4日、菅義偉首相が、自民党総裁選に出馬しないことを突然表明した。
菅政権の閣僚の一員である河野太郎ワクチン担当相が、総裁選に出馬する意向であることを周辺に明言。石破茂元幹事長の動きにも、注目が集まっている。すでに、宏池会のトップ・岸田文雄前政調会長が出馬表明しており、次の総理・総裁の座を巡っての駆け引きが、一気に激化した状況だ。
■河野氏出馬で様相一変
力尽きた菅首相について、ある自民党の大臣経験者がこう話す。
「自民党の役員人事で、人気がある河野氏を幹事長で起用したいと思っていた。だが、本人が固辞。河野氏が所属する麻生派の領袖・麻生太郎副総理兼財務相からも断られた。それなら、安倍晋三前首相や麻生氏に支援が得られるような人物をとあたったが、菅首相の泥船には乗れないと、ほとんどの人から断られた。安倍政権時代から人事ですべてを牛耳ってきた菅さんだからこそ、東京オリンピック・パラリンピックを強引にやって、ワクチン接種を催促することができた。だが、最後は得意の人事が使えず、ジ・エンドですね」
さらに、こうも言う。
「河野氏は現職大臣で、菅さんとも良好。菅さんが出る総裁選では争うつもりはなかった。ところが、出ないと聞いて一気に勝負に出たんでしょう。菅首相辞任のニュースであふれるなか、出馬の意向を報じさせるあたりはさすがにうまい」
人気者の河野氏については小泉氏も支援の意向だとされ、岸田氏優勢と見られていた情勢が変わりつつある。
だが、河野氏は菅政権でのワクチン担当。菅首相のコロナ対策イコールワクチン接種という「一本足打法」を支えてきた立場だ。そのワクチンは供給不足が続いている上、異物混入などのトラブルが続いている。若い世代のワクチン接種を進めたいと、東京都が渋谷で予約なしの会場を設置したところ、「密」の大行列。抽選となったが、今も行列は絶えない。当然、責任はワクチン担当の河野氏にある。
「いくら人気があるといっても、ワクチン供給や接種が予定通り進んでいないのは事実。本来なら、ワクチン担当相を辞任してもおかしくないほどの失態が続いている」と河野批判を強めるのは、岸田派の衆院議員。確かに、正論である。
■注目集める石破元幹事長の動き
一方、岸田氏も地元広島では、河井克行・案里夫妻の公職選挙法違反事件と自民党本部からの1億5千万円の支出など問題を抱えたまま。今年4月に行われた案里氏の失職に伴う参院広島選挙区再選挙でも無名の野党候補に敗れた。
「岸田氏は総裁選で安部氏の支援がほしいのか、まったく1億5千万円の問題には触れない。再選挙でも自分の連れてきた元官僚に大差で敗れた。勝負勘、決断力がない人が総理になれるか」と河野氏の所属する、麻生派の議員からはそんな話が聞かれる。
菅首相から“切られた”ことで幹事長を降りることになる二階俊博氏の動向にも注目が集まる。
昨年の総裁選では、いち早く菅首相支援を打ち出してキングメーカーとなった二階氏は、「幹事長以外はいい、副総裁など名誉ポストなんてやらん」と以前から豪語していた。このまま黙っているとは思えない。
その二階氏が次期総理に担ぐ可能性があるのは、世論調査で「次期総理」として高い数字を獲得してきた石破氏とみられる。二階派の国会議員が次のように解説する。
「河野が勝てば、二階派が冷遇されるのははっきりしている。石破さんは、小沢一郎氏が新生党を結成したときに、二階さんと一緒に自民党を出た仲間。以前から気脈は通じている。石破さんのパーティーでも、二階さんは断らずに必ず顔を出す。石破さんのグループは17人で推薦人が3人足らない。だが二階派や、石破さんを前回の総裁選で応援した竹下派の一部が加勢すれば勝負になる。事実、2012年の総裁選では安倍氏に1回目の投票で勝っている。河野氏や岸田だと世代交代の印象が強く、石破さんならと思いますね」
自民党はコロナ禍をよそに、総裁選で大盛り上がりだ。だが東京や大阪では、緊急事態宣言が続いている。期限は9月12日までとされているが、延長が必至という状況。コロナ対策が最優先されなければならない中、総裁選だ、解散総選挙だとやっている場合ではない。