公示を目前にしながら、3年ごとの参議院選挙が一向に盛り上がらない。
原因を探すにあたって説得力を持つのは、「自民党が圧勝しそうな状況に有権者がしらけている」という、ある与党議員の指摘だろう。
毎回の国政選挙で棄権が増える中、支持基盤が厚い自民党が勝ちを拾うというのが現状。つまりは受け皿不在からくる政治不信。野党は、「自民党よりはまし」というレベルでさえない。
■「声」では分からぬ立憲民主の代表
小沢一郎、蓮舫、枝野幸男、辻元清美、菅直人――いずれも野党の顔として長年政界で活躍してきた人たちだ。毀誉褒貶の激しい政治家ばかりだが、大きな共通点がある。「声」の認知度が高いということである。
例えばラジオで小沢氏や蓮舫氏らの声を聴いたとする。おそらく、大半の国民は誰の声なのか分かる。野党の政治家ではあるが声の認知度は群を抜いており、フルネームが浮かんでくる。
では、現在の野党第一党・立憲民主の代表・泉健太氏の声を聞き分けることのできる国民はどのくらいいるだろうー-?
残念ながら、声を聴いただけで泉氏だと分かる国民は、おそらく10人に一人かふたり。 “立憲民主の代表は誰か?”という問いに対しても、氏名を即答できる人の数の割合は極めて低いはずだ。党首の知名度、認知度の低さが同党の致命傷になる可能性が高まっている。
党首の不人気を他の幹部の活躍で補うという手もあるが、同党のナンバー2である幹事長も軽量級。「西村智奈美」という名前は、ほとんど浸透していない。
党首も幹事長も力量不足。知名度も期待値も低い政治家が先頭に立つ政党の支持率が、上がるわけがない。「政党の党首の最低条件は、声だけで誰だかすぐに分かる人」――ある古参ジャーナリストの言葉に、肯かざるを得ないのが現状だ。
なぜこんな執行部を選んだのかと質しても、立憲民主党の議員からまともな回答が返ってくるとは思えない。旧民主党時代から、「こんなはずじゃなかった」が何度繰り返されてきたことか。国民と同党の間には、修正不能な意識のズレがある。
■支持率低迷のA級戦犯は「連合」
そのズレが生じている原因の一つに、「支持基盤」との関係がある。立憲の支持基盤といえば、労働組合の「連合」(日本労働組合総連合会)。立憲が「支持基盤は国民」と胸を張れないことの裏返しでもあるのだが、あたかも労働者の代表のような立ち位置で、旧民主党から枝分かれした立憲民主党と国民民主党を操ってきたこの組織が、野党全体を弱体化させたA級戦犯と言えるだろう。
立憲民主党の議員たちが右往左往するのは、連合の方針に振り回されているからだ。憲法や原発といった国の根幹にかかわる重要な政治課題についての方針が、政治家ではなく労組の意向で決められてきたことに、有権者は呆れ果てている。
東京電力・福島第一原子力発電所の事故を目の当たりにし、原発の再稼働に慎重な発言をした旧民主党系の政治家が、電力労組の幹部などから突き上げられるといった「労組の圧力」に関する話は、枚挙に暇がない。
電力総連はもちろんだが、旧同盟系の労組は「労使一体」が実情だ。産別組織であるJAM、UIゼンセン、自動車総連、電機連合、基幹労連――。ほとんどが大手企業の労組であり、「国民第一」ではなく「会社第一」のにおいが強い。例えば、電力や電機の組合が原発再稼働に慎重な議員を糾弾するのは。国民のためではなく会社の業績のためなのだ。
そもそも、連合を労働者の代表として扱うのは間違いだ。連合所属の組合員は公称700万人とされているが、日本の就業者数は令和22年で6,677万人(内閣府のHPより)。連合の組合員は、働く人の1割程度でしかない。しかも加盟しているのは、大手企業の社員が所属する労組が大半。連合の主張は、「国民の声」では決していない。
選挙に弱い立憲民主党の議員たちにとって労組の持つ基礎票は魅力だろうが、一番欲しいのはポスター張りやローラー作戦の労働力。それがあるばかりに、労組に逆らうことができない。
優先されるのは国民や政治信条ではなく労組の方針。地域後援会を立ち上げることのできない立憲の議員(もちろん国民民主も)は、いつまでたっても自立できない子供のようだ。
おとなしい議員たちのせいで傲慢が身についた連合は、「共産党と組むな」などと政党の決定事項を捻じ曲げるようなマネを平気でやるようになった。
■自民党にすり寄った連合・芳野氏
その連合のトップである会長は芳野友子氏。昨年10月に就任するやいなや、自民党の麻生太郎副総理や小渕優子氏と会食し、同党の会合で講演するなど自民にすり寄った。
芳野氏はミシンメーカー「JUKI」の労働組合出身で、上部団体は機械・金属産業の労働者で組織されている産別組織「JAM」である。
JAMは、自民党より右寄りといわれた旧同盟系。民間労組の集合体だった旧同盟は、自治労や教組といった官公労中心の旧総評系とは憲法や原発に関する考え方が180度違う。大まかにいえば、旧同盟系は憲法改正や原発推進に積極的で、旧総評系は護憲であり原発反対だ。JUKI労組で20歳の時から専従職員になったという経歴を持つ芳野氏は、右寄りの思想を持つ人物ということになる。
芳野氏が自民党に急接近した理由は、もともと自民党にシンパシーを感じていたか、あるいは権力に酔って調子に乗ったかのどちらか。いずれであるにせよ、この人の愚行が野党の分断を招いているのは確かだ。
■与党化した国民民主党
旧同盟系の労組から後押しを受け、旧民進党から分派して結党したのが国民民主党。同党の党首は軽薄が背広を着て歩いているような玉木雄一郎氏である。先日閉じられた通常国会で、国民民主党が野党としての役割を放棄し、あろうことか政府与党の予算案に賛成したことは記憶に新しい。
嬉々として自民党にすり寄る芳野連合会長と足並みを揃えるように、事実上の与党化を図ろうと狙う玉木・国民民主党――。こんな政党に期待する有権者が、数多く存在するとは思えない。
案の定、共同通信社が実施した直近の世論調査では、立憲や維新の支持率が8%台であるのに対し、国民民主のそれは1.4%。共産党(3.1)やれいわ新選組(2.6)の数字にも届いていない。
ちなみに、共同の世論調査における自民党の支持は46.5%。他に期待感を抱かせる政党がないという悲しい現実が、こうした状況を生んでいる。
■処方箋はあるが……
国民民主党に期待するのは無理だ。では、第三極として急激に指示を伸ばしてき日本維新の会はどうかといえば、同党は国民民主以上の激しさで核武装や憲法改正を主張する極右政党。大阪都構想やカジノIRなどで有権者を引き寄せることには長けているが、失政や所属議員の不祥事では責任をとらず、身勝手な言い訳に終始するケースが多い。無責任な政治集団に国を任せるわけにはいくまい。
立憲民主党の政治家たちに、野党第一党の矜持をもって国民政党に脱皮する意思があるのなら、最低限二つのことをやり遂げなければならない。
まずは党首をはじめ執行部の交代だ。政策立案能力や統率力、さらには情報発信力に優れ、「声」だけ聞いて誰だか分かる人物を党首に担ぐのなら申し分ない。適任者不在なら、民間から抜擢して党首に迎え、直近の国政選挙で議席を得る機会を作ればいい。困難な道ではあるが、やるべきだ。かつて茶髪の弁護士から一党の党首に駆け上がった、橋下徹氏という成功例もある。
最も重要なのは、連合と決別する覚悟を持つことである。党首の交代は参院選の結果が後押しすることになるだろうが、連合との関係見直しには相当勇気がいる。しかし、このまま連合に引きずられる状態が続けば、立憲民主党は国民から見放され、衰退の一途を辿ることになるだろう。それが嫌なら、労組の力を借りなくても選挙に勝てる“地域での基盤”を整えることだ。その上で、組合の組織内候補を減らし、地域密着型の議員をどれだけ増やせるか――。立憲民主党は、逃げずに現状打破へと動くべきだ。
政権を担う力を持った健全な野党の出現を待っているのは、この国の有権者であることを忘れてはなるまい。
(中願寺純隆)