落日の安倍派|東京地検特捜部が狙うのは・・・

東京地検特捜部が手掛ける自民党安倍派=清和会を中心とするパーティー券キックバック事件。「政治とカネ」の問題を象徴すると言われてきたリクルート事件の再来を指摘する声さえ上がる状況だ。安倍派を中心に、自民党各派の議員たちに異常な緊張感が漂っている。

◇   ◇   ◇

「いよいよ特捜の家宅捜索か」――そんな情報が永田町で出回ったのは、13日午後のことだった。この日で臨時国会が閉会。岸田文雄首相が「安倍派排除」の内閣改造と自民党役員人事が本格化したタイミングだったので「派閥の事務所にガサ(家宅捜索)がきたら、議員会館にも来るかもと緊張した」と安倍派に所属する衆院議員の秘書を務めるAさんが深刻そうに語る。

結果的にはまったくのデマだったが、実はAさん、すでに特捜部から事情を聞かれていた。
「昔、選挙違反を疑われて警察で事情聴取を受けたことがありますが、特捜部の捜査や事情聴取は警察の比ではありません。証拠をガッチリつかんでいて、小出しにしながら聞いてきます。いい加減に答えると調べ検事の顔色がかわり『きちんと思い出して』ときつく言われました」

検事調べの様子を振り返りながら、こうも話す。
「検事は『このパーティーの時のキックバックは覚えているか』『いくらパーティー券を売ったんだ』と畳み掛けてくる。向こうの手にはもう派閥(安倍派)の資料があるんです。適当なキックバックの金額なんていえる雰囲気ではない」

しかし、冒頭に述べたようにまだ安倍派をはじめとする、パーティー券キックバック事件で家宅捜索は行われていない。それなのになぜ、特捜部は安倍派の資料をがっちりとキープしているのか?その舞台裏について安倍派のある議員が、肩を落としながら次のように解説する。
「10月だったかな、安倍派の会計責任者が特捜部から呼ばれたんです。その当時は岸田派など他の派閥にも事情聴取が行われていたようです。そこでうちの会計責任者が下手を売った。特捜部は派閥の会計がわかる銀行通帳などを提出するよう求めたんですが、なぜか会計責任者は通帳以外の、派閥にある一切合切の資料を特捜部に持参してしまったんです。『公明正大に会計をやっている』と主張したつもりが、そこには派閥のキックバックリストまで入っていたというわけです」

一方、別の派閥の会計担当者は「特捜部から話を聞きたいと連絡がありました。派閥の会計がわかる銀行の通帳をといわれて持参しました。けど通帳記入が数日前で止まっていたので、新しく記帳をと指摘されました。その次の聴取には記帳して持って行きました。弁護士にも事前にアドバイスをもらい、時間稼ぎをやった形です。もちろん、特捜部はとっくに派閥の銀行口座なんて洗っているんですよ。けど、帳簿やリストは強制捜査でようやく押収されるもの。安倍派は、それを先に持って行くから捜査がすごい速さで進んだんじゃないでしょうか」と打ち明ける。

確かに、安倍派以外の派閥に対する捜査のスピードはかなりスローになったともいわれる。安倍派の政治資金収支報告書によれば、会計責任者はMと言う人物。これまで派閥の会計責任者と言えば、自民党の政務調査役経験者が多く、安倍派もそうだったが、M氏は元元NTTの社員。帯広支店長などを歴任した後に、安倍派の事務局に採用されたという。「安倍派5人衆」の中の一人で、NTT出身でもある世耕弘成参議院議員がリクルートしたという。

「Mは帯広支店長時代、例えばメガバンクや商社の支店長などが集まる『おびひろ会』の取りまとめ役をしていました。地元のラジオ番組にゲスト出演するなど目立つのが好きで、『選挙に出るのでは』とも言われていたほど。NTTから関連会社に天下っていた時に世耕さんからリクルートがあったと聞いています。NTTでは財務畑を歩んだことで、『会計には誰よりも詳しい』と自慢していたそうです。しかし、政治の会計にはまったく疎く、政治資金収支報告書をまったく理解していない。特捜部にいきなりすべての資料を持参したことがこのスピードでの捜査につながり、やばいことになっています。Mはいつも『事務総長にOKをもらっている』などと態度がでかくて不評でした。いわば政治の素人。世さんがMを連れてきたことが大きな失敗です」(前出の安倍派議員)

だが今日の事態は、パーティー券販売にノルマを課し、キックバック分を裏金化するという違法行為を20年以上も続けてきた安倍派の遵法意識のなさが招いた結果だ。キックバックの「高額者リスト」に名前が載っているのは、大野泰正参議院議員、池田佳隆衆議院議員、谷川弥一衆議院議員に加えて「安倍派5人衆」の松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長、世耕弘成参院幹事長、西村康稔経済産業相、萩生田光一政調会長ら多数。橋本聖子元五輪担当相、塩谷立安倍派座長など他の有力者の名前も並んでおり、「うちの議員にも特捜部から事情聴取の打診が来ている」と打ち明ける秘書もいる。インタビューに「頭が悪い」と連呼して叩かれている谷川氏や、大野氏らは真っ先に出頭要請となりそうだ。

清和会の歴代会長は、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三など首相経験者ばかり。その名門派閥・安倍派からは30人以上の議員が特捜部に出向くとみられている。

「特捜部は、政治資金収支報告書の不記載でバッジをとる(逮捕の意)でしょう。立件された議員は、結果的に議員を失職し、罰金数十万円と公民権停止になる可能性がある。ただし、特捜部が勝負をかけようとしているのは安倍派の歴代事務総長。すでにこれまでの調べで、事務総長が政治資金収支報告書への不記載を了承していたという証言が複数集まっており、供述調書にもなっているようです。派閥幹部をやらないと、不完全燃焼になりかねない。特捜部が歴代の安倍派事務総長までとどりつけるかどうか、この事件はそこにかかっている」(東京地検特捜部OBの弁護士)

この5年間の安倍派事務総長は、新しい順に、高木氏、西村氏、松野氏、元政調会長の下村博文氏。いずれも大物だ。特捜部はどの事務総長を狙うのだろうか。

 

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