2019年7月に起きた首相演説ヤジ排除事件で、北海道警察を相手どる国家賠償請求訴訟を上告中の一審原告が9月16日、ジャーナリストの青木理さんらを招いて札幌市内でトークイベントを開いた。排除事件を改めて振り返りながら警察国家化に警鐘を鳴らす公開討論に、市内外から足を運んだ約200人の参加者が熱心に聴き入った。
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イベント「青木理氏と道警ヤジ排除を語る」を主催したのは、国賠原告や訴訟支援者らで作る「ヤジポイの会」。首相演説の現場でヤジやプラカードなどを排除したのが警備公安部門の警察官たちだったことから、公安の問題に詳しい青木さんをまじえてヤジ排除事件の背後にある政権と警察の関係などを読み解いていこうと企画した。併せて、国賠一審原告の大杉雅栄さん(35)と桃井希生さん(28)が改めて事件の経緯を振り返りつつ裁判の進捗を報告、また国賠弁護団の竹信航介弁護士(札幌弁護士会)がこれまでの札幌地裁・高裁での双方の主張や判決について解説した。
登壇者が一堂に会したパネルディスカッションでは、青木さんが「ヤジ排除の先にあるのは息苦しい、戦時体制のような社会」と問題の根深さを訴え、排除事件の背景について次のような見方を示した。
「安倍政権はよく『経産政権』とか言われてましたが、実を言うと戦後の政権の中でも極度に顕著な『警察政権』でもあったんです。官房副長官や内閣人事局長、国家安全保障局の事務局長などに警察官僚が就き、官僚の間に萎縮・忖度の空気が拡がった。ヤジ排除にもこれが影響していたんじゃないか。つまり官邸から現場へ直接、排除の指示が出たのではなく、警察庁あるいは北海道警で過剰な忖度が起きたのではないかと」
これを受けた排除被害者の桃井さんは「道警や与党の政治家とかは『ヤジは迷惑』と繰り返すばかりで、地裁・高裁の違法認定をまったく意に介していないのがすごく恐ろしい」と語り、同じく大杉さんは「公安は不気味だし嫌だけれど、あまり気にし過ぎるとかえって彼らの思う壷。意識するあまり萎縮していては理想的な社会に近づけないと思う」と話した。約2時間にわたる討論に会場からはたびたび拍手が起こり、青木さんが「この会場にも公安が監視に来ていると思いますが、上司へは正確な報告を」と笑わせると、ヤジポイスタッフらも「公安の人もぜひ訴訟費用のカンパにご協力を」と呼びかけた。
ヤジ排除国賠訴訟は一審・札幌地裁の原告全面勝訴判決、二審・札幌高裁の一部逆転敗訴判決を経て現在、当事者双方が上告申し立て中。発生から丸4年以上を経た事件をめぐっては、継続的に取材を重ねてきた地元民放HBCが制作したドキュメンタリー『ヤジと民主主義 劇場拡大版』が12月9日に首都圏や札幌などの劇場で封切られることになっている。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |