今月13日、岸田文雄首相は内閣改造と自民党の党役員人事を断行。第2次岸田再改造改造内閣を発足させた。内閣改造は、19のポストのうち11人が初入閣。フレッシュさを演出しようとしたのだろうが、骨格を変えすに派閥の論理を優先したため、世論調査の結果は、ご祝儀相場にはなっていない。

次の総理をうかがう松野博一官房長官、高市早苗経済安全担当相、河野太郎デジタル担当相、西村康稔経産相は留任。党役員人事でも、茂木敏允幹事長、萩生田光一政調会長が続投で、安倍派5人衆の一角、高木毅国対委員長もそのままだ。

自民党の大臣経験者は、「岸田総理の頭には、来年秋の自民党総裁選でどうすれば勝てるか――それしかない。岸田派は派閥で言えば4番目。最大派閥の安倍派に茂木派、麻生派に媚びた結果の賜物です」と話す。

岸田首相は、内閣改造について事あるごとに「適材適所で」と述べていた。しかし、総裁選を優先した結果、主流派の派閥の意向を最大限に反映させるという適材適所には程遠い改造となった。とりわけ、岸田首相のライバルとして総裁選出馬を目論む高市氏、河野氏、茂木氏という3人を、内閣と党役員に取り込むことで総裁選の「無投票」を狙ったのではないかともみられている。

■極右のヒロインは再任

高市氏は、2021年の自民党総裁選で岸田首相に次いで2位となり一躍注目を浴びた。安倍晋三元首相の後ろ盾もあり、保守層からの人気も高く、政調会長から経済安全保障担当相へと要職を歩んできた。だが、岸田首相と折り合いが悪いのは周知の通り。昨年12月、X(旧ツイッター)に《普段は出席の声がかかる一昨日の政府与党連絡会議には、私も西村経済産業大臣も呼ばれませんでした。国家安全保障戦略には経済安全保障や宇宙など私の坦務分野も入るのに。その席で、総理から突然の増税発言。反論の場も無いのかと、驚きました》と書き込んだ。西村氏は、この件になんら異論を唱えていない。

高市氏はその後、「閣僚の任命権は、それは総理にございますので、罷免されるということであるなら、それはそれで仕方がない」と開き直る始末。これには党内からも「辞めたいならさっさと辞表を出せばいい」「何様のつもりだ」といった批判の声が上がった。

昨年8月の内閣改造で経済安全保障担当相に留任するよう告げられると、再びXに《組閣前夜に岸田総理から入閣要請のお電話を頂いた時には、優秀な小林鷹之大臣の留任をお願いするとともに、21年前の掲載誌についても報告を致しました。翌日は入閣の変更が無かったことに戸惑い、今も辛い気持ちで一杯です》とポストに不満があるような一文を投稿していた。まさに“暴走”続きの極右ヒロインだ。

■失態続きの河野氏も閣内残留

デジタル担当相としてマイナンバーでは失態が続いた河野氏も再任された。その河野氏を「アニキ」として頼っていた衆議院議員の秋本真利容疑者は、9月に受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕されている。

秋本容疑者が、再生可能エネルギー業界――とりわけ洋上風力発電の業者に顔が利いたのは、「脱原発推進の河野さんが後ろにいたからだ」と語るのは前出の大臣経験者。「高市さんは入閣を辞退するんじゃないかという話まであったが、あっさりと留任を受け入れた。安倍元首相という後ろ盾がいなくなので、無役になると相手にされなくなるからね。秋本(容疑者)のバックに、脱原発推進の河野がいたことはことは誰もが知っていた。その威光で業界からカネを集めていたんだから。河野まで捕まるようなことはないが、彼は秋本を溺愛しており、道義的責任は免れないと思っていたんだが、何故か(閣内に)残った」

■総裁選に暗雲

もう一人、注目されていたのが茂木幹事長だ。岸田首相より年長なので、来年の自民党総裁選がラストチャンスになりそうだ。要職を外れて総裁選にシフトするのではともみられていたが、幹事長に再任。首相を支える姿勢を続けざるを得ない。しかも、党4役に小渕優子選対委員長が入ったことで、茂木派内の権力構造に変化が起きそうな状況だ。

故小渕恵三元首相を父に持つ小渕氏は2008年、当時の麻生政権において史上最年少で初入閣。女性初の総理候補として期待されてきた。茂木派の国会議員が苦笑しながらこう解説する。
「同じ派閥の小渕さんが選対委員長に抜擢されたことに、茂木会長はムッとしています。監視役を置かれたも同然ですからね。2度の閣僚経験に党4役の経験となれば、小渕さんも総裁候補になる実績を積んだことになる。総裁選に出たくて仕方ない茂木会長ですが、党内どころか派閥でも人望がないことで有名。茂木さんが“総裁選出馬”を宣言したところで、全員がついていくか疑問です。今でも『茂木より小渕で』という声があがっているほどで、いずれ派閥が割れるのは必至ですよ。岸田首相はそれを見越してうまくやった」

会長が決まらない安倍派で、総裁選出馬を最も狙っているとされる西村氏も経産相でそのまま。自民党の幹部は「西村さんは“そろそろ党役員か官房長官を”と熱望していたようですが、確かに彼は重要閣僚や党役員の経験がないんです。経産相とその前は経済再生担当相。これでは総裁選に出る資格がない。それに、安倍派の会長でもないから、いくら出たいと言っても相手にされません」と突き放す。

あまりに新鮮味がない内閣改造と党役員人事。岸田首相は、政権浮揚に結びつけたかったのだろうが、報道各社の世論調査はいずれも渋い結果。岸田首相は戦略に狂いが生じている。

 

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