「令和の政商」大樹総研・矢島義也氏の生い立ちと人脈

昭和の政商、児玉誉士夫は戦前、海軍航空本部の嘱託として上海でコバルトやニッケルなど戦略物資の調達にあたり、莫大な富を手にした。

敗戦直前に隠匿物資とともに引き揚げ、戦後は駐留米軍に協力してその富を温存、保守勢力の黒幕として影響力を行使した。児玉の力の源泉は戦前、戦後を通して「軍」であった。

では、「令和の政商」の異名を取る大樹総研グループの代表、矢島義也(よしなり)氏の力の源泉は何か。どうやって原資を蓄えたのか。これまでの報道や関係者の話をもとに探っていくと、どうやら「女」を使って元手を蓄えたのではないか。そう思われる節がある。

矢島氏の名を初めて世に知らしめたのは、スキャンダル暴露雑誌『噂の眞相』である。1999年の8月号に「有名俳優たちの秘密乱交パーティの夜」という記事を掲載し、東京・代々木公園近くのマンションに若手のタレントと妙齢の女性たちを集め、夜ごと乱交パーティーを開いている、と報じた。記事では矢島氏は本名の「矢島義成」として登場する。

このマンションに足しげく通ってきたのはジャニーズ事務所の堂本光一や長瀬智也(当時)、俳優のいしだ壱成、加藤晴彦……。当時の売れっ子タレントが続々登場する。彼らの相手をしていた女性たちも突き止め、その証言も生々しく伝えた。

芸能プロの関係者によれば、「矢島はもともと神宮前にあった『ネオ・マスカレード』というバーのオーナー。バーには芸能人やプロ野球選手なんかが頻繁に来ていた。女と有名人には目がない性格で、言ってみれば一種の『芸能ゴロ』みたいなタイプ」なのだという。

このバーにしろ乱交パーティーにしろ、矢島氏とタレントたちを結び付けたのはTBSの宣伝部や編成局の幹部たちのようだ。「TBSに深く食い込み、編成部が主催するゴルフコンペはすべて矢島氏が仕切っている」との証言を伝えている。

この記事を受けて、写真週刊誌『フォーカス』も同年7月21日号で「乱交パーティー『女衒(ぜげん)芸能プロ社長』の正体」と報じた。事情通によれば、「芸能プロ社長の名刺で女の子をナンパ。タレントにしてあげるとか、芸能人に会わせてあげるなどと言って、パーティーに誘っていた」のだという。

同誌は矢島氏の故郷は長野県箕輪(みのわ)町であるとし、地元の人の話として「実家が会社を経営していた資産家の一人息子。地元の高校を中退して、その後も定職につかず、親の金で飲み歩いたり女を引っかけたり。慣れない事業に手を出して失敗、親を破産させてしまった。バカなボンボンというので“バカボン”と呼ばれていました」と伝えている。

◇  ◇  ◇

この生い立ちの記はどこまで本当なのか。長野県南部の伊那谷にある故郷を訪ねた。

彼は1961年1月、長野県箕輪町で矢島誠氏の長男として生まれた。この町には、電子部品メーカーとして世界トップクラスの技術を持つ興亜工業という会社がある(後にKOAと社名変更)。創業者は向山一人氏で、衆院議員や参院議員も務めた。

父親が経営していた矢島電機は興亜の系列会社だった。日本の製造業が世界を席巻していた1980年代には父親の会社も躍進し、町内に豪邸を建てている。「資産家のボンボン」であったことは間違いない。

小中学校時代を知る人は「余裕のある性格で失敗を恐れない。人に頼られるタイプ。器が大きいと感じた。野心は持っていたように思う」と語った。

箕輪中学の卒業文集(1975年度)に寄せた文章が興味深い。タイトルは「中学卒業バンザイ 後三年で?」。中学校生活の思い出は乏しく、高校生活への期待もあまり感じられない。行数を費やしているのは高校を卒業した後に乗りたい車、とくにポルシェなど外車へのあこがれである。

中学で長く国語の教師を務めた人にこの文章を読んでもらった。この文章から何がうかがえるのか。「漢字の使い方はちゃんとしている。ただ、部活で活躍したとか達成感を得られた経験がなく、なんとなく過ぎていった中学生活だったのではないか。学校で知識を身につけて社会に出たいと思うタイプではない。さっさと高校を卒業して、楽しいことをしたいと考えていたのではないか」

同級生の記憶によれば、中学卒業後、バレーボールやラグビーの強豪校として知られる岡谷工業高校に入学したものの、中退したようだ。このためか、岡谷工業の同窓会名簿には見当たらない。入学者名簿は保存期間が過ぎたため廃棄されてないという。進学先は確認できなかった。

中退後、矢島氏はゴルフに打ち込んだ。愛好者を集めてコンペを主宰している。シングルプレーヤーで、プロを目指していた節もある。父親に資金を出してもらって、地元にスポーツ用品店を開いたりした。

だが、事業は失敗し、このころ父親の会社の経営も傾き始める。借金も重なり、矢島氏は逃げるように故郷を後にした。神宮前でくだんのバーを開いたのは1989年前後、20代の後半だった。父親の会社は倒産し、1998年に清算された。

会社の土地も豪邸も人手に渡ってしまったが、父親の名義ではなかったからか、生家だけは残った。現在は矢島氏と最初の妻との間にできた娘の名義になっている。父親は10年前に死去したものの、生家には今も「矢島誠」の表札が掲げられている。苦労をかけた父親への償い、なのかもしれない。

 東京でバーを経営し、その時の人脈で芸能界とテレビ業界に足場を築いたことは『噂の眞相』や『フォーカス』の記事からうかがえる。だが、「乱交パーティー騒動」の後、矢島氏がどうしていたのかはよく分からない。

中曽根内閣で労働大臣を務めた山口敏夫氏によると、彼はこのころ「銀座でプータローのような生活をしていた」という。彼と知り合ったのも銀座のクラブだ。「だれか貢いでくれる女でもいたのかもしれないね。派手に遊んでいたから」。

その銀座で矢島氏に転機が訪れる。浜松出身の民主党衆院議員、鈴木康友氏と知り合ったのだ。「鈴木氏は落選中だった」というから、郵政民営化をテーマに小泉政権が仕掛けた2005年総選挙以降のことと思われる。

鈴木氏は松下政経塾の1期生で、同期に野田佳彦衆院議員がいた。矢島氏は鈴木―野田のラインをたどって、民主党内に人脈を広げていった。2007年には鈴木氏と矢島氏のイニシャルを冠した政策シンクタンク「S&Y総研」を立ち上げた(後に「大樹総研」と改称)。

鈴木氏はこの年に国政から身を引き、浜松市長に転じたが、矢島氏が政界に人脈を広げるきっかけを作ったという意味で、「政商・矢島義也」の生みの親と言っていい。

◇  ◇  ◇

銀座という「地の利」、民主党人脈という「人の和」を得た矢島氏に「天の時」が訪れたのは、2009年である。

時の麻生太郎首相の不人気、自民党の内紛、リーマンショック後の不況といった要素が重なり、この年の総選挙で民主党が圧勝したのだ。鳩山由紀夫政権が誕生し、野田氏は財務副大臣に就任した。

1955年の結党以来、自民党は初めて第2党に転落し、霞が関の官僚たちはうろたえた。大臣になったのはよく知らない政治家ばかり。ツテを求めて、官僚たちの「矢島詣(もう)で」が始まる。国会対策を担当していた財務省の福田淳一氏、法務省の黒川弘務氏らとのつながりができたのはこの時である(後に福田氏は事務次官に上り詰めたが、セクハラで失脚。黒川氏は賭け麻雀で検事総長になり損ねた)。

矢島氏は民主党政権時代、野党自民党の国会対策副委員長として苦労していた菅義偉氏に手を差し伸べている。グループの議員が軒並み落選し、派閥解消に追い込まれた二階俊博氏も支援した。このへんが矢島氏の懐の深いところだ。人間、苦しい時に助けてくれた人への恩は忘れない。

自民党が政権を奪回すると、矢島氏は菅―二階のラインで自民党にも人脈を広げ、与野党の双方に太いパイプを持つに至った。官僚や経済人が以前にも増して群がったのは言うまでもない。

矢島氏の人脈のすごさを見せつけたのが、2016年5月に帝国ホテル「富士の間」で開いた「結婚を祝う会」である。銀座で知り合った女性との再婚を祝う会なのだが、主賓は菅義偉・官房長官(当時)、乾杯の音頭は二階俊博・自民党総務会長(同)という豪華版だ。

民進党(旧民主党)からも野田佳彦氏、玄葉光一郎氏、細野豪志氏らが出席、財務省の福田氏ら有力省庁の幹部も漏れなく参じた。菅氏と親しいSBIホールディングスの北尾吉孝社長、サイバーセキュリティ分野で国内第一人者とされる安田浩・東大名誉教授、徳川宗家19代当主の徳川家広氏、インドネシアのゴベル通商大臣ら実に多彩な顔ぶれである。

こういう席にはあまり顔を出さない安倍晋三首相(同)もビデオメッセージを寄せ、それが披露されると、300人余りの出席者の間にざわめきが広がったという。

その人脈を矢島氏はどのように活用しているのか。その内実を、月刊誌『選択』が2018年8月号で詳細に暴いている。

大樹総研の傘下に再生可能エネルギー事業を手がける「JCサービス」という会社がある。この会社が鹿児島県徳之島町で太陽光発電の蓄電池増設事業を計画し、2013年に環境省から補助金を受けた。

ところが、蓄電池は一度も稼働せず、一部は現場に放置されていた。事業のずさんさを知った環境省は、補助金2億9600万円の返還と加算金1億3,600万円の支払いを命じた。

問題は、このJCサービスの子会社から細野豪志氏に5,000万円の資金が流れていたことだ。この補助事業が検討されていた2012年当時、細野氏は野田政権の環境大臣であり、「便宜供与への謝礼(賄賂)」ではないか」との疑惑が浮上した。

細野氏は「個人的に借りた」と釈明し、贈収賄事件として立件されることはなかったが、細野氏と会社との仲介をしたのは大樹総研グループと見られる。

『選択』は、ソーシャルレンディングをめぐる闇も追及している。ネット上で資金を募り、ネット上で融資の仲介をするベンチャービジネスの一つだが、再生可能エネルギーへの投資を名目に巨額の資金を集めながら、それとは別のことに流用するといったトラブルが頻発している。この分野でも大樹総研傘下の企業群がうごめいているという。

記事で引用している大樹コンサルティングの海老根靖典社長の言葉が興味深い。海老根氏によれば、大樹総研グループは「すべての政党と深く関わりがあり、中央官庁との色々なネットワークも持っていますので、政治的な働きかけができることが大きな強み」なのだという。

彼らはその「強み」をどのように使っているのか。政治家や官僚、企業経営者たちは大樹総研グループとどう関わっているのか。一つひとつ、それを解き明かしていく作業を続けなければなるまい。

長岡 昇:NPO「ブナの森」代表)

長岡 昇(ながおか のぼる)
山形県の地域おこしNPO「ブナの森」代表。市民オンブズマン山形県会議会員。朝日新聞記者として30年余り、主にアジアを取材した。論説委員を務めた後、2009年に早期退職して山形に帰郷、民間人校長として働く。2013年から3年間、山形大学プロジェクト教授。1953年生まれ、山形県朝日町在住。

参照記事⇒“「令和の政商」が配る「東京大学 最高顧問」の名刺

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