消えた寄附金150万円|西田正治筑後市長に政治資金規正法違反の疑い

 福岡県筑後市の西田正治市長が、2017年(平成29年)に行われた筑後市長選を前に支援してくれた市議会議員団から受けた寄附計150万円を、後援団体の政治金収支報告書に記載していなかったことが明らかとなった。

 政治資金規正法が禁じる不記載もしくは虚偽記載に当たる可能性が高く、市議会や市民から説明を求める声が上がりそうだ。

■消えた150万円

 西田市長に寄附した市議は15人。ハンターの取材に対し、複数の市議、元市議が、それぞれ10万円ずつ計150万円を市長側に寄附したことを認めている。

 有力議員の発案で決まったという寄附は、副市長だった西田氏が辞職し市長選出馬を決めた2017年の9月から10月にかけて実行に移され、西田氏を推薦した15人の市議全員が現金10万円を西田氏側に渡していた。ある関係者は、「市議が市長に活動資金を提供するという異例の話だったが、市長選に名乗りを上げる候補者がいない中、出馬を承諾してくれた西田氏に対し、推薦した市議団の決意を示す意味があった」と話しており、全員が寄附の趣旨に賛同していたという。

 市議らは、元市職員で選対事務局長を務めていた男性などに現金を手渡ししたが、別の関係者は「10万は少なくない額。市議団の好意であり、もちろん西田市長も(寄附の事実を)知っていた」と証言している。

 市長選は西田氏の他に立候補者がなく、同氏が無投票で初当選。選挙運動が行われたのは告示日の11月12日だけだった。

 西田陣営が筑後市選管に提出した選挙運動費用収支報告書によれば、陣営の収入は310万円(*下が報告書の写し)。全額西田氏の自己資金で賄われた形になっており、市議団の寄附150万円の記載はない。

 市議団からの150万円が選挙に対する寄附でなかったとすれば、記載される可能性があるのは政治団体の収支報告書だけだ。政治資金の受け皿となり得る西田氏の関連政治団体は、福岡県選挙管理委員会届出の「西田せいじ後援会」のみ。県選管に同団体が提出した2017年分の政治資金収支報告書を確認したところ、収入は「0」となっていた。(*下の報告書参照)

 市長選の選挙運動費用収支報告書にも、西田せいじ後援会の政治資金収支報告書にも、市議団からの150万円は収入としてカウントされていない。つまり、西田氏側に寄附された150万円が消えた格好だ

■収入・支出「0」はあり得ない政治資金収支報告書

 では、市議団からの150万円を記載すべき「報告書」は、公職選挙法が規定する選挙運動費用収支報告書なのか、あるいは政治資金規正法が規定する政治資金収支報告書なのか――。その疑問に対する答えを出しておきたい。

 西田氏は出馬表明後、後援会事務所を設置して活動を開始。市内の有権者向けに後援会リーフレットなどを作成して配布するなど、活発に動いていた(*下が西田後援会のリーフレット)。

 残された印刷物や関係者の証言などから、後援会活動が行われたことは確か。活動に見合う支出とそれを賄う「収入」があったはずだが、西田せいじ後援会の収支報告書には「0」が並んでいる。あったはずの支出とそれに見合う収入のすべてを、意図的に隠したとみることも可能だが、活動実態から判断すれば、市議団からの寄附150万円は政治資金規正法が規定する「政治資金収支報告書」に記載されていなければならないことになる。オール『0』はあり得ない。

 前掲の政治資金収支報告書の表紙に明記されている通り、「西田せいじ後援会」の代表者は西田市長本人、会計処理の責任を問われる会計責任者も市長本人であるため、西田氏に直接話を聞いた。以下、その概要である。

■とぼける市長――「覚えていない」

――市長が代表者と会計責任者を兼任している西田せいじ後援会のことで聞きたい。
西田市長:はい。

――前回の市長選の時に、市会議員15名から、それぞれ10万ずつ計150万円の寄附があったと思うが?
西田市長:それが何ですか?

――どのように会計処理したか?
西田市長:はい?

――政治資金収支報告書にも選挙の収支報告書にもは一切出てこないが?
西田市長:……覚えてない。

――不記載ということでいいか?
西田市長:覚えてない。

――覚えてないはずがない。
西田市長:うんうん。

――10万ずつ15人。寄附した側が認めている。
西田市長:ああ、そうですか。

――市長は覚えていない?
西田市長:はい。

――会計帳簿があるはずだが?
西田市長:おぼえて、覚えてないですね。

――会計帳簿はあるか?
西田市長:もうないですね。はい。

――もうない?
西田市長:はい。

――3年間保存の義務がある。
西田市長:いや、調べてみなきゃわからん。はい。

――帳簿はあるのか、ないのか?
西田市長:そうですね。だけん、あの、今の帳簿はですよ……。

――市長の後援会の帳簿だ。
西田市長:市長選の頃は、まだ後援会ができとらんやったもん。

――そんなはずはない。後援会のリーフレットを作っている。
西田市長:途中からできとるけん。

――市長選のあった年の後援会の帳簿だ。
西田市長:はいはい。その年の。うんうんうん。

――収支報告書を選管に出したはずだ。
西田市長:出してますよ。

――市長の後援会で印刷物を作っていた。
西田市長:……はい。

――その印刷物の支出の記載もないが?
西田市長:うん。

――市長選のあった年、西田せいじ後援会の印刷物とか事務所開きなどの支出があったはずだが、一円も出て来てこない。
西田市長:はいはい。

――つまり、不記載ということだ。
西田市長:はい、そうです。

――もう一度聞くが、15人の市会議員から受10万ずつ受けた寄附は、どこに消えたのか?
西田市長:15人かどうかすら、分からんばってんですね。

――複数が、あなたを推薦した15人全員と証言しているが。
西田市長:ああそうですか。

――そのカネはどうしたのか?
西田市長:覚えてないじゃ。

――覚えてないはずない。
西田市長:はい。うん。

―――覚えてないなどと、寄附した人に失礼だ。言っていいことと悪いことがある。
西田市長:いやいやいや、そういっても、覚えてないもんは、覚えてないけんですね。

――本当に覚えていない?
西田市長:はい。覚えてないですね。

――市長が選挙の時に使ったのが310万。
西田市長:はいはい。

――全額自己資金か?
西田市長:はい、自己資金ですね。私のお金ですよ。

――問題の150万とは関係ないのか?
西田市長:はい。ないですね。

―――すると150万はどこに消えたのか?
西田市長:いや、そりゃ知らーん。どげんしたやろかと思って。

――どげんしたやろか?他人事ではないはずだ。
西田市長:いえいえ、私がどげんしたやろかっち思って。

――市長がもらったカネのこと。覚えていないはずがない。
西田市長:すみません、ちょっと議会が始まりますので。すみませんけど。はい。すみません。

 「覚えてない」の一点張りで、とぼける市長。しかし、記者が話を聞いた関係者の中で「覚えていない」「記憶にない」といった曖昧な話をした人は一人もいない。市長の「私がどげんしたやろかっち思って」(私が、その150万円をどうしたのかと思って)に至っては、お粗末すぎて開いた口が塞がらない。150万円もの寄附をもらいながら、その行方が分からないという人物に、市長を続ける資格はあるまい。

 法が備え付けと3年間保存(収支報告書の要旨が公表された日から3年。今回の場合なら来年の11月末)を義務付けている会計帳簿についても、「ない」と断言したり「調べてみなきゃわからん」と言い出したりで、ごまかそうと懸命だ。帳簿があれば、後援会リーフレットを作成した際の支出も、市議団からの寄附150万円も、収支報告書に転記されていたはず。それが報告書に記載されていないとなれば、帳簿がないか、あるいは意図的に隠したかのどちらかということになる。

 政治資金規正法は、その年に発生した政治団体の全ての収入と支出を「会計帳簿」に記載した上で、所定のルールに従って「政治資金収支報告書」に転記し、都道府県選管(全国団体は総務省)に提出するよう定めている。実際にあった支出や市議団からの寄附150万円を隠した西田市長の行為は、政治資金規正法上の不記載、もしくは虚偽記載に当たる可能性が高い。違法性が認められた場合、5年以下の禁錮または100万円以下の罰金となる。

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