揺れる安倍派

安倍晋三元首相が銃殺された奈良市の近鉄西大寺駅前。事件現場に献花に訪れていた滋賀県の女性は、「まさかこんなことが起こるなんて、今も信じられない」と涙を浮かべる。

しかし、悲しみに沈む関係者をよそに、永田町では早くも次に向けた動きが顕在化している。

◇   ◇   ◇

「安倍会長は、日本の政界では最大の実力者でしたよ。若くて、戦後最長の首相在任記録を持ち、国民的な人気もある。それがいきなりこんなことになって……。今後、どうなるのか、想像もつきません」と小声でこぼすのは、安倍派の国会議員だ。

自民党の派閥では最大となる100人近くのメンバーを擁する安倍派。同派が力を保ってこれたのは、森喜朗、小泉純一郎、福田康夫、そして安倍晋三と、総理総裁の座を守り続けてきたからだ。派としては、岸田首相の次の総理総裁を狙わなければ、求心力が保てない。安倍氏亡き後、次の会長に誰がなるかだ。

「安倍派の会長になるということは、次の総裁選出馬への切符を手にすることということだ」(前出・安倍派の国会議員)

派内を見回せば、虎視眈々と次を狙う人たちの顔が見えてくる。萩生田光一経産相、西村康稔元経済再生担当相、下村博文元文科相、松野博一官房長官、世耕弘成参議院幹事長――いずれも、党内の実力者たちだ。

だが、自民党のある閣僚経験者は、次のように解説する。
「いずれも安倍さんと親しい関係にあったのでここまで出世できただけ。安倍派のトップには立てるかもしれないが、総裁の椅子を勝ち取れるほどの力も人気もない。派閥の事務総長は西村さんだが、細かなことを気にし過ぎだし、若手を大事にしない。下村さんは年齢的にもきついし、安倍氏の事件で反社会的な活動が再認識された統一教会との深い関係は今さらごまかせない。萩生田さんは、国家を語れるような政治家じゃない。松野さんは俺が俺がとしゃしゃり出るタイプではなく、本人もその気があまりないと感じる。世耕さんが本当にトップを取りたいのなら、昨年の総選挙で二階氏とガチで戦い、和歌山2区を奪い取るべきだった。トップをとるには、それくらいの覚悟がないとダメだ。つまりは、どんぐりの背比べ」

安倍氏亡きあと、100人近い安倍派は、このまま維持できるのか。麻生派の衆議院議員は、こう予測する。
「今の感じでは、下村さんと萩生田さん、世耕さんをそれぞれ推すグループがあり、いずれ3つに分裂すると言う人は少なくない。ただ、下村さんは以前から統一教会と親密だというので、総理総裁レースからは外れるのではないか。そうなれば、西村さんや稲田朋美さんを推す若手が出てくる。これまで麻生会長と安倍さんはとても親密で、あらゆる局面で同一歩調がとれた。しかし、安倍さんがいなくなったことで、麻生会長は大宏池会構想に軸足を移すかもしれない。菅さんや二階さんも、黙ってみているとは思えない。そうなると安倍派は草刈り場になりかねない」

安倍派は当面、塩谷立、下村博文の両会長代理を中心に「安倍派」の名前を残し、集団指導体制をとる方針だ。だが、それで収まるとは思えない。

安倍元総理の銃撃事件は、逮捕された山上徹也容疑者が犯行の動機と語っている旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に焦点があたる展開となっている。早くも、永田町には《統一教会と関わりをもった国会議員(現職)》というリストが出回っているほどだ。リストにある98人の現職国会議員の中で、野党議員は10人ほど。あとは、ほとんど自民党だ。安倍元総理自身も2021年、統一教会の開催する式典にビデオメッセージを送り、親しい関係にあったことがわかっている。

「反社会的な活動をしてきたオウム真理教は解体されたが、旧統一教会が生き残っているのはなぜか。やはり永田町との関係があったからではないのか。今後、安倍元総理の事件は旧統一教会の関連で自民党、安倍派に跳ね返ってくるのではないのか」(前出・自民党の閣僚経験者)

 

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