権力が嫌うのは、昔も今も「言論」。かつて7年8カ月に渡る長期政権を築き、ノーベル平和賞まで受賞した佐藤栄作元首相は、1972年の退陣会見で「偏向的な新聞が大嫌い」と発言。反発した記者たちが揃って退室したため、テレビクルーだけが残るという異常な状況の中で、国民への最後の挨拶を行った。

その佐藤でさえ、在任中に言論を封殺するような愚かなマネはしておらず、以後も監視する側とされる側の関係は、民主主義国家における“あるべき姿”を保ってきたと言えるだろう。

それが崩れたのは、安倍晋三が再登板を果たし、「一強」という政治状況が生まれてから。8年近く続いた安倍政権は、大手メディアに対して露骨な圧力を加え報道の自由を脅かし、強権政治を継承した菅義偉は、あろうことか「言論人」そのものを否定するという暴挙に出て顰蹙を買っている。

■安倍政権から続く言論封殺の動き

2015年、権力批判が売り物だったテレビ朝日の「報道ステーション」で長年キャスターを務めてきた古舘伊知郎氏の降板が決定。筑紫哲也氏が育てたTBSの「ニュース23」も、それまでアンカーを務めていた岸井成格氏が交代を余儀なくされるなど、安倍政権の圧力にメディアが屈したとしか思えない出来事が相次いだ。

2016年2月には高市早苗総務相(当時)が、放送局が政治的な公平性に欠ける放送を繰り返した場合、放送法を盾にした「電波停止」もあり得るという主旨の発言を行い、露骨な報道圧力だとして批判を浴びた。安倍政権にとって都合の悪い番組に対する牽制だったことは明らかだった。

同年年7月には、“一強”に驕る自民党が、ホームページ上で「学校教育における政治的中立性についての実態調査」を展開。学校教育の現場で「子供たちを戦場に送るな」、「安保関連法は廃止にすべき」などと安倍晋三政権に批判的な主張を行った教員の事例を定型フォームに記入して党本部あてに送るよう、事実上の密告奨励を行っていたことが分かっている。

「子供たちを戦場に送るな」を“偏向”と決めつける自民党は、その段階で狂っていたのだが、多くの関係者から「まるで戦前」といった激しい反発の声が上がったのは言うまでもない。

振り返ってみると、こうした自民党の暴走は、その前年に始まっていた。2015年、安倍晋三首相に近い自民党若手が開いた勉強会「文化芸術懇話会」で、極右作家や井上貴博、大西英男、長尾敬の衆院議員3人が「(沖縄の)マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」などと言論を封殺する発言を連発。意に沿わない報道機関に対し、脅しをかけて黙らせるという戦前の軍部と同じ発想のバカな政治家たちが存在していることを、世に知らしめた。

一連の動きは、批判的な声を力で封じ込めようとする自民党政権の姿勢が顕在化したもの。官房長官としてその政権の中心にいたのが、安倍政治を「継承」した菅義偉首相である。

■「叩き上げの苦労人」の正体

総理に就任した菅氏にマスコミが進呈したのは、「叩き上げの苦労人」というプラスイメージ。国民はすっかり騙されて「7割」という高い支持率を与えたが、化けの皮は意外と早く剥げた。調子に乗った菅氏と官邸が、安倍政権の方針に批判的だった日本学術会議の会員候補6人を排除するため任命を拒否し、「逆らう者は許さない」という強権姿勢を示したからだ。

任命拒否への反発が広がると、橋下徹元大阪市長やフジテレビの解説委員など菅と親しい連中が次々に学術会議に関するフェイク情報を発信。これを受けた政府・自民党は、学術会議の組織を改編すると言い出した。安倍政治が得意としてきた「議論のすり替え」で、国民の目を逸らそうという魂胆だ。だが、国民は決してバカではない。ご祝儀相場は終わったらしく、菅内閣の支持率は急落している。

日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという考えに基づき、行政・産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として1949年(昭和24年)に設立された組織で、「日本学術会議法」は所轄を内閣総理大臣と定めた上で、《日本学術会議は、独立して職務を行う》と規定している。『独立して』の一言は、政府の束縛を否定したもので、故に首相には推薦された会員の任命を拒否することはできないものと解されてきた。菅首相は、歴代内閣が尊重してきた「日本国憲法」が保障する「学問の自由」や「言論の自由」を、自己都合で踏みにじろうというのである。憲法違反が問われるべき事態だろう。

菅氏が本当の「苦労人」なら、この国に平和をもたらした憲法の精神を、簡単に汚すようなマネはしないはずだ。しかし、「改憲」を至上命題に掲げた政権のナンバー2として安倍を支えてきたのは菅氏。もともと同氏には、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(憲法99条)と規定されたの憲法遵守義務を守る意思などない。叩き上げの苦労人の正体は、「国家観を持たぬ権力主義者」ということだ。

この内閣が危険なことは、人事をみても明らかだ。菅内閣で新たに国家安全保障に関する重要政策を担当する総理補佐官に任命されたのは、前述した自民党右派の勉強会「文化芸術懇話会」の元代表で、教育現場での密告奨励を推し進めた木原稔衆議院議員なのである。(*下は、2016年7月の木原氏のツイッター投稿)

「言論の自由」が制約を受ける国では「民主主義」は育たない。全体主義が幅を利かせた戦前・戦中を知る日本は、敗戦を経て、そのことを学んだはずだ。安倍から菅へと継承された「言論封殺」の動きを、あなたは許しますか?



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