ここ20年でスーツへの平均支出額が半減しているという。スーツ冬の時代だ。背景にはビジネスシーンでの衣服のカジュアル化があるだろう。そんなスーツ業界大手の「AOKI」に転換期がやってきている。同社のネットカフェ事業が好調で、本業に取って代わるのもそう遠い話ではなさそうだ。
紳士服のAOKIよりも「ネットカフェのAOKI」?
昨年末発表された2020年3月期のAOKIホールディングスの業績見通しによれば、ネットカフェやカラオケ店といったエンターテイメント事業の営業利益が、本業のファッション事業を上回るという。
当初、100店と見込んでいたマンガ、雑誌、インターネットを楽しめる「快活CLUB」の出店計画を、130店に引き上げており、選択と集中による業態チェンジが進む。縮小する紳士服市場から店舗を急拡大させる成長分野へと、大きく舵を切ることになりそうだ。
AOKIホールディングスグループが手掛ける事業は、主に紳士服を代表とするファッション事業、ハウスウエディングを手掛けるブライダル事業、複合カフェやカラオケ店運営のエンターテイメント事業に大別される。紳士服で事業拡大してきた同社だが、近年の業績を見ると、その分野では苦戦を強いられている。下は、グループ全体の業績だ。
【エクセル業績推移】
グループ売上高は減収基調ながら1900億円台を維持しているものの、利益率の低下に歯止めがかからない状況にある。営業利益で比べてみると、2019年3月期は15年3月期の約70%で、同じ比較で当期利益では約45%まで利幅が縮小している。
明らかに利益率が落ちているが、その理由はなにか。
【利益比較】
*単位:百万円
各セグメントごとの収益状況を確認すれば一目瞭然だ。ファッション事業では利益の確保が難しくなっており、赤字部門となっている。一方、エンタメ事業は店舗展開が進み、売上高も拡大しており、利益率で言えば最大。
今後の資源の投下先は自ずとエンタメに向かっていく。
【店舗数比較】
*1スーツ新業態
*2フィットネスジム含めたエンタメ合計
ニーズに則した事業展開を社員は理解を示せるか
店舗の撤退数と出店数を比較しても撤退の進むファッションに対し、エンタメは出店攻勢が続く。今はまだ「紳士服のAOKI」で勝負できているが、将来的にはエンタメ企業として、「ネットカフェのAOKI」になる可能性もある。
ネットカフェの進化は凄まじい。入店すれば、マンガに最新刊の雑誌、ネットゲームに動画、テレビ、さらにはダーツなどを楽しめるほか、ドリンク飲み放題は当たり前、シャワーを備えてしいる店舗さえある。
関東地方でシェアの高いカスタマカフェでは、完全個室、大浴場付きの新ブランドを投入している。ネットカフェを超え、ホテルをも凌ぐ環境を備えているということだ。事業展開力のあるAOKIが、従業員を多く必要としないこうした業態に舵を切る理由は揃っている。