鹿児島教育界にカラスはいるか

先日、「イチケイのカラス」というテレビドラマで、人気俳優・竹野内豊さん演じる主人公の裁判官が、法廷内の関係者に、こう語りかける場面があった。

想像して下さい。あったことをなかったことにされたら、どれだけの人が傷つくことになるか

ドラマで描かれた事件は建設会社の過重労働だったが、他のケースにもあてはまる台詞だと思った。とくに、“あったこと”を“なかったこと”にして、教員や教育委員会の保身を図ってきた鹿児島県教育界の方々は、胸に刻んでおくべきだろう。

■「なかったこと」にされた重大事態

令和元年(2019年)に鹿児島市立伊敷中学校の2年生のクラスで発生したいじめは、ターゲットになった女子生徒が転校を余儀なくされるほどの、陰湿なものだった。ところが、同校や鹿児島市教育委員会は共謀し、事案を矮小化した上で“解決した”とする偽りの記録を残していた。教育機関による悪質な隠蔽という前代未聞の事件であり、先月の配信記事で詳細を報じている。

続いて記事にしたのは、平成30年に市内谷山地区にある小学校で起きたいじめの隠蔽について。この事案では、被害児童の保護者が「重大事態」の認定を申し出ていたにもかかわらず、学校側も市教委もその訴えを黙殺し、卒業まで手をこまねく状況となっていたことが分かっている。

学期途中に“転校”という形で緊急避難するしかなかった伊敷中のいじめも、中学進学時に学区変更を願い出ることになった小学校のいじめも、「重大事態」だったことは明らか。伊敷中のケースについて取材に応じた鹿児島県教育委員会も、そのことを認めているのだが、いずれの事案も「いじめが解消」という結果が記録されていた。ハンターが市教委への情報公開請求で入手した『いじめの実態報告書』は、「あったことが」が「なかったこと」にされた物的証拠である。

【いじめの重大事態】
1 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
2 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。(『いじめ防止対策推進法』)

ハンターからいじめの報告書3年分を開示するよう求められた市教委は、実情がバレるのを恐れたのか、保有している「いじめの報告書」を不存在=「ないもの」として処理しようと画策した。情報公開請求の内容を勝手にねじ曲げ、記者を騙そうとしたことが、逆に「隠蔽」の証拠を世に出すきっかけを作っている。

「あったことをなかったこと」にするためには、話をでっち上げたり、物証を隠蔽するなど不正を行うしかなくなる。公務員がやれば、信用失墜や公文書毀棄につながりかねない危ない橋だ。しかし、鹿児島の教育界では、肝心の子供たちではなく、教員や教育委員会のために平気でルールを破ることが常態化しており、いじめの実態は隠されたままだ。ここ3年間、県教委に重大事態の報告は1件も上がっておらず、ある関係者は「市町村の教育委員委員会で止まっている」と断言する。つまり、「腐っている」ということだ。

市教委がどう言い逃れしようと、報じてきた2件のいじめ事案について、学校や市教委が間違いを犯したことは事実。その証拠に市教委は自ら、小学校の事案については「重大事態」と改めて認定し、伊敷中のケースについても第三者委員会で検証することを決めている。「なかったこと」が「あったこと」として認められたわけだが、問題は、その後の市教委の姿勢である。

■「ごめんなさい」が聞こえない

市教委が会議を開いて、2件のいじめのうち小学校のいじめを重大事態に認定し、伊敷中の事案と共に第三者委員会において調査に入ることを決めたのは今月3日。それから2週間も経つというのに、いじめを受けた上に、学校や市教委にも裏切られた子供とその保護者に、謝罪した関係者は一人もいない。市教委は、知らん顔なのだ。

人や組織が間違いを犯した時には、「素直にあやまる」ということを教えるのが、教育の使命だろう。学校でも家庭でも、悪いことをした子供には「あやまりなさい」と指導する。市教委や学校が大きな間違いを犯したのは、言い逃れのできない事実なのに、鹿児島市教委には謝る気配さえない。それで本当に平気なのか?

想像してほしい。いじめを受けた子供が、その最中に、どれだけ心に傷を負っていたか――。

想像してほしい。いじめを受けていた子供が、担任や校長に助けてもらえず、絶望した時の心境を――。

想像して欲しい。いじめを受けた子供が、そのことを「なかったこと」にされたと知った時の衝撃を――。

それでも謝罪しない、想像もできないというのなら、鹿児島市教委に人を指導する資格はあるまい。主役であるはずの子供に寄り添わず、自分たちの体面や保身を第一にしてきた結果が、現在の騒ぎなのだ。自省もできず、人として当たり前の「ごめんなさい」が言えないのなら、教育長以下、辞職して教育界を去るべきである。

ある市関係者が、懸念を口にした。
「小学校のケースは重大事態だったが、伊敷中のいじめは重大事態ではなかったという結論を出したい連中がいる。ハンターが暴いた2件のいじめが両方とも重大事態だったら、組織的ないじめの隠蔽が確実になるからだろう。他のいじめ事案も、検証し直せという話になりかねない。伊敷中の当時の校長が、県教委の次長だったということも忘れてはならない。悪しき体質は、そう簡単には改善されないはずだ」――これが現実にならないことを、祈るしかない。

ドラマ「イチケイのカラス」のカラスとは、神話に出てくる八咫烏(やたがらす))のことだという。八咫烏は“導き”の象徴だ。鹿児島の教育界に、カラスはいるのだろうか。

(中願寺純隆)

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