70億円投入も増える空家|鹿児島・松陽台県営第二団地の現状(下)

鹿児島県が2014年から鹿児島市松陽台町で整備を進めてきた「県営松陽台第二団地」。総戸数を当初計画の328戸から280戸に減らし、「子育て世代」に限定することで入居者を募ってきたが、不人気なのは明らか。事業が完結する前に「将来的な町の荒廃」を訴えてきた関係者の“懸念”が現実味を帯びる状況となっている。

■約70億円もの公金投入

松陽台第二団地の約5.6ヘクタールにのぼる土地は、県が鹿児島県住宅供給公社の赤字を補填するため、税金を投入して取得したものだ。その額約30億円。住宅政策失敗の穴埋めを、県民に押し付けた形だった。

2014年に始まった住宅建設は、最終の8期までに280戸を整備する予定。県は、残っている8期工事14戸のうち今年度に8戸を、来年度に6戸を建設予定だとしている。

では、これまでに整備された266戸の工事費は、どれだけかかったのか――。県への情報公開請求で入手した資料から、工事名とそれぞれの執行額をまとめた。

 住宅建設費は8年で約37億5,000万円、これに土地代約30億円を加えると70億円近い公費が投じられたことになる。今年度は8戸、さらに来年度に最後の6戸を整備すると、総事業費はさらに膨らむ計算だ。

これだけの血税を投入した立派な住宅であるにもかかわらず、県は入居者増に向け躍起にならざるを得なかった。事業のスタート時点で《子供が小学校を卒業するまで》だった入居条件を《末子が中学校を卒業するまで》と改定、今年度からは《末子が18才に達するまで(高校を卒業するまで》と大幅に制限を緩めている。本来なら県営住宅から県営住宅への転居が認められないはずの「既存の一般世帯向け公営住宅に住む子育て世代」も、募集対象に加えたほどだ。何故こうまで入居条件を変更しなければならいのか?

■高い「空家率」が意味するのは・・・

その疑問に対する答えが、下の画像。いずれも「空家」である。

県営松陽台第二団地を含む松陽台町の図面を見ると分かるが、第1期の住宅整備が始まったのは、最寄り駅となるJR上伊集院駅から最も離れた場所。小学1~2年生なら、20分はかかる距離だった。(*下、参照)

地理的な問題に加え、経年劣化も進む。すると誰もが、より利便性の高い、新しい住宅を希望するようになる。当然ながら、古い住宅に「空家」が増える。

県への情報公開請求で入手した資料から、主として鹿児島市内となる県住宅政策室管内にある県営住宅の「空家率」を確認すると、こうなる。

空家が多い「緑が丘」(は1968年から1975年にかけて、「皇徳寺」は1983年から1988にかけて造られた古い団地で、室内は虫の死骸だらけというケースが珍しくないという。維持管理も満足になされていない住宅を県民が敬遠するのは普通で、当然空家率も高い。

一方、「県営松陽台第二団地」は鹿児島市内にある県営住宅の中で最も新しい施設。その松陽台第二の空家率は、住民が減り続けている「皇徳寺」とほぼ同じ、一番老朽化している「緑が丘」より高いのだから不人気度が知れようというものだ。

こうした状態が改善されるかというと、かなり難しいと言わざるを得ない。県営松陽台第二団地の事業計画が発表された当時から懸念されていたのが「町の荒廃」。少子化が進み、不便な地域での「子育て支援住宅」の需要が無くなった場合、本来公営住宅を必要とする低所得者が、車がないと暮らせないような松陽台を選ぶとは思えないからだ。

前掲の写真やデータは、その兆候が現れていることを示しており、戸建て住宅「ガーデンヒルズ松陽台」に住む住民の間からは「やっぱり空家が増えているのか。こうなると思っていた」、「空家ばかりになったら、県はどう対処するのか。せめて残りの住宅建設を止め、代わりに住宅供給公社が反故にした『商業施設』を作るべきだ」などという声が上がっている。

住宅供給公社が失敗した住宅開発のツケを県民に回した上、将来的な空家増が指摘されていた県営住宅整備計画を強引に進めた鹿児島県。失政に泣かされるのは、いつの時代も納税者だ。

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