遺品整理で見つかった故人の叫び~騙された連帯保証~

金の貸し借りで騙されたとして、トラブルが表面化することはよくあることだが、騙されたことを本人が誰にも告げず墓場まで持っていき、死後の遺品整理で家族が知ることになったという悲劇を聞いた。「これが本当なら、親父に申し訳ない。本当の苦労をわかってやれなかった」――そう語るのは、故人の子息。今からでも法的に闘えないものかと弁護士に相談するという。

 

遺品整理が悲劇の始まり

鹿児島県内で自動車関連の会社を経営していたAさん。高度経済成長の波に乗り、小さいながらも創業から順調に会社の業績は拡大し、個人的にも財をなしていた。
取引はなかったものの、Aさんの近所に住む建設会社社長Bさんとは数十年来の親交があった。
建設会社は業績の波が大きな業種。経営が苦しい時もあった。Bさんは支払いが苦しいときにAさん個人から金を借りて、資金繰りを行うようになった。そんなやりとりが何度もあったという。
それほど関係が続いたことを考えれば、Bさんは借りた金は返していたと思われるし、返済されなければ、追加で貸すほどAさんもお人好しではない。
ある日の出来事を最後に両者の関係は途絶えた。これがAさんにとっての悲劇だったのだ。

 

今から30年前、Bさんが銀行から融資を受けたいとして、Aさんに連帯保証を申し出る。
融資希望額は1億6000万円。Bさん一族も連帯保証人となることから、Aさんはサインをした。融資は満額実行された。
しかし、1年もしないうちにBさんの会社は倒産。Bさん一族は自己破産し、連帯保証していたAさん一人に債務が回ってきた。
Aさんはそれまで築いた資産を切り崩し、1億6000万円を弁済した。会社の業績も傾き、Aさんの失敗は社内でも責められるものとなった。

社員も親族も把握している内容は上述の通りだった。

故人となったAさんの手記を見つけるまでは。

最近になってAさんの子息が遺品整理の際に、Aさんの残した手記を発見する。
そこには、Aさん本人から聞いたことがない話が書かれていた。例の連帯保証の話だ。

手記をもとに当時を再現する。

Bさんの調達したい金額は2000万円という話だった。「それぐらいなら」とAさんは金銭貸借契約書にサインしたが、金額の欄は空欄。
「後で(2000万円と)記入する」と説明を受け、印鑑を付き、Bさんの会社は銀行から融資を受けることができた。ほどなくBさんの建設会社は倒産する。
「連帯保証したのは間違いない。2000万円は払うほかない」――Aさんはそう覚悟したが、裁判所から届いた通知に書かれた金額に目を疑った。Bさんの会社が融資を受けた金額は「1億6000万円」だった。
Aさんのサインの後、空欄だった金額欄に書き込まれたか。騙されたとはいえ、契約書を確認しなかったAさんは自分を責めた。銀行に相談にも行ったが、相手にされず。結局、連帯保証をしていたBさん一族数名も破産しており、弁済能力は無し。Aさん個人がこれまで蓄えた資産を返済に充てるほかなかった。
Aさんは親族の誰にも、自分の失敗を相談できず、1億6000万円を弁済した。

 

法的には難しい問題だが・・・

Aさんの手記には、無念の思いが詰まっている。遺品整理で子息が発見し、絶句した。「まさかこれが事実だったのか。なぜ黙っていたのか」――これをどこかに訴えても、すでに全額弁済しており、過去の話と切り捨てられるだろうが、無念は晴らしたい。何か手段がないものか、弁護士に相談している。

この記事をSNSでシェアする

関連記事

注目したい記事

  1.  昨年2月、霧島市内のクリーニング店に勤めていた20代の女性がストーカー被害に遭った。犯人は霧島署の…
  2.  新聞記者として長くアジアを担当したので、インドやパキスタン、アフガニスタンから東南アジアまで、この…
  3. 北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で、教員らのパワハラが原因で自殺したという男子学生(…
  4. いわゆるヤジ排除国賠訴訟で全面勝訴判決を得た札幌市の女性が北海道の各機関に謝罪などを要請していた件で…
  5. 10月27日投開票の衆議院選挙で自民党は単独過半数を大きく割り込み、連立を組む公明党も敗北を喫したこ…




LINEの友達追加で、簡単に情報提供を行なっていただけるようになります。

ページ上部へ戻る