらない」というあきらめムードは広がる一方だ。既成政党に所属する国会議員に、何かを期待する方が無理であるということに、おそらくほとんどの国民は気付いている。

そこに襲来したのが、新型コロナウイルスという未知の脅威。対策を打ち出し、次々と情報発信してきたのは、「国防」や「危機管理」を盾に憲法をねじ曲げた安倍晋三氏や国会議員ではなく、全国各地の首長だった。

有権者に一番近いところで地域の声を聞き、地方や国にとって何が必要なのかを知る優秀な地方の首長や質のいい議員が、九州や北海道といった広い「地方」の代表として機能したら、おそらくこの国の政治は大きく変わるのではないか――。「国政転出は2万%ない」と新聞のインタビューで語ったという高島氏が、そうした方向を見据えて発言したのかどうかは分からない。しかし、会見で彼が発した「道州制」「九州」「九州市長会」といった一連の言葉は、政治を変えるため動きのキーワードになり得ると感じた。そうでもしないと、政治が変わらないという焦燥感の裏返しかもしれないが……。

(中願寺純隆)

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