内閣改造でも見えない先行き|迫る「裏金Xデー」

自民党安倍派(清和会)のパーティー券キックバック問題を受け、岸田文雄首相は14日、内閣改造に踏み切り同派の松野博一前官房長官、西村康稔前経産相、宮下一郎前農相、鈴木淳司前総務相を交代させた。

官房長官には林芳正氏前外相、経産相には斎藤健元法相、農相には坂本哲志元地方創生担当相、総務相には、松本剛明前総務相を充て、難局を乗り切る構えだ。しかし、世論も先行きも、厳しいと言わざるを得ない。

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13日、臨時国会の閉幕を受けて記者会見に臨んだ岸田首相は、「国民の信頼なくして政治の安定はありません。火の玉となって、自民党の先頭に立ち取り組みたい」と決意を述べたが、「政治とカネ」の問題に具体的な策や言及はなかった。

「気合だけでなんとか信頼回復しようとしているが、徒手空拳と言われても仕方ない内容。ただ、安倍派5人衆に加え副大臣まで切り捨てたので、人事をやるだけで精一杯だったのでしょう」そう語るのは、岸田派の国会議員だ。

党内では「内閣総辞職やむなし」という強い声もある中で、安倍派だけを切って乗り切ろうという岸田首相の姿勢には「うち(安倍派)だけじゃなく他の派閥もやっている。岸田派だって不記載があり調べられている。それなら総辞職してきれいさっぱりやればよかった」と安倍派の議員からは不満が漏れる。しかし、岸田首相は「安倍派切り」だけで乗り切ろうとしている模様だ。人事の注目は、林氏の官房長官起用である。

今年9月の内閣改造では、外相留任が有力視された林氏を「派閥の仕事に専念してほしい」として、同じ岸田派の上川陽子氏に代えた。しかし3か月ほどで、今度は官房長官という外相以上の要職につけた形だ。ある自民党の大臣経験者がこう話す。
「林さんが力をつけると、当然、岸田総理の地位をおびやかすようになる。上川氏に外相を経験させて競わせれば、バランスもとれると踏んでいたんだろう。背後には岸田総理の後見人の一人、麻生太郎副総裁の影もあるね」

キングメーカー然として、隠然たる力を発揮する麻生氏。そのライバルは、岸田派の元会長でもある古賀誠氏だ。岸田首相と古賀氏の間はギクシャクしているが、林氏と古賀氏は非常に良好とされる。また、林氏が安倍晋三元首相と同じ山口県で激しく争ってきたことも影響しているようだ。

「麻生副総裁には安倍派をはじめ自民党のパーティー券問題が大ごとになるという読みがあった。派閥の事件になれば、会長は動けない。そうなると、暫定のような総理が必要になる。そこで上川さんを外相という要職につけておけば、日本初の女性首相としてワンポイントで使えるカードを握り、最終的に、嫌いな林さんは閣外に追いやるという算段だったのではないか。今後、パーティー券問題が岸田派、麻生派に波及することも十分あり得る。そうなっても政権維持のためにキングメーカーに君臨したいという副総裁ならではの手法だ」(前出・自民党の大臣経験者)

時事通信が行った最新の世論調査では、岸田政権への支持率は17.1 %(前回より-4.2)、「支持しない」が58.2 %(前回より+4.9)と落ち込み、20%の危険水域を超えた。政党支持率でも、自民党は 18.3 %(前回より-0.8)にまで下落している。

内閣改造では、国民的な人気が高い小泉進次郎元環境相や石破茂元幹事長らの登用があるのではと注目された。しかし、メンバーは“身内”の林氏をはじめ、経験者ばかりで斬新さは皆無。解散総選挙になれば、政権交代があってもおかしくない状況となっている。来年9月の自民党総裁選を待たずに「岸田おろし」が始まる可能性さえある。しかし、一方では別の見方もある。

「安倍派の議員と話して一致したのは、『岸田おろしがあっても後をやる人がいない』という点でした」と岸田派の国会議員。あまりの低迷ぶりに、岸田首相の後継に手を挙げる人が誰もいないというのだ。そうなると、支持率10%台のまま、低空飛行で安定という不思議な事態となる。

安倍派は、今年9月頃からパーティー券の問題を把握していた。萩生田氏、西村氏らは早々に弁護士と相談を重ね、東京地検特捜部の動きを警戒していたほどだ。本当なら、いち早く危機を察知して動かなければならないのは官邸。しかし、情報はまったく上がらなかったという。原因は、「警察官僚出身の栗生俊一官房副長官にある」とした上で、ある官邸関係者が言葉を重ねる。
「栗生副長官は、前検事総長でジャニーズ問題では第三者委員会をとりまとめた林真琴弁護士と東京大学法学部の同期で昵懇の仲。その一方で、警察官僚時代から検察とはぶつかることが多く『検察が事件をつぶす』などと公言し、関係がよくなかった。本来、栗生副長官が特捜部の動きを察知して早めの対応をしてれば、ここまでまずいことにはなっていなかった。このままだと、複数の議員がバッジを失い、岸田首相はさらなるバッシングを食らう。栗生副長官の不甲斐なさがボディーブローのように効いてきている」

12月14日、特捜部は柿沢未途衆議院議員の公職選挙法違反事件で、強制捜査に入った。パーティー券問題で安倍派の関係先に家宅捜索する「Xデー」も遠くない。「適材適所」を繰り返し述べてきた岸田首相だが、閣内だけでなく側近にも恵まれなかったようだ。

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