「アベノミクス」で始まり「アベノマスク」で終わる安倍政治

ドラッグストアだけではなく様々な商店、企業が軒先でマスクを売るようになった。開店前のドラッグストアに、マスクを求める人が作っていた長い行列も、いまはない。

場所によっては売れ残りが出ているらしく、数時間後に通ったらいきなり値段が下がっていたというケースもある。あれだけ品薄だったマスクが、連休が明けると同時に飽和状態になったということだ。しかし、早くから騒がれていた「アベノマスク」とやらは、未だに届かない。

必要性のなくなった「アベノマスク」こそ、国民感情と大きくずれた安倍政治の象徴である。

■アベノマスク

マスク代に消えた466億円の税金がどれほど国民の役に立ったかと問えば、不良品の山を築いたことに加え“遅配”という現実もあって、否定的な答えしか返ってこないことだろう。

実際、マスクの供給過剰が目立ち始めたいまとなっては、いわくつきのマスクに喜ぶ人は少数。近年、これほど酷い公金の無駄遣いはみたことがない。

マスク配布に費やされた500億近い税金を、休業要請に応じた企業や商店、アルバイトの収入がなくなったり、親元からの仕送りがストップして困窮している学生などに拠出していたら、どれほど喜ばれていたことだろう。優雅にティータイムを楽しみ、犬と戯れている宰相には、何が優先課題なのかが分からなかったということだ。

小さな布マスクをつけた安倍さんの滑稽な姿が、危機管理で底の浅さを露呈した政権の現状を表している。

■失政の証

すっかり定着した「不要不急」は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って認識されるようになった一語である。暮らしの中に根付いた「自粛」もそうだ。いずれも、嫌な響きを与える言葉になってしまったが、別のシーンで使われていれば、ここまで悪い印象にはなっていなかっただろう。

安倍政権になって、いくつもの“流行語”が誕生したが、どれも悪い意味でのものか、実現しなかった施策に絡んでのものだ。

代表例が「忖度」。もともと他人の気持を推し量って配慮するという良い意味での言葉なのに、森友学園や加計学園の問題を通して広まったため、「権力者に媚びへつらう」というような悪い印象を植え付けられてしまった。

一億総活躍」も「三本の矢」も「地方創生」も「働き方改革」 も「人づくり革命」も、一つひとつは輝きを放つ言葉だが、安倍政権下では“実現しなかった公約” であり、錆び付いたキャッチコピーに過ぎない。以下、底も浅いが言葉も軽い安倍晋三という政治家が放った“言葉”の顛末だ。

習近平と東京五輪に引きずられて入国制限を躊躇したため、新型コロナの水際対策に失敗したことが間違いの始まりだった。政府の対応が後手に回ったせいで、長期間の自粛を余儀なくされた国民の多くが「活躍」の場を失っている。

飛んだ先さえ分からない「三本の矢」とは、“大胆な金融緩和” “機動的な財政出動” “成長戦略”の三つの政策を指すが、コロナ恐慌で何もかもが水泡に帰した状態となった。

政府は「観光立国」を成長戦略の軸に掲げてきたが、外国――とくに中国からの訪日客が新型コロナウイルスの蔓延を招き、インバウンド関連業者の疲弊につながったのは確かだ。落ち込み激しい観光業界の現状は、少なくとも三本のうちの一本が、間違った方向に射られたことを証明していると言えるだろう。

新型コロナ対策の失敗で、目まぐるしく新しいキャッチコピーを持ち出すことで国民をごまかし、強いリーダーを演じてきた安倍さんに愛想尽かしをする国民が増えてきた。皮肉なことに、ふがいない安倍政権に見切りをつけた有能なリーダーのいる地方自治体は、独自路線を打ち出して勝手に「地方創生」をやり始めている。

休業要請と自粛で在宅勤務が増えたため、思いがけない形で「働き方改革」も実現した。コロナがもたらした変化は、政権にとっては皮肉な結果でしかない。

人づくり」に関しては、惨憺たる状況だ。妻を当選させるために買収資金をばら撒いた元法務大臣と、秘書が逮捕されても説明せずに逃げ回る妻本人。政権が進めるカジノを含む統合型リゾート(IR)絡みで逮捕された衆議院議員――。安倍さんは、自分の足もとの「人づくり」に失敗しているのに、何の責任もとっていない。

元法相の妻を当選させるために安倍自民党が投下した政治資金は1億5千万円。出来上がったのは“罪人”というオチがつきそうだ。

本来の意味が変わったり、いつの間にか消えてしまった安倍首相の「言葉」は、つまり失政の証なのである。

失政ばかりで歴代最低の安倍政権が7年半ももったのは、野党を含めた政治家や大手メディアの質が極端に下がったことが最大の要因だ。

「何が何でも自民党」という、真実を見つめることを放棄した4割近くの人たちが、報道機関の世論調査に「安倍政権を支持する」と答え続けてきたことも見逃がせない理由の一つだろう。

だが、新型コロナウイルスという目に見えない脅威に対し、それこそ手も足も出ず、すべての対応が後手に回るばかりとなった安倍首相の姿を、「我が国のリーダー」と誇れる日本人はどれほどいるだろうか。

「アベノミクス」で始まった政権が、どうやら「アベノマスク」で終わる。

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