【速報】道警「ヤジ排除」にまたお墨つき|札幌検審が「不起訴相当」議決

折に触れ報告している「首相演説ヤジ排除問題」で、現場の警察官の排除行為を不起訴処分とした札幌地方検察庁の決定について、排除の被害を訴える大杉雅栄さん(32)から審査申し立てを受けていた札幌検察審査会が、当初の不起訴処分を「妥当」とする議決に到っていたことがわかった。当局の判断を第三者機関も追認した形で、衆人監視下で行なわれた表現の自由侵害行為にまた新たなお墨つきが与えられたことになる。

■軽視される「表現の自由」

決定は21日付で、翌22日午後に検審の掲示板で公表された。申し立て代理人にも同日のうちに議決が交付されたとみられる。

公表された要旨によると、札幌検審は警察官らによる複数回の排除行為(申し立て事件としては7件、審査事実は3件)をいずれも「不当とはいえない状況にあった」と認め、排除を「避難・制止の手段としてやむを得ない」と判断した。「安倍やめろ」などと叫んだ大杉さんを実力で首相演説から排除した一連の行為は、北海道警察が根拠としている警察官職務執行法に照らして「許容範囲」あるいは「許容し得る」ものだったといい、「不当な職権の行使とは認められない」と結論づけた。

検審では11人の委員が審査にあたり、検察の不起訴処分の妥当性を検証する。処分に異議を示す委員が6人を超えると「不起訴不当」を、さらに8人以上になると「起訴相当」を議決する決まりだが、今回の「不起訴相当」はこのいずれでもなく、排除行為に疑問を寄せた委員が過半数に届かなかったことになる。大杉さんが審査を申し立てた本年4月3日から半年余りで到った議決について、札幌検審の事務局は取材に「検察審査会法26条に基づき、会議の内容は公開できない」と、議論の経緯や採用した証拠などを明かしていない。申立人自身も「要旨」以上の概要を知る手立てがなく、こうした制度上の問題を含め、大杉さんは今回の議決を次のように批判している。

「そもそも情報公開が一切なされないブラックボックスなので、審査が公正に行なわれているかどうかを判断することはできないが、もしも誘導的な対応がなされていないのだとしたら(純粋に市民による判断がなされているとしたら)、『お前の証言は信用できない』『こんな奴は排除されても仕方がない』と言われているようで、不愉快だし、恐い気もする」

首相演説ヤジ排除問題では、「増税反対」などと叫んだ桃井希生さん(25)を警察官が拘束し、また長時間つきまとった行為についても、札幌地検の不起訴処分が決まっている。これに対しては桃井さんが本年7月、大杉さんと同じく検審申し立てに踏み切ったところだが、こちらの議決は現時点で伝えられていない。

今回の検審議決の「趣旨」と「理由」を、以下に全文採録しておく。一読した大杉さんの感想は「警察の作文みたいでムカつく。検察審査会の独立性はどこへ行ったのか」というものだった。

議決の趣旨
本件各不起訴処分はいずれも相当である。

議決の理由
1 被疑事実(告訴事実)の要旨

被疑者(被告訴人)らは、北海道警察に勤務する警察官であるが、令和元年7月15日に安倍晋三内閣総理大臣が選挙の応援演説を行う際に警備活動等を行うに当たり、同内閣総理大臣に批判的な言動をする人物の身体を拘束してその場から移動させることを共謀の上

第1 同日午後4時40分頃、札幌市北区北6条西4丁目北海道旅客鉄道株式会社札幌駅南口地下街出入口S‐17付近路上において、街宣車の上で演説中の内閣総理大臣安倍晋三に向かって、「安倍やめろー。」、「帰れ。」、「安倍、帰れー。」などと怒号した審査申立人(告訴人)に対し、被疑者B及びCが、腕や腰などをつかんで東方に連行するなどの暴行を加え

第2 同日午後4時45分頃、札幌市中央区北4条西3丁目交洋駅前ビル付近路上において、被疑者D及びEほか氏名不詳らが、審査申立人の右上腕などをつかんで東方に連行するなどの暴行を加え

第3 同日午後5時15分頃、札幌市中央区南1条西4丁目日之出ビルディング付近路上において、被疑者F及びGほか氏名不詳らが、「安倍やめろ。」、「ばか野郎。」などと怒号した審査申立人の腕や肩などをつかんで南方に連行するなどの暴行を加え

もって職権を濫用して審査申立人を不法に逮捕監禁するとともに、同人の権利の行使を妨害し、かつ、職務を行うに当たり審査申立人に暴行を行ったものである。

2 当検察審査会の判断

(1)第1の事実について、安倍総理の支持者と思われる者から審査申立人が拳で左腕を強く押されるという行為を現に受けており、審査申立人がこれに反撃するなどして、両者間でケンカを始める危険が切迫していると認めるに足りる状況があった。審査申立人の周囲には熱心な支持者が多数存在したことから、両者間でケンカに発展した場合、警察官らも制止困難な混乱状況に陥ることが予想され、周囲にいた警察官らが直ちに警察官職務執行法4条及び5条の措置を講じる必要があると考えたとしても不当とは言えない状況にあったと認められる。

また、審査申立人を現場から移動させるという手段についても、多数の支持者全員を移動させるのは困難であるから、危険が切迫しているその場の状況においては、避難・制止の手段としてやむを得ないものと考える。

(2)第2の事実について、審査申立人は、支持者らの集団から引き離された後も、急に歩道の端まで走り、安倍総理が登壇した選挙カーに向かって「安倍やめろ。」などと大声で連呼を続けた上、横断歩道の途中から突如車道を走って選挙カーに向かっており、審査申立人自身も「状況を知らない人が選挙カーの方に走って近づく私を見れば、私のことを不審者だと思うのではないかと思いました。」と述べており、審査申立人が安倍総理や選挙カーに向かって物を投げて危害を加えたり、選挙カーに近づけまいとする安倍総理の支持者らとの間で、審査申立人が暴行事件を起こすなどの犯罪行為に及ぶ高度の蓋然性があり、それがまさに差し迫っている状況であったものと認められ、周囲にいた警察官らが直ちに警察官職務執行法5条の措置を講じる必要があると考えたとしても不当とは言えない状況にあったと認められる。

(3)第3の事実について、審査申立人は、安倍総理と僅か3、4メートルしか離れていない場所から「安倍辞めろ。」と叫ぶだけでなく「バカ野郎。」と侮辱的な言辞も用いて大声で連呼し、さらに、少しでも選挙カーに近づこうとする動きをしており、審査申立人が安倍総理や選挙カーに向かって物を投げつけたり、選挙カーに近づけまいとする安倍総理の支持者らとの間で、審査申立人が暴行事件を起こすなどの犯罪行為に及ぶ高度の蓋然性があり、それがまさに差し迫っている状況であったものと認められ、周囲にいた警察官らが直ちに警察官職務執行法5条の措置を講じる必要があると考えたとしても不当とは言えない状況にあったと認められる。

(4)被疑者らの一連の職務執行は、第1の事実については、警察官職務執行法4条の避難及び同法5条の制止の措置として許容範囲にあり、第2及び第3の事実については、警察官職務執行法5条の制止として、許容し得るものであって、いずれも違法、不当な職権の行使とは認められない。

(5)よって、検察官がした不起訴処分(罪とならず)の裁定を覆すに足りる証拠がないので、上記趣旨のとおり議決する。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 

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